第 28 話。 堪忍袋の緒が切れた若様。
「伝令で~す、総司令に山賀より大至急の書状をお届けに参りました。」
山賀の家臣が野洲に付いたのが闇夜の子の刻で勿論、お城の執務室には源三郎はおらず、仕方無く駐屯地へと向かった。
「この様な刻限に誠に申し訳御座いませんが、工藤中佐殿は。」
「どちら様で御座いましょうか。」
「私は山賀の家臣で源三郎様に大至急書状をお届けする様にと、今着いたのですが。」
「分かりました、誰か大至急中佐殿に知らせて下さい。」
駐屯地の当番兵は大急ぎで工藤の元へと走り、伝え聞いた工藤が家臣に話を聴くと。
「総司令はご自宅に居られますので、今から参りましょう。」
と、工藤と家臣は馬で源三郎の自宅へと向かった。
「ドン、ドン、ドン。」
と、工藤は源三郎宅の門を叩き。
「総司令、工藤です、この様な刻限に誠に申し訳御座いませんが、大至急お話しせねばなりません事が。」
「源三郎様。」
「雪乃殿、申し訳御座いませんが。」
「はい、全て整っておりますのでご心配御座いませぬ。」
さすがに雪乃だ、源三郎は何も言わないが、工藤がこの様な刻限に表門を叩くと言う事は余程急な用事だと推察出来る。
源三郎は身支度を簡単に済ませると直ぐに向かった。
「工藤さん、えっ、ご貴殿は。」
「はい、私は若様より大至急にお届けせよと、これが書状で御座います。」
「分かりました、さぁ~中にお入り下さい。」
工藤と家臣は源三郎の書斎へと入り、直ぐ雪乃がお茶を持って来た。
「奥方様、大変申し訳御座いません、この様な刻限に。」
家臣は頭を下げた。
「いいえ、その様な事は其れよりもお疲れだと思いますので、この様な物で申し訳御座いませぬがお腹の足しにと思いましたので、どうかお召し上がり下さい。」
雪乃はこの頃、源三郎が疲れて要ると思い身体の為にと雑炊を作って置いた。
「奥方様、誠に有り難き事で御座います。」
家臣は雑炊を食べ始め、源三郎は若様からの書状を読んだ。
「雪乃殿、明け前に出立しますので支度をお願いします。」
雪乃は何も聞かず直ぐ支度を始めた。
「総司令、これは一体。」
工藤も大変驚き様だ。
「ご貴殿はその場で話を聞かれておられたのですか。」
「はい、私も最初は全く信じる事が出来なかったのですが、若様は何としても探し出し官軍兵にはこの様で一番恐ろしい方法で始末すると申されておられました。」
「そうですか、若様がねぇ~。」
源三郎は若様がこの世で一番恐ろしい方法で始末すると、やはり簡単に済ます事は出来ないと思った。
「二個中隊を連れ山賀に参りましょう。」
さすがに今度ばかりは許す事は出来ないと、其れは工藤も同じだ。
「総司令、私もご一緒させて頂きます。」
「やはり工藤さんも同じ思いですか。」
「勿論で御座います、これは戦では御座いません、私も元官軍兵では御座いますが、官軍の司令部がこの様な残虐行為を命令するとは到底考えられ無いのです。」
工藤は幾ら幕府軍との戦争だと言っても官軍の司令部が、女は犯し、子供共々焼き殺せと、その様な残虐行為の命令を出すとは思っていない。
「総司令、私は隊に戻ります。」
と、工藤は急ぎ駐屯地へと戻って行く。
「ご貴殿は我が家でお休み下さい。」
「総司令、誠に申し訳御座いませぬ、私もご一緒させて頂きたいので御座います。」
山賀の家臣も話を聴いており、とてもゆっくりと休みを取れるとは考えていない。
「そうですか、では私と一緒に参りましょう。」
其の少し前、山賀を早馬で飛び出した家臣は松川の斉藤、上田の阿波野にも同じ書状を届け、松川からは若殿と斉藤、上田からは阿波野が早朝に出立する事に、そして、一番最後には菊池の高野へと書状が届き、高野も夜明け前に出立する事になった。
「吉田少佐を大至急呼んで下さい。」
当番兵は工藤の表情がまるで鬼の様な顔付きに一瞬身体が引き攣り、それ程にも恐ろしい顔をしており、慌てて吉田の元へと走り暫くして吉田が飛んで来た。
「中佐殿。」
「吉田、寝てるところすまん。」
「いいえ、当番兵は中佐殿の顔が鬼の様に恐ろしいと。」
「そうですか、では私もまだまだ修行が足りないと言う事なのか、其れよりも先程山賀の若様から総司令に書状が届き。」
工藤は書状の内容を話すと。
「陽の昇る前に出立しますので、第一、第二中隊の中隊長と小隊長を呼んで下さい。」
話しを聴いた吉田はこれは戦では無い官軍の名を借りた虐殺だ絶対に許す事は、いや奴らを簡単な処罰で終わらす事はどんな事が有ってもならない、生き地獄を味合わせてやる、例え源三郎や工藤が止めろと言っても聞く事は出来ないと次第に怒りが込み上げて来た。
吉田も元官軍兵だ、だが官軍の司令部が虐殺行為を認める事は無く、勿論、戦争だから領民から一人の犠牲者も出ないと言う確信な無い。
だが戦とは全く関係の無い女や子供達を焼き殺すと言う残酷な行為は見逃す事などは絶対に出来ない。
中隊長と小隊長達が工藤の説明を聴き二個中隊の出立準備が完了したのは寅の刻、七ツの少し前で有る。
其の少し前、菊池の高野もまだ暗い道を野洲へ馬を飛ばして要る。
「では参りましょうか。」
源三郎の表情は険しく、其れでも一応平静を保ち、二個中隊の全員が馬に乗り出立したのは寅の刻七つ半で有る。
「お持ち下され。」
「えっ、一体誰でしょうか。」
高野が馬を飛ばして来た。
「一体どうされたのですか。」
「今朝の八の頃、山賀の若様より書状が届き、多分若様の事ですから総司令にも書状を送られて要ると思い、私も直ぐ出立したので御座います。」
高野の思った通りで、今回の書状の内容からすると源三郎の事だ必ず山賀へ向かうと。
「誰か、高野様の馬を。」
高野が乗って来た馬を交代させなければ山賀へは行けないと、それ程まで馬を酷使して要る。
「何か作戦でもお考えなのですか。」
「今は何も考えておりません、ですが山賀に来たと言う侍達の話では山の向こう側には五千人近い官軍兵が集結して要ると、これは多分間違いは無いと思います。
私は官軍の目的を知ってからでも遅くは無いと思って要るのですが私が考えて要る以上に何か大規模な作戦でも行うのでは無いかと思うのです。」
源三郎は官軍が大規模な作戦行動に出ると言った、だが大規模な作戦とは一体どの様な作戦なのか。
「五十名の侍達ですが、家族のいや藩主や領民達の仇を討ちたいと思って要るのでは無いでしょうか。」
「工藤さんも同じ事を考えておられるのですね、私ならば何としても仇を討ちたいと考えますが、官軍兵が何処に潜んで要るのか、別の部隊に紛れ込み誰からも発見される事も無く移動して要るのかも知れません。
私が考えて要るのは多分ですが、向こう側に集結して要る部隊に紛れ込んで要るのでは無いかと考えて要るのです。」
「私も同じ様に考えております。
若しも私がその官軍の指揮官ならば一刻でも早く同じ官軍の、其れも出来るならば大部隊に紛れ込み、数日、いや十数日間は静かに過ごしますがねぇ~。」
高野も同じだと、では一体どの様な方法を使い、五千人近い官軍兵の中から探し出せば良いのか今の源三郎達にも分からない。
今はただ山賀に着き、大川達の話を聴く其れから策を練らなければならないのだ。
野洲を出立し半時程で上田の城下に入ると其処には阿波野が待っており、やはり、阿波野も源三郎は必ず山賀へ向かうと考えていた。
「お待ち致しておりました。」
「阿波野様にも書状が届いていたのですね。」
「はい、山賀より昨日の深夜に、私は総司令の事だ明日の早朝には出立されると考え、此処でお待ちしておりました。」
阿波野も高野と同じ考えで、やはり誰が考えても同じだと、すると松川では斉藤も待って要るはずだ、だが若しかすれば若殿も一緒に山賀へ参ると言うで有ろうと源三郎は考えた。
「では皆様方、少し急ぎましょうか、工藤さん、中隊へも指示を出して下さい。」
「了解しました、中隊も続け。」
源三郎と工藤が先頭に二個中隊は松川へと急いだ。
「やはり総司令が直々のお出ましでしょうかねぇ~。」
「私も義兄上の事ですから必ず陣頭指揮されると思っております。」
松川の若殿も斉藤も源三郎の事だ今回は必ず陣頭指揮すると考えて要る。
源三郎達が松川の城下に近付くと若殿と斉藤が大きく手を振った。
「総司令の思われた通りで、若殿もご一緒に山賀へ向かわれます。」
「まぁ~其れが当然だと考えますねぇ~、山賀の若様は弟君ですから。」
誰もが同じ考えで有り、自身の弟が今一番危険な、いや危機が迫っており、其れならば何を差し置いてでも一番に駆け付ける、其れが当然で有る。
「若殿もご一緒されるのですか。」
「松之介に危険が迫って要るやも知れず、其れに城下の領民も危険だと考えたのです。」
「斉藤様、馬を代え、速足で参りたいので。」
「全て承知致しておりますので。」
大手門前には二個中隊と源三郎達の為に交代の馬が用意されて要る。
源三郎達も少しの休みを取り、そして、山賀へと向かった。
「其れにしても良くも五十名の侍達が無事に山を越えましたねぇ~。」
「若殿、今度の侍達ですが、官軍の情報を少なからず得て要ると私は考えて要るのです。」
「私も義兄上と同じで御座います。
一刻でも早く山賀に着き、その者達から聞きたく思っております。」
「では皆様方、山賀へ急ぎましょう。」
松川を出たのが明け六つの前で、其れから半時程過ぎた頃、北の草場に向かう二個小隊と猟師達を見た。
「総司令。」
「貴方方は何処に向かわれるのですか。」
「はい、自分達は若様から向こう側に向かい、官軍の動向を探る様にと。」
「そうですか、小隊長、申し訳有りませんが、今一度お城へ戻って頂き、改めて作戦を練り直したいのですが宜しいでしょうか。」
「自分達に異論は御座いませんので、では自分達も戻りますので、吾平さんも申し訳有りませんが戻って頂けますか。」
「わしらも源三郎様に従いますので、みんなお城へ戻るぞ。」
そして、源三郎達は山賀の城下に入り、大手門に近付くと。
「あっ、源三郎様だ、誰か若様にお知らせして下さい。」
山賀でも普段は門番がおり、だが今は野洲から源三郎が飛んで来ると思い、吉永は家臣を待機させていた。
「若様、源三郎様が、其れに若殿様もご一緒で御座います。」
「義兄上、お待ち致しておりました。」
「若様、大変お待たせ致しまして申し訳御座いません。」
「いいえ、その様な事は御座いません。
其れよりも皆様方がお待ちで御座いますので、どうぞ。」
源三郎達は執務室へと向かった。
「皆様方、此方が我が連合国の最高司令長官で、私の義兄上でも有ります源三郎様で御座います」
「はっ、はぁ~。」
と、侍達が頭を下げた。
「皆様方、私は源三郎と申します、今後とも宜しくお願い致します。」
「あっ、えっ。」
侍達が頭を挙げると、想像していた寄りも若く、其れよりも全員が農民の着る作業着姿で有る。
「正か貴方様が、大変申し訳御座いません、私は。」
「いいえ、宜しいんですよ、皆様方は総司令官と聞きもっと年配の人物だと思われた思いますが、ですが私は間違い無く源三郎ですよ。」
「皆様方、総司令にはまだ全てを報告しておりませんので、私に話された事でも宜しいので出来る限り詳しくお話しして頂ければ宜しいかと存じます。」
同じ内容を話しても良いと、其れは若様がまだ聞いていない内容も含まれていると考えたからだ。
「源三郎様、失礼致しました、最高司令長官様。」
「大川様と申されましたね、何も気を使う事は有りませんのでね、源三郎とお呼び頂いても宜しいのですよ、皆様方も同じですから、まぁ~余り神経質にならずにお話して頂ければ宜しいのですから。」
何時もの様に平静だが大川達は連合国軍の最高司令長官だと聞いて、心も体も何故か引けている。
「誠に有り難きお言葉で私がお話しさせて頂きます。」
その後、大川達は若様に話したと同じ内容を話すので有る。
「左様で御座いましたか、皆様方はさぞや苦しい思いをされたのですねぇ~。」
大川を始め多くの侍から話を聴き、これは何としても官軍と思われる、いや官軍だと名乗る極悪非道な者達を一刻でも早く見つけ成敗せねば、奴らの行く先々で戦とは関係の無い人達が犠牲になると考えた。
「私はねぇ~その者達は官軍の名を借りた殺人集団だと思います。
どなたか正太さんを、其れと猿軍団を呼んで下さい。」
やはり源三郎は違う、山賀の猿軍団と正太と最初に出会った頃の仲間が必要だと考えた。
「義兄上、猿軍団は理解出来ますが、正太さん達は何故で御座いますか。」
「其れはねぇ~、まぁ~正太さん達が来られてからにしますので。」
「今、申されましたが正太さんとか猿軍団とは一体どの様なお人達なので御座いますか。」
確かに大川が聞いたところで正太や猿軍団とは一体何者なのかと思うのも当然だ。
「正太さん達ですか、そうですねぇ~簡単に申しますと島帰りの人達ですがね。」
「えっ、今島帰りと申されましたが、では犯罪者なのでは。」
「何、犯罪者だと。」
源三郎の表情が一変した、何も知らなければ島帰りとは犯罪者、いや元犯罪者だ、だが山賀では鬼家老の為に何の罪も無い者達が処刑されたり島送りにされた。
「大川様や皆様方に申し上げますが、正太さん達は犯罪者では無く、無実の罪で島送りにされたのです。
正太さん達にはご無理をお願いし、今は若様の片腕として重要な仕事に就いて頂いて要るのです。
皆様方は其の事をわきまえて話を聞いて下さい。」
「大変申し訳御座いませんでした。
何も知らないとは申せ今後は言葉使いには気を付けます。」
「そうですねぇ~、大川様も皆様方も何もご存知無いのですから当然と言えば当然の事でしょうから。」
「今申されましたが、若様の片腕として重要なお仕事をされて要るとのことですが。」
「其のお話しは何れの日に改めて致しますので、其れよりも先程お話しでは偽者の官軍兵は大川様方の前を進んでいたと思いますが、その後の足取りは分からないのですか。」
「何としても知りたいのですが、一体何処に向かって要るのかも分からないのです。」
「そうですか、其れと向こう側には四千から五千人の官軍兵が集結して要ると申されましたが官軍に大砲は何門有るのか分かりませんか。」
「大砲ですか、私は見た事は有りませんが、誰か見た者は無いか。」
「源三郎様に申し上げます、官軍ですが大砲などは持っておりませんでした。」
「其れは誠ですか。」
「はい、誠で御座います、幕府軍でも官軍でも大砲は馬に引かせ、何処から見ても直ぐに分かりますので、私も其れだけは自信を持っております。」
「あの~源三郎様、私も細川殿も同じで大砲は一門も見ておりません。」
源三郎は何かの見間違いでは無いかと思ったが数人を除き殆どが大砲は無かったと言う。
「官軍では五千人もの大部隊で大砲を持っていないと言う事は有るのでしょうか。」
「私も今初めて知りましたが、私達の部隊でもあの時は大砲を数問持っておりましたので、その部隊は何か秘密の作戦にでも参るのでしょうか。」
工藤も五千人の大部隊で大砲を持参していないとは何か特別の作戦が命令され、成功させる為には重い大砲は必要無いと、其れならば秘密の作戦とは一体どの様な作戦なのか。
「工藤さんは秘密の作戦でも有るのではと申されましたが、若しもですよ、秘密の作戦だと考えてですよ、五千人もの兵士が移動すれば誰も目にも留まり、幕府軍の生き残りが奇襲を掛ければ官軍にも多くの犠牲者が出ると思うのですがねぇ~。」
「確かに総司令の申される通りで、私ならば一個小隊で作戦を実行しますが、では一体何用で五千人もの官軍兵が、其れも一門の大砲も持たず何処に行くのでしょうか。」
工藤も秘密の作戦ならば少人数の方が成功すると、ならば五千人もの兵士は何の目的で何処に行くのか。
「源三郎様、私達が此処の山に来る前ですが、大きな入り江が有り、入り江には数本の半島が有りまして、数か所の入り江に分かれておりました。」
「ほ~大きな入り江ですか、で、入り江には数本の半島が有り、数か所の入り江が有るのですか、いゃ~私も初めて知りましたが、入り江ですが山の頂からは見えるのでしょうか。」
源三郎も初めて知ったと、山賀の向こう側には大きな入り江が有り数か所の入り江も有ると、だが何故その様なところに五千人もの官軍兵が向かうのだ、いやまだ確定したのではないが、入り江の奥に何か有るのでは若しかすれば野洲や菊池、上田の様に海岸に大小様々な洞窟でも有るのだろうか、其れとも五千人もの兵士を動員し洞窟でも掘るとでも言うのか、工藤が言う秘密の作戦とは洞窟を掘ると言うのだろうか、若し洞窟を掘ると言うので有れば一体何処に掘るのか、これは大問題で有る。
「いいえ、其れが全くと言っても良い程に向こう側が見えないのです。」
やはりか、山賀から菊池に続く山には背丈を越える熊笹が自生し、その為に何処からも山の向こう側を見る事が出来ず、其れは何も連合国だけでは無く向こう側からも全く見る事が出来ない、其れが今まで連合国の存在を知られる事が無かった一因でも有る。
源三郎は腕組みし何か良い策は無いか考え、暫くの沈黙が続く。
「お~い、正太。」
「お~なんだ、オレは今忙しいんだ。」
「大変なんだ、源三郎様が馬を飛ばして来られたぞ、其れに大勢の兵隊さんも一緒なんだ。」
「えっ、其れってお城で何か大変な事でも起きたのか。」
「オレがそんな事しるか、其れよりも早く行けよ後はオレ達が何とかするから。」
「分かった、じゃ~頼んだぞ。」
と、正太は大急ぎで北側の空掘りからお城の中を抜けて行く。
「お~い、大変だ。」
「どうしたんだ、何が有ったんだ。」
「其れがなぁ~、源三郎様が馬を飛ばして来られたって、城下の人から聞いたんだ。」
「分かったよ、じゃ~猿軍団全員でお城に向かうから何か有ったら知らせてくれよ。」
山の麓には猿軍団が休む為の家が有り、今日はたまたま全員が休んでおり、猿軍団も大急ぎでお城へと向かった。
山賀でもだが源三郎が来ると言う事は、いや馬を飛ばして来ると言う事は余程大事件が起きたのだと領民達がお城へと向かうのも当然で有る。
「源三郎様。」
正太は何時に無く慌てて要る。
「源三郎様。」
と、大慌てで執務室に入ると。
「あっ、えっ、何で。」
と、正太は五十人の侍が居るとは知らなった。
「お久しぶりですねぇ~、其れにしても何でそんなに慌てて要るのですか。」
「何でって、源三郎様が馬を飛ばして来たって聞いたんで、其れでオレは。」
「そうでしたか、先程、正太さんを呼びに行ったと思うのですが。」
「いいえ、知りませんが、其れよりも一体何が有ったんですか、其れにお侍が。」
正太も初めて見る侍達で、山賀、いや他の国でも今は侍姿では無く殆ど全員が作業着姿で有る。
「この人達は山を越えて来られたんですよ。」
「えっ、だったら幕府軍の。」
「其れは違いますよ、此方の方々は官軍の追撃を受け、まぁ~運が良いと言いますか北側に有る草地に下って来られたんですよ。」
「えっ、じゃ~断崖近くの草地ですか。」
「ええ、其の通りですよ、其れでね正太さんには後でお頼みするかも知れませんのでね暫くの間待って欲しいんですが宜しいですか。」
「オレに出来る事だったら何でもやりますから。」
「源三郎様が大変だって、えっ、何で。」
猿軍団も大慌てで飛び込んで来た。
「猿軍団も来られましたので、これで全ての役者が揃いましたねぇ~。」
源三郎はニヤリと、だが大川達にはさっぱり意味が分からない。
「ねぇ~源三郎様、一体何が有ったんですか。」
「まぁ~まぁ~今からお話ししますのでね。」
源三郎は正太と猿軍団を含めた全員に説明した。
「あそこには狼は殆どいないんですよ。」
「其れは本当なんですよ、北側の山には狼よりも熊の縄張りで、狼は熊に攻撃する事はまずありませんよ。」
「其れが本当ならば少しですが安心出来ますねぇ~。」
源三郎は全ての山に狼の大群が生息して要ると思っていた、だが猿軍団も猟師達も狼は殆どいないと、だが何故熊の縄張りなのか其れが分からない。
「吾平さんに伺いたいのですが何故に狼よりも熊が多いのですか。」
「あそこには熊が大好物の木の実が出来る木が多いんで、其れで熊が多いんですよ。」
熊が大好物の木の実が沢山採れると、何故狼が少ない、正か狼は熊が恐ろしいとは思っていないが幾ら四足の熊でも狼の動きは早く熊は遅いと、其れが何故だか知らなかった。
「何故狼が少ないのでしょうか、私は狼の動きは早く熊は遅いと思いますが、其れなのに何故熊の縄張りなのですか。」
大川達も知りたいと思って要る。
「確かに狼は恐ろしいですよ、ですが狼は口で噛み付くだけですが、熊は噛み付く事も出来ますが、一番恐ろしいのは前足でしてね、前足の爪は一寸から一寸半も有りますんで、そんな前足で張り飛ばされたら狼の身体は大きく抉られ殆どが即死ですよ、運が良くても何日か後には死んでます。」
「では狼は熊に立ち向かう事はしないのですか。」
「そんな事は考えられませんよ、だって大きな熊が仁王立ちになりますと十尺以上にもなりますんで、そんな危険だと分かってて熊に立ち向かう狼は余程の命知らずか大馬鹿だと思いますよ。」
猟師の吾平は何も作り話をして要るのではない。
其れは吾平がまだ猟師の世界に入った頃、目の前で数頭の狼と熊の死闘を見たからで、数頭の狼は熊の前足で身体や頭を剥ぎ取られ即死で、吾平は経験から話すので有る。
「では吾平さんは経験から学ばれたのですね。」
「はい、其の通りでして、でも熊は余程の事が無い限り人間を襲う事は無いんです。」
「それでは向こう側に行くとすればどの様な方法で行けば安全なのですか。」
「そうですねぇ~、たまに熊に出会う事も有りますが、熊は人間の臭いが大嫌いなんで大きな木の上に登れば多分大丈夫だと思いますが、間違っても熊に立ち向かわない事です。」
源三郎は何かを確信したのか、其れとも良い策が浮かんだのか。
「工藤さん、向こう側に集結した官軍の動きを調査したいと思うのですがねぇ~。」
「私も同じ事を考えておりました。」
「総司令、中佐殿、その任務に我々にお願い出来ませんでしょうか。」
何と小隊長が偵察任務に就かせて欲しいと名乗りを上げた。
源三郎も考えていたが、果たしてどの部隊に、いや小隊に行かせば無事成功を収める事が出来るのか、其れだけは分からなかったが今小隊長が偵察任務に就かせて欲しいと言うので有る。
「ですが大変危険な任務ですよ、私は無理にお願いする事も出来ませんのでねぇ~。」
「総司令、自分達は例えご命令で無かったとしても是非この任務をさせて頂きたいのです。
其れは自分よりも自分の仲間が何としても行きたいと、自分に直訴したのです。」
何と言う事だ、兵士が偵察任務に就きたいと小隊長に直訴したと言う。
「ではお仲間の兵隊さんが直訴されたと申されるのですか、ですが大変ですよ。」
「総司令、自分達は先日、この方々のお話しを伺いまして、自分よりも兵士だけで決めたのです。」
「よ~く分かりました、ですが今直ぐに向かうのでは無く、数日を掛けて作戦を練って頂きたいのです。
工藤さん、私からお願いが有るのですが宜しいでしょうか。」
「総司令に何かお考えでも有るので御座いますか。」
「ええ、工藤さんには大変申し訳無いと思うのですが、この二個小隊を中隊より分離し特別任務として偵察任務専門として何れの部隊にも属さない様にお願いしたいのです。」
二個小隊を偵察専門の任務、どの部隊にも属さないと、其れならば一体どの部隊に、いや正か源三郎直属の部下にさせたいと考えて要るのではないだろうか。
「私はねぇ~、吉永様のお話しを伺いましてね其れで決めたのです。」
「其れならば私も納得で御座います。
吉永司令は抜刀術の達人で、吉永司令が全く気付かなかったと申されましたので、私は是非とも推薦させて頂きます。」
「良かったですねぇ~、実を申しますと工藤さんよりも小隊長に断られるのでは無いかと思っておりましてね其れで切り出せなかったのですが、小隊長、是非ともお受け頂きたいので、お願いします。」
傍では二人の小隊は余りにも突然の話に何も言えず唖然としている。
「大変喜ばしいお話しですが、私は総司令直属の部下として特別任務に就いて欲しいと思います。」
小隊長達は突然な話しに下を向いたままで。
「まぁ~余り深刻に考えず小隊長の考えで偵察任務に行って欲しいと思います。」
源三郎は最初の任務として山の向こう側に集結して要る官軍の調査を考えて要る。
「其れで私が勝手に考えた新しい名称なんですがね、日光隊、月光隊としたいのですが。」
「総司令には何かの意味でも有るので御座いますか。」
「勿論ですよ、私は陽が当たる時でも、月の光の時、いや暗闇でも任務を遂行して頂きたいと願いましてね、其れで日光隊、月光隊と考えたんですが、でも実際のところ暗闇での任務は不可能だと思いますが、でも一応名称だけでも日光隊、月光隊としたいのですが、私の勝手で申し訳御座いません。」
源三郎は工藤と二人の小隊長に頭を下げた。
「自分達にその様な名誉な名を頂き、自分は何としても作戦の成功の為に全力を注ぎます。」
「ですが命ばかりは軽く考えないで下さいね、命あっての物種と申しますからね。」
「勿論で十分承知しております、自分も死んでは花実も咲かないと思っておりますので。」
「余り深刻に考えないで下さいね、私は小隊の全員が風の如く忍び寄り、風の如く消えていくと、まぁ~簡単に考えておりましてね、小隊の皆さんには大変申し訳無いのですが、まぁ~その様な訳ですのでどうかお許し願いたいのです。」
簡単にと言うが本当のところは源三郎の言う様に簡単に行くのだろうか、其れは源三郎さえも分からない。
「では早速ですが、明日にでも出立したいと思いますので。」
小隊長は何故其の様に急ぐ、何事に置いても準備と言うものが有り、準備を疎かにすればどんなに素晴らしい作戦でも失敗する。
「まぁ~まぁ~小隊長、何もそんなに急ぐ事も有りませんよ、物事を成功させるのは準備が大切ですからね、準備を疎かにすると、どの様な良い作戦でもでも成功する事は有りませんからね、明日はお二人と小隊の全員で作戦と準備に掛かり明後日にでも出立して下さい。」
「総司令、誠に申し訳御座いません、自分が間違っておりまして、では今から二個小隊全員で作戦を練り、準備に入り明後日の朝出立致します。」
「小隊長も急がずでお願いしますね。」
「全て了解しました、では自分達は失礼します。」
と、二人の小隊長は戻って行く。
「其れで吾平さん達にもお願いしたい事が有るのですが宜しいでしょうか。」
「そんな水臭い事、わしらに出来る事だったら何でも言って下さいよ。」
源三郎は一体何を考えて要る。
「吾平さん、実はですねぇ~。」
その後、源三郎は吾平達に詳しく説明した。
「其れで何時まででいいんですか。」
「そうですねぇ~、六日、若しくは七日くらいで十分ですがご無理でしょうか。」
「七日ですか、う~ん。」
吾平は腕組みし暫く考え込んだ。
「七日ですね、何とかしますんで。」
吾平は七日で出来ると、だが一体何をするのか、大川達にはさっぱり分からない。
「大川様、猟師さん達は何をするんですか。」
「いや拙者もさっぱり分からないだ。」
「わしらも戻ってみんなと相談して取り掛かりますんで。」
「吾平さん達にも大変申し訳御座いませんが、何卒宜しくお願い致します。」
「じゃ~源三郎様、わしらはこれで。」
と、吾平達猟師も帰って行く。
「源三郎様は一体何をされるので御座いますか。」
「私ですか、私は何もしませんよ、ただ奴らを迎え撃つだけしてね、まぁ~其れだけの事ですよ。」
「えっ、迎え撃つって申されましたが、一体誰を迎え撃つのですか宜しければ教えて頂きたいので御座います。」
「大川様、勿論、奴ら官軍ですよ。」
官軍を迎え撃つと、だが官軍は五千人の大軍だ、そんな大軍を僅かな手勢で迎え撃つとは余りにも無謀では無いか、だが源三郎は何か秘策でも有るかの様に冷静と言うのか平静を保って要る。
そして、二日後、日光隊、月光隊は山賀の北側から向こう側に集結して要ると言う官軍の大部隊の様子を探る為に登って行く。
「よ~しわしらも行くぞ。」
吾平達猟師も登って行く。
其の少し前、官軍の大部隊に二百名近くの官軍兵が来た。
「隊長殿はおられますか。」
「ご貴殿達は。」
「我々は司令本部より特別命令を受けた特殊部隊で御座います。」
「何ですと特殊部隊ですと、ですが一体どの様な命令を受けられたのですか。」
隊長は特殊部隊が要るとは聞いて無かった。
「隊長殿、我々の任務ですが今だ降伏せずに要る国を降伏させる為の部隊して、時には全滅させても良いと命令を受けております。」
この部隊の任務は降伏させる事が目的だと言うが、全滅もやむを得ないと、だが全滅させるのは官軍本来の目的では無いはずだ。
「ですが何も全滅させる事は。」
「隊長殿は少し考え方が甘いですねぇ~、私は何も全ての国を全滅させるのが目的では無いのです。
降伏すればそれで十分で、ですが我々に反攻するので有れば仕方が無いと言う事です。」
「ですが、侍達だけで十分だと思いますが。」
「隊長殿は何も分かっておられないのですね、私の聞いたところでは藩主に同調する領民が武器を持ち官軍兵を殺して要ると、私は何も領民まで殺したくはないのです。
ですが官軍兵が殺されるのを黙って見て要る程優しい人間では有りませんので、時には女や子供までもが敵になるのです。」
部隊の隊長は全てを納得したのでは無く、だが司令本部直属の部隊だと言われれば何も言えない。
「分かりました、其れで何が必要なのですか。」
「我々も数日間の休養と弾薬の補充をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか。」
「了解しました、では。」
「其れと我々は別の所で野営しますので宜しく頼みます。」
「其れでは少し離れた所に設営しますが、其れで宜しいでしょうか。」
「もう其れで十分です。」
「では直ぐに手配しますので、当番兵、特殊部隊の野営地を設立するので第一中隊長を呼んでくれ。」
当番兵は大急ぎで中隊長を呼びに行った。
「では我々は別の所で休んでおりますので、宜しくお願い致します。」
司令本部の直属の特殊部隊だと名乗ったが、果たしてどの様な部隊なのか全く分からないが、隊長は其れ以上何も聞く事も無かった。
「なぁ~さっき言った司令本部の直属の特殊部隊って一体どんな部隊なんだ。」
「あの話か、あれは我々の部隊なんだ。」
「え~、其れって本当なのか。」
「そんなの大嘘に決まってるんだ、そんな事も分からないのか。」
「えっ、大嘘って、そんな事が司令本部が知ったら大変だぜ、我々はどうなるんだ。」
「そんな事オレが知るかよ、其れよりもあの部隊の兵隊には余計な事は話すなよ。」
「余計な事って何だ。」
「そんな事も分からないのか、我々がやった事だよ、若しもだ我々のやった事が司令本部に知れると其れこそ大変な事になるんだぞ。」
「大変な事って、一体どうなるんだよ。」
「お前はそんな事も分からないのか、我々全員が銃殺刑になるって事だ。」
「えっ、銃殺刑って、何でだ。」
「我々が何をしたと思ってるんだ、そんな事も分からないのか、お前は。」
彼らは一体何者だ、隊長は司令本部直属の特殊部隊で、今だ降伏せずに要る国を降伏させるのが目的だと言う、だが彼は他の兵士に余計な話しはするなと言う。
「参謀長殿、今のお話ですが、誠司令本部直属の特殊部隊なのでしょうか、自分も特殊部隊が有るとは聞いた事が無いのですが。」
「井川中尉は余計な事は考えるな、部隊の全員に伝えて置くんだ、先程到着した部隊の兵士には一切何も聞くなと下手をすると銃殺刑が待って要るとな。」
「了解しました。」
井川中尉は直ぐ部隊の小隊長を集め隊長からの命令を伝え、暫くして部隊から少し離れた所に新たに野営地が設営され、中隊規模の特殊部隊と名乗る官軍兵が身体を休めた。
「まぁ~其れにしてもお主の話は見事だなぁ~。」
「あの話か、あれだけ大嘘を言えば、まぁ~普通の隊長ならば信用するさ、あの隊長も何の疑いもせず野営出来る様にしてくれたからなぁ~。」
やはり嘘だったのか、司令本部直属の特殊部隊と言うのは真っ赤な嘘で、其れにしても何故別の所に野営地を設営させたのだろうか。
「そうださっき別の兵士が言ってたが、此処から十里程行った所に高い山が有るって。」
「高い山だと、でその高い山の向こう側には何が有るんだ。」
「其れが全然分からないんだ。」
「なぁ~んだ全然分からないのか、では何にもならないでは無いか。」
彼らは正か向こう側に行くとでも言うのでは有るまいか、其れにしてもこの部隊は一体何者だ、やはり大川が言った官軍なのか。
「若様、オレ達も行きますから。」
「無理なお願いで申し訳無い。」
「そんなの水臭いですよ、兵隊さんや猟師さん達もやってるんですよ、あの人達の事を考えたらオレ達の仕事なんて楽なもんですよ。」
「正太さん、本当に短いですが。」
「オレ達に任せて下さいよ、オレ達にも意地が有りますんで、仲間も絶対にやるって言ってましたから。」
正太は仲間を総動員して兵士達を守る柵を作る様に頼んだが、余りにも日数が短く其れが心配なのだと言うが仲間全員を連れ北の草地へと向かった。
「私達にも何か出来る事が有れば命令を出して頂きたいのですが。」
「まぁ~まぁ~我々に任せて下さいね、我々の連合国では軍隊は領民を守る為に、領民は兵隊さんが出撃する時には炊き出しや、その他出来る事をするのです。」
大川達が居た国でも少しだがその様な行為で行われていたが、連合国では全てがなされて要る。
「お~い、みんな頑張ってくれよ。」
「正太はオレ達に任せて、若様と源三郎様の傍で話を聴いてて欲しいだ。」
「何でオレが話を聞くんだ、オレはなぁ~。」
「お前は本当に馬鹿だなぁ~、兵隊さんが動く時には源三郎様が指図すると思うんだ、お前は其の話しを聞いてオレ達に言ってくれれば、オレ達は今の状況が分かるから何時まで作ればいいか分かるんだ、え~分かったのか。」
「そうか、源三郎様と若様の話を聴けばいいのか、よ~し分かった、じゃ~頼むぞ。」
「オレ達は源三郎様や若様が困る顔だけは見たくないんだ、其れだけの事なんだ。」
「そうだよ、若様もだけど、源三郎様には絶対に迷惑を掛けたくは無いんだ。」
正太と仲間は若様と源三郎だけには、どんな事が有ったとしても絶対に迷惑を掛けてはならないと、それまでにも若様と源三郎には恩義を感じて要る。
そして、二個小隊が山賀を出発して二日が経った。
「小隊長、見えましたよ。」
「やはりでしたねぇ~、では我々も仕事に掛かるとしますかねぇ~。」
月光と日光の小隊は草地に入り夜が来るのを待った。
「小隊長、全員偽装完了です。」
「では行きましょうか、個々に調べて下さい。」
日光隊と月光隊の全員が二手に分かれて情報集めを開始した。
偽装した兵士達は野営地の直ぐ近くまで行き、官軍の情報集め、そして半時程で草地に消えた。
「大砲は一門も有りません、其れと連発銃は大よそ二千丁です。」
「連発銃が二千丁とは余りにも少ないなぁ~。」
「其れよりも何故か分かりませんが、大工道具や左官道具の方が多いんですよ。」
「えっ、大工道具や左官道具が多いって、う~ん、其れにしても何故だ、何故、そんな道具が必要なんだ。」
小隊長は大砲が一門も無い事も不思議でならない、更に連発銃が二千丁とは余りにも少ないと思った。
其れにしてまでも何故大部隊に大工道具や左官道具が多く必要なんだ、余りにも訳が分からないでは無いか。
「其れと野営して要る兵士達ですが、話しの中味が分からないんですよ。」
「変な話しをして要るのか。」
「其れが建て方がどうのとか。」
「何ですか、その建て方って。」
「自分も意味が分からないんですが、どうやら大きな建物を造る様にも聞こえたんです。」
「建物ですか。」
「はい、自分には其の様に聞こえたんです。」
「分かりました、其れで人数ですが。」
「其れは自分達二人で調べたんですが、兵士が大よそ二千人くらいだと分かりました。」
「話しの中味からして、兵士では無いと思われるのが二千人以上でした。」
「兵士が二千で、若しかすれば大工と左官を合わせて二千と言う事になりますねぇ~。」
小隊の兵士が調査した結果、兵士が二千人程で残りは大工と左官が二千人以上だと、だが一体何の為に大工と左官が必要なんだ考えるが、小隊長に分かるはずが無い。
「其れと別の所で野営でしている官軍兵ですが、大よそ二百名の様です。」
「二百名が何故別の所で野営するのでしょうか。」
「奴らの話ですが何故か内容が変でしたよ。」
「官軍兵の話が変だとは。」
「其れが話し方も兵士の話し方では無く、やくざ者の様な話し方でしたよ。」
「やくざ者の話し方ですか、では全員がやくざ者だと言う事ですか。」
「其れと浪人者も多く居りましたよ。」
「えっ、浪人者も居るのか。」
「はい、大体ですが半分が浪人者で残りの半分がやくざ者だと思いますが。」
「ですが、何故その者達は別の所で野営して要るのでしょうか。」
小隊長も別の所で野営して要る意味が分からずに要る。
「奴らの話の中で女がどうのって言ってましたが。」
「女性がですか、ですが何の意味なのか分かりませんねぇ~。」
「自分に任せて欲しいんですが。」
「えっ、君にですか、でも何を考えて要るんですか。」
「へへへ~、実は自分は官軍に入る前は渡世人で、いややくざ者でして。」
「えっ、君がやくざ者だったんですか、でも何故。」
「済みませんでした、自分は何も隠すつもりは無かったんですが、今まで言う機会が無かったんで申し訳有りませんでした。」
と、元やくざ者だと言う一人の兵士が頭を下げた。
「いいえ、私は許しませんよ、まぁ~考え方を変えれば、君が何を考えて要るのか分かりませんが君に任せますからね。」
「有難う御座います。」
兵士は安心したのか表情が変わった。
「それでどの様な作戦を行なうのですか詳しく説明して下さい。」
「では詳しく説明しますので。」
と、兵士は小隊長と小隊の全員に詳しく説明した。
「えっ、正か君は知っていたのですか。」
「いいえ~、そんなの飛んでも無いですよ、ただ何かの時に役立つだろうと思って何時も持ってるんです。」
兵士は何時役に立つかも知れないと官軍兵の軍服を持って要ると言う。
「そうですか分かりましたよ、では君に任せますが、無理は禁物ですからね。」
「はい、小隊長殿、了解しました、では行ってきま~す。」
兵士は早速官軍兵の軍服に着替え、やくざ者と浪人者が居る野営地へと向かった。
「小隊長、本当に大丈夫でしょうか。」
「まぁ~今更心配しても始まりませんからね、彼が戻って来るまで待つしか有りませんよ。」
「そうですねぇ~、じゃ~この間々ですね。」
「皆で彼が戻って来るまで静かに待つ事にしましょう。」
「あの~隊長さんは。」
「何だ、何の用事だ。」
「はい、実はさっき渡世人から聞いたんですがね、自分は隊長に話しましたら、別の所で野営して要る部隊が有るのでその隊長さんに話せって言われまして、其れで来たんですが。」
「分かった、少し待って下さい、直ぐ隊長を呼んで来ますから。」
「へへへ~、上手く行ったなぁ~、後は話すだけだ。」
と、兵士は小声で言ったが、野営して要る兵士に聞こえる事は無い。
「貴方ですか、何か話が有ると言うのは。」
「はい、実は此方の部隊が来られる前に一人のやくざ者が通り抜けましてね。」
この後、兵士はやくざ者から聞いたと言う話しをすると。
「分かりました、では数日の内に向かうが、今の話は君達の部隊でも知って要るのか。」
「いいえ、知っておられるのは隊長殿と自分だけでして他は誰も知りません。」
特殊部隊の隊長と言う人物な何故かニヤリとしたが、兵士もニヤリとした、だが其れは別の意味で作戦が成功したと言う意味で有る。
「隊長殿、今の話は自分達の部隊には内緒でお願いします。」
「其れは勿論だ、だが君も誰にも言うなよ。」
「勿論で、では自分は戻りますので、でも若しも部隊の中で自分を見付けても知らない振りをして下さい。」
「ああ、分かった、誰にも知られない様にだなっ。」
「はい、じゃ~自分は戻りますので。」
と、他の兵士に気付かれない様に静かに戻って行くが、途中で舌を出し声は出さないが笑顔でやった~と小躍りして要る様にも見える
「お~い、聴いてくれ、高い山の向こう側には女ばかりの城下が有るぞ。」
「えっ、其れは本当か。」
「おお、今部隊の兵士が隊長に報告したが、隊長は我々に知らせろと言ったそうだ。」
「だが何で我々になんだ。」
「其れが、我々は特殊部隊で降伏しない国を降伏させる為の任務だから、隊長は我々に任せろと。」
「まぁ~我々も久し振りだからなぁ~。」
「そうだなぁ~あの時以来だからなぁ~、女は。」
あの時とはやはり大川達の国を襲ったのはこの者達なのか。
「よ~しオレは行くぜ。」
「其の前にだみんなに知らせてくれよ、明日部隊から弾薬を補充し、連発銃の点検を終えて明後日の早朝に向かうから、其れも言ってくれよ。」
数人が分かれ、他の者達に伝えに行くと暫くして浪人者ややくざ者達の笑い声が聞こえて来た。
「小隊長、大成功です。」
「其の様ですねぇ~、先程から大声で。」
小隊は静かに山の麓へと向かった。
「向こうは遅いですねぇ~。」
「其の様ですが、何か手間取って要ると思われますが、我々は先に麓に向かいます。」
その頃、日光隊も山の麓へ向かっていた。
「あの隊長と言う人物ですがどう見ても正規の侍では無かった様に見えたんですが。」
「やはり浪人者と言うのですか。」
「はい、自分は其の様に見えましたが、其れに見張り番の兵隊はどう見てもあれはやくざ者ですよ、自分には分かりますんで」
「そうですか、では大川さん達が言った官軍兵かも知れませんねぇ~。」
「はい、自分にはその様に思えます、では早々に。」
「そうですねぇ~、では麓で話を纏め君に行って貰いましょうか。」
「はい、自分も其の方が源三郎様にも詳しく説明できますので是非ともお願いします。」
元やくざだと言う兵士は一刻でも早く源三郎に知らせなければならないと思って要る。
そして、二時半が過ぎ、やがて東の空が明けて来る頃、日光隊が合流地点の麓へと近付いて来た。
「小隊長、あれは日光隊では。」
「うん、日光隊に間違いは無い。」
月光隊の兵士が手を振ると、日光隊の兵士達も手を振り、暫くして日光隊と月光隊が合流した。
「やぁ~中村さん、如何でしたか。」
「伊藤さん、我々は大変な物を見付けましたよ。」
「大変な物とは一体何ですか。」
「其れが大砲は一門も無かったんですがね、大工道具と左官道具でしね、其れに連発銃は二千丁と言う事で本当の兵士は二千人だと言う事なんですよ。」
「えっ、では五千人の兵と言うのは。」
「其れなんですが、半分以上が大工と左官ですよ。」
「ですが、何の為に大工と左官が其れに三千人近くが必要なんですかねぇ~。」
「それで兵士が調べたところでは何か大きな建物を建てるとか。」
「大きな建物を建てるって、一体何んの建物を何故ですかねぇ~。」
「其れは自分にも分かりませんが実は明日の早朝に一人を山賀に向かわせようと考えて要るのです。」
「えっ、自分も同じ事を考えておりまして。」
日光隊と月光隊から一人づつを出し山賀の源三郎と若様に知らせに向かわせると言う。
「ですが、何時頃山に入るかを確認する必要が有りますねぇ~。」
「自分もその様に思いますが奴らは明日にでも出立すると思いますので。」
やくざ者と浪人者の官軍兵は何時頃山賀に来るのか、其れが判断出来ない。
「自分が思ったんですが、奴らの人数だったら最初の目標の大岩の着くのが夕刻に成ると思うんですが。」
「そうですよ、奴らは我々の様な少人数では無いんで、二百名近くの部隊ですから、その日は大岩付近で一泊し頂上に着くのに丸一日として、下りは少し早くなりますから。」
「すると山賀までは三日目と言う事になりますねぇ~。」
「君達はその日数も源三郎様に報告する様に。」
「はい、では明日の早朝に出立します。」
「二人は大変過酷な任務ですが、何としても奴らを葬らなければ、戦とは何の関係も無い女性や子供達が浮かばれませんのでね。」
「自分達も十分承知してますので絶対にやって見せますよ。」
「宜しく頼みますよ。」
そして、明くる日の早朝、未だ陽が登る前で付近は薄暗く、其れでも二人の兵士は山賀の源三郎と若様に一刻も早く知らせなければならないと高い山を急ぎ登って行く。
だが果たして大川達の国で悪行を働いた官軍兵なのか、其れは官軍兵が到着しなければ分からない。