プロローグ??
「浅野輝です。どうぞよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。顔を上げると視線が自分に集中しているのが分かる。
転校生なのだからそんなことは当たり前なのだけど、僕には別の意味で心臓がドクドクと高鳴っていた。
それは、転校初日の恥じらいでも、これからの不安でもない。
ただ純粋に僕は恐怖していた。
ば、ばれた?
そう思わずにはいられない。なぜなら・・・・・・。
「浅野さんのご両親は海外に出ておられて、彼女は今日からここの寮で生活することになります。皆さん仲良くしてくださいね」
担任の紹介をする声。
ごめんなさいごめんなさい。
僕、彼女じゃないんです。女じゃないんです。ちゃんと付いてるんです。
浅野輝、16歳、8月22日生まれ、性別女。
ここではそういう事になってしまった。
そう、僕は男でありながら、「女」としてこの学校に通うことになった。
事の発端は数日前。
「へ?母さん海外に行くの?」
夕食時にいきなりそんな話を切り出された。
「そ、お父さんの後を追うのよ」
「いや、その言い方だとこれから自殺するみたいに聞こえるんだけど」
父さんが海外に単身赴任してから早一週間。何でも器用にこなす父だけどそろそろホームシックになっているころだろう。
それは分かる。母さんと父さんはいまだにラブラブだから、母さんが父さんのところに行くのは至極当然だ。
「でも、輝を一人暮らしさせるのは可哀想だなと思うの」
僕は一人で大丈夫だが、家事ができない僕を一人暮らしをさせる気はないだろう。
「それでね、私の知り合いに、寮がある学校の理事長がいるの。その人の所に転校することになったから」
要するに、僕にそこの寮で生活しろということか。
「でね、これがその学校の制服なの」
うんうん分かる分かる。
でもね母さん・・・・・・
「嫌だっ!絶対嫌だっ!」
なんで女子制服?転校先にはこれを着て行けと?
どんな思考回路をしているんだあんたは。
「だって仕方ないじゃない。そこの男子寮もういっぱいいっぱいで女子寮しか空きがなんだもの」
「じゃあ別のところで良いじゃんっ!もしくは一人暮らしのほうがよっぽどマシだよ!」
「だめよ、もう転校の手続き済ませちゃったもの。それに輝は可愛いからこの制服もきっと似合うわ」
「何で本人が承諾してないのに勝手に事を進めちゃうわけ?仮に僕が女装して学校に通ったとして、ばれたらどうするの?大惨事だよ。僕きっと袋叩きにされちゃうよ!」
「大丈夫よ。学校のほうにも協力を要請してるし、もしばれても」
「ばれても?」
母さんはにっこり笑って。
「五分の四殺しにされるだけだから」
いけしゃあしゃあと母さんは言った。
「ほぼ死んでるじゃんっ!嫌だ、絶対行かな」
「お黙りなさいっ!」
母さんの一喝で大気が震える。ああ、耳が痛いよー。
「男は度胸。そんなことも分からないの?」
いや、度胸云々の問題でしょう、これは。
「それにね、これ位の苦境母さんだって乗り越えてきたのよ」
そう、母さんはお母さんとお父さん(僕の祖母や祖父にあたる人)の手違いで、誤って男子校に入学してしまったという、物凄いエピソードの持ち主なのだ。
「あの頃の私は心が休まることは無かったわ。いつも飢えた男達に標的にされ、そして」
「父さんに食べられちゃったんだね」
そんなオチ。でもさ
「自分が苦境だと感じたんなら息子に同じ事させなくても良いじゃん」
むっちゃくちゃ正論だ。
「いやよ。私が苦労したんだから息子のあなたも苦労しなさい」
「何だよそれ、結局は八つ当たりじゃんっ」
「そうよ、悪い?」
「うわ開き直ったよこの人!」
始めはあーだこーだと言い合っていたが、最後には僕が折れて結局女装して学校に通うことになった。
これからどうなるんだろ、僕。