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なろう底辺の私に出版社から電話がかかってきた  作者: 大崎真


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1/3

①東京から電話がかかってきた

なろうを始めて一年と六ヶ月。更新も遅いし、相変わらず底辺のまま、細々とやっている。


そんなある日、スマホに着信があった。見ると、なんと東京からだ。

かけ直すなんて、とても考えられない。こっちはかけ放題プランではないのだ。きっと間違い電話か詐欺に違いない。

私はスルーすることにした。



翌日。また同じ東京の番号から着信があった。今度は留守電も入っていた。


『お忙しいところ、恐れ入ります。こちらは大崎様のごケータイでしょうか。私、東京の出版社、○○社の……』


ブツッとここで切れていた。入りきらなかったようだ。かけ直してこないので、留守電に入れておくことにしたらしい。


しかし、どう考えても一分やそこらで終わる話ではなさそうだ。かけ直すと、とんでもない通話料になるだろう。払いたくない。払うもんか。

私はやはりスルーすることにした。



翌日。また同じ東京の番号から着信があった。今度も留守電が入っていた。前回で学び、今回はやや早口であった。


『○○社の小川(仮名)と申します。応募された賞の件でお話ししたいことがあります。0120ー○○○○……にどうかお電話頂けますと幸いです。よろしくお願いします』


なるほど、フリーダイヤルか。便利なものが世の中にはあったもんだ。

私は遂にかけ直すことにした。



電話に出られた方に小川さんからかかってきた旨を伝えると、すぐに小川さんに繋いでくれた。


『この度は、何度もお電話をおかけして申し訳ありませんでした』


電話の向こうの小川さんは丁重に謝ってくださった。声の感じも優しそうな女性だ。


「すいませんが、なんの作品でしょうか?」

『以前、○○賞に応募された《これな~んだ?》という絵本の作品です』


私は面食らった。なろうやカクヨムやアルファポリスではなかった。なんと、昔々に送った絵本の作品だったのだ。


突如として記憶が甦ってきた。賞金目当てで送ることしたものの、大きな封筒では切手代がかさむ。そこで、無理やり小さいサイズの紙に書き、ミニサイズに折り畳み、小さい茶封筒に無理やり押し込んで、八十円くらいで送ったやつだ。絵本を絵本とも思わぬこの所業。


しかも、ずいぶんと昔の応募で、正直、書いた本人も作品の内容を思い出せないでいた。《これな~んだ?》って、マジでな~んだ?と思った。


「ずいぶんと昔のやつですよね?」

『そうですね。5~6年前です』

「落選したやつなのに、なんでまた?』

『実は社内で、手のひらサイズの絵本を出してみようとなりまして、過去の作品を精査していたら大崎さんの作品を見つけたんです』

「はぁ……」

『今回の手のひらサイズの絵本のコンセプトにフィットしまして、是非ともご検討頂きたくて』

「はぁ……」

『とにかく大きさが素晴らしいですよね』

「はぁ……」


内容よりも、とにかく大きさがお気に入りらしい。切手代をケチったことが功を奏するとは。世の中、本当にわけが分からない。


『今、私の手元に大崎さんの作品があるんですけど、とにかくコンパクトでいいですよね』

「はぁ……」

『これは赤ちゃんが対象の絵本ですよね?』

「……あの、よく捨てずに置いてましたね」

『アハハハ、そうなんです』

「応募された作品をすべて残しておくなんて、場所、取りませんか?」

『一度の賞に大体2000~3000くらいが届くんですけど、すべてを残しておくのは無理なので、ある程度の基準をクリアした物だけ残してますね』


そんなことを言われたら、よく、こんな私の作品を捨てずに残しておいてくれた上に掘り起こしてくれたな、と感動すら覚えた。書いた本人ですら、すっかり忘れていたというのに。


『そこでなんですけど、是非とも絵本として形にしたいので』

「自費出版ですよね」

『そうなんです……』


留守電の出版社名から検索して、自費出版を手掛けていることを知り、おおむね予想はしていた。


『もちろん、お安く済むようにこちらも最大限の努力は致しますので……」

「相場が分からないので教えて頂きたいのですが、一番安いのでいくらになるんでしょうか?」


いろいろと興味深い世界だったので、今のうちにとばかりにいろいろと聞いてみることにした。


部数と値段を何種類か教えてもらい、小川さんは製本の流れを説明してくれた。


『大体、完成までに半年かかります。今後の流れなんですけど、いくつか大崎さんにも手直しをして頂いて、あとはイラストレーターの方を選んで頂きたいんです』

(半年……手直し……)


その瞬間、


(なんか面倒臭いなぁ……)


という感情が湧いてきた。

この時点でもう無理だ。自費出版だから、やる気ゼロだ。なんて守銭奴なんだ、私は。


自費でもいいから自分の作品を世に出して人々に熱い想いを伝えたいとか、そんな情熱はないのか。そんな熱い想いで作品作りはできないのか。

さあ、自費出版できるのかい? それとも、できないのかい? どっちなんだい!?

………………。

で━━━きない!!(なかやまきんに(くん)口調)


人々に熱い想いを伝えたいとか、そんなものはどうでもいい。どうだっていい。

とにかく印税だ。印税が欲しい。

とにかく賞だ。賞をもらって有名になってみたい。

とにかくアニメ化だ。アニメ化になって、声優さんたちのアフレコを間近で見てみたい。

とにかく実写化だ。実写化になって、俳優さんたちを間近で見てみたい。

とにかく大金持ちだ。大金持ちになって、飛鳥II(ツー)で世界一周をしてみたい。

……本当に困ったさんな私であった。(連載中のブックマークがゼロになることも恐れず、好感度も顧みずに一瞬の笑いのためだけにこんなことを書く私を、どうか出来の悪い我が子を見るような微笑ましい目で見てあげてください)


『とりあえず資料をお送り致しますので、どうかご検討のほど、よろしくお願い致します』

「分かりました。また連絡します」


電話を切ると私は思った。


(《これな~んだ?》って、どんなやつだったっけ……?)


絵本なのでパソコンにも残っておらず、写真におさめることもしなかった。唯一頼りになるのは、自分のおぼろげな記憶だけ。

はたして作品を思い出せるのか。

不安は尽きない。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

(寄り道ばかりして本当にすいません。連載中の『俺はもしかしたら妹が好きかもしれない』もちゃんと完結させます。)

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