理性が許さない
ちょっとした話。
男性の場合、男性ホルモンを99%、女性ホルモンを1%分泌しているらしい。
女性の場合はその逆だ。
さて、僕はというと少々特殊な体のようで、男性ホルモンが70%、女性ホルモンが30%も分泌されているらしいのだ。
そのせいか、女の子に見られるほどの容姿で、髭も生えていなければ無駄毛も少ない。胸とかが大きくならなかったのが不幸中の幸いだ。
でも、いくら女の子っぽいからといっても実際は男なので、特殊な趣味でもなければ女物の服なんて着ることは無いだろう。
まあ、僕が言いたいのは要するに。
スカートがスースーして妙に落ち着かないのだ。
「うんっ、私が思ったとおりだわ、輝かわいい〜どうして女の子に生まれてこなかったのか不思議だわ」
と、喜びながら嘆息する母。
可愛いなんて言われてもぜんぜん嬉しくないけどね。
「制服はばっちりね。じゃあ次はこれ、私のお古なんだけどサイズは合うと思うわ」
「・・・・・・待って母さん。制服は分かるよ、うん、仕方が無いからね。でも、これ以外でスカートなんて履くつもりは無いよ。僕はまだ男として生きていたいからね」
「そんなのだめよ〜。輝がこれから生活するのは女子寮よ。じょ、し、りょ、う。そんな中で制服以外は男物の服しかありませんなんて、自分が男ですって言ってるようなものよ。学校の方も協力はしてくれるけど寮生活まで手が回るわけじゃないのよ」
正論だ。正論過ぎてむかつくよ。
「はいこれ。明日からはそれを履きなさい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ、いかんいかん。一瞬フリーズしたよ。
落ち着け。落ち着け僕。よーく目を凝らしてよく見るんだ。
これは幻覚だ。もしくは目にゴミでも入ったんだろう。ちょっとこすって改めて見れば。
こしこし。
ピンク色のすらりとした布地、ちょっとフリフリがついてて男の煩悩を誘う魅惑のライン。
パンティーって言うのかな?
「無理無理無理っ!!」
全身全霊で拒否。無理。不可能。
男の僕がこんなものを?僕にはちゃんとついてるんだよ。こんなもの履いても、ちょっともっこりして不気味なだけだよっ。
「大丈夫よーちゃんと新品なんだから」
「違うっ、僕が言いたいのはそんな事じゃなくて、これを履いたら僕は男として何か大切なものが失われてしまう気がするっ!」
「その時はお嫁に行きなさい」
「嫌だーーーーっ」
お嫁に行く?男の僕が?ボーイズラブ?ホモ?ゲイ?同性愛主義者?
あはは、泣いてなんかないよ。
「下着だけは勘弁してください。こんなものを履いた日には、僕のガラスのハートは粉々に砕け散ってしまうから」
ちょっと瞳を潤ませて必死の懇願。だから泣いてないって。
「そんな可愛い顔したって却下よ。例えばの話だけど急に風が吹いてスカートがめくれ上がったとき、ちらりと見えたのはトランクスでした、なんて事になって見なさい。あなたは一生、女装癖のある変人として不名誉なその名を学校で語り継がれるのよ。そんなこと嫌でしょう?
不名誉って分かってるなら初めからやらせないでよ。
「それに、輝の下着全部捨てちゃったのよ。今あるのは、女性下着だけよ」
母さんのとどめの一発。
無論KO。
「あはは、冗談はよし」
「ホントよ」
現実を認めようとしない僕に、一刀両断。
マジでこれ履くの?
僕もうお婿にいけない。
誰か哀れな僕を貰って下さい。もちろん男以外で。
<次回予告>
輝:「ありえない。僕が女装するなんて。しかも、あんな物まで履かされて。男心がズタズタだ」
母:「あら、そんなことで挫けちゃだめよ」
輝:「・・・・・・ほっといてよ」
母:「次回は心身共にズタズタになっちゃうんだから♪」
輝:「もういやああああああ!」
母:「じゃあ次回は、<スタイルなんて気にしろよ>です」