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精霊界のクリスマス市  作者: ゆめあき千路


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13/13

最終話 そして、クリスマスの朝に

 我が家のツリーには、さっそく僕が買ってきた新しいオーナメントが飾りの仲間入りをした。


 クリスマスのごちそうの支度はすっかりできた。

 おかみさんは良い香りのミツロウのロウソクを灯した。

 親方はワインをあけ、スパイスを入れたホットワインを飲みながらチーズをかじった。


 そしてクリスマス前夜になった。


 いつものようにニコラオさんが空飛ぶトナカイのソリでやって来た。

 今年はめずらしく「きみたち宛ての贈り物をあずかってきたよ」と、大きな木箱を三つ置いていった。

 それには僕と親方とおかみさんの名前がそれぞれ書いてあった。


 木箱の側面にはお菓子の魔女の紋章である『お菓子の家』の焼き印が押してあった。


「ロイゼさんからですね!」

「そりゃすごい。ニザ、さっそく開けてみようじゃないか」


 親方がわくわくした声を出した。


 僕たちは木箱を順番に開けた。


 おかみさん宛ての箱を開けると、まず刺繍したリネンのガウン二着が入っていた。その下にはガウンと同じシリーズのきれいな刺繍がされたシーツやタオルやナフキンが、ぎっしり詰まっていた。


「まあ、すてきだわ!」


 それは僕がおかみさんに買って帰りたいと思って見ていたリネンの店のリネン製品で、その刺繍は、僕がクリスマス市で見かけたのより、うんとすばらしいものだった。服地用の高級なリネン生地もまるごと一巻入っていた。これだけあれば服を数着を仕立てられる。


 親方宛てのふたつめの木箱にはあのクリスマス市でしか売っていなかったチーズやハムのかたまり、何種類ものソーセージに、ワインが十二本入っていた。親方は大喜びだ。


 僕宛てのみっつめの木箱には、ヤナギのカゴ細工が入っていた。大きなカゴは、荷物がかさばりすぎるから僕は欲しいと思いながらも、購入を見送ったものだった。

 どれもクリスマス市の最初の日に、僕が足を止めて見ていた露店の品物だ。


 ロイゼさんはどうして僕がこれらの品物を欲しかったことを知っていたんだろう?


「それはそうと、ニザ。ユーリリットおじょうさんが作っていた物というのは、なんだったんだい?」


 贈り物を片付けていると、親方に訊かれた。


「それなら帰る日に教えてもらいました。シャーキスの形をデザインしたクッキーの抜き型と、シャーキスの模様をつける押し型だったんです」


「それがシャーキスをモデルにしたかった理由なのか。でも、シャーキスをモデルにデザインしたクッキー型は、トゥルーデルさんが注文していなかったかい?」


「はい、そうなんです。ユーリリットはルファット親方がロイゼさんの注文を受けているのを聞いて、自分もかわいいテディベアのクッキー型を作ってみたくなったそうです」


 はじめはただ作ってみたかっただけだったそうだ。


 しかし、クリスマス市でシャーキスを見つけると、シャーキスがあまりに想像していたイメージにぴったりのテディベアだったので創作意欲が燃え上がった。


 だからなにがなんでも、翌日にルファット親方が作ったテディベアのクッキー型をロイゼさんへ納品するまでに、自分もデザインしたテディベアのクッキー型を作り、ロイゼさんに見てほしくなったそうだ。


「それでひと晩のうちにデザインさせろと、シャーキスをとどめていたわけか」


「ええ、かわいらしいぬいぐるみ妖精シャーキスの形をした抜き型と押し型でした。特に押し型に掘られた模様の絵は、シャーキスの肖像画みたいに良く出来ていました」


 翌朝には試作品の押し型まではできあがっていたけれど、僕らが朝から押しかけた結果、ユーリリットはロイゼさんに見せそびれたというわけだ。

 でも、僕が滞在していた最終日、ユーリリットは自分の作った抜き型と押し型を使ったクッキーを焼いて、僕とロイゼさんにごちそうしてくれた。


 ルファット親方は、ユーリリットの作った大きめのクッキーを手に取って首をかしげた。


「なんだこりゃ? ぬいぐるみの顔が無いぞ。こりゃあ背中向けじゃないか。ぬいぐるみのお尻がわの模様なんて、変じゃないかね?」


 ユーリリットは顔を真っ赤にした。


「へ、変じゃないもん! あたしはかわいいと思うから……。ほら、かわいいしっぽだってついてるでしょ!」


 たしかにシャーキスの丸いしっぽまで忠実に再現してある。

 実際にシャーキスを見てモデルにして作ってあるから、似ていて当然という気はするけど。


 ユーリリットには才能があると僕は思う。


 こういう細工物って不思議な個性があって、同じ物を同じように作ったつもりでも、まったく同じになるとは限らないのだ。

 よくよく見れば、どこかに作り手の個性が透けて見えるのである。


 ユーリリットはとても上手に抜き型を造り、押し型を彫り上げた。どちらも完璧に仕上げられていて、売り物として通用するレベルの品物だ。


「まあ! なんてかわいいのかしら」


 ロイゼさんがユーリリットの作った型押しクッキーを指先でそっとつまみあげた。

 僕も1枚。かじると、サクッと口のなかでくずれて、バターの香りとハチミツの甘味と香りがした。


「うん、すごくおいしいです!」

「おせじではなく、おいしいわ。焼き加減も上手だわ。こういう型抜きのクッキーはきれいに型抜きするのもむずかしいし、押しつけた模様をきれいに出すのもなかなかむずかしいのよね」


 ロイゼさんによると、きれいに型抜きできるクッキー生地を作るときは水分量の加減を考えなくてはいけない。そのときその季節や気候の気温や湿度によって細かい調整をするのは、熟練(じゅくれん)お菓子職人の技術だそうだ。


 お菓子の魔女にほめられたユーリリットはいっそう顔を赤くした。


「ありがとうございます! お菓子の魔女さんにほめられるなんて、すごくうれしい!」

「でもなあ、ユーリリット。表の顔があるのはわかるが、どうして背中向きの形まで作ったんだい?」


 ルファット親方は納得がいかないらしい。


「僕はユニークでおもしろいと思います」

「でも、ニザくん。食べ物はオモチャじゃないんだし、これで遊ぶわけにもいかんだろう?」


「デザインとしてのおもしろさですよ。こんなの、ほかで見たことがありません。クッキー型だって、もともとは古くからの伝統的な形や紋章なんかをかたどったものがあるでしょう。よりユニークな形をしたものは、すてきなデザインと言い換えることだってできますよ」

「そりゃまあ、そうだな。小さな子どもならぬいぐるみの背中向けだって、おもしろがってよろこんでくれるかな?」


「ね、こうしたらどうかしら。食べ物であそぶのは良くないけど、これはあくまで調理のいっかんよ」


 ロイゼさんはコーヒー用の泡立てたクリームをクリームつぼからスプーンですくい取り、後ろ姿のクッキーの裏面へ乗せた。そこへ正面向きのクッキーをおけば、クッキーのクリームサンドのできあがりだ。


「ふーむ、なるほど。皿に立つクッキー人形だな」

「遊び心ですね。新しいデザインはこういう遊び心から生まれるんだと、うちの親方もよく言っていますよ」

「いまはクリームをはさんだけど、代わりにチョコレートやお砂糖のアイシングにすれば日持ちもするし、持ち歩きもできるわ。これはなかなか商品向けのアイデアよ」


 ロイゼさんのほめ言葉に、ユーリリットは目を涙でうるませた。うれしくて声もでないんだろう。


「ふむ。わしにはできない角度からものごとを見るのが、ユーリリットの才能なんだな」


 ルファット親方はクッキーにクリームをつけてもう一枚のクッキーではさんで食べた。


 クリーム付きのクッキーはなかなか食べごたえがあり、僕はお茶の時間でお腹がいっぱいになってしまった。これでは夕食は食べられない。だからその日は腹ごなしのためにまた夜のクリスマス市の見物へ出かけたのである。





 僕はクリスマス市の様子をあざやかに思い出していた。


 来年のクリスマス市にも行きたい。


 それにはどうしたらいいんだろう?


 そうだ、親方がニコラオさんに頼んで招待状を手に入れようとか言っていた。

 僕もいっしょにお願いすればいいんだ。


 ニコラオさんならきっとお願いを聞いてくれる。

 だってそれがニコラオさんの仕事だから……。


 おかみさんは木箱からリネン製品をすっかり出した。

 すると木箱の底に、白いリボンで口を結んだちいさなふくろがひとつ残った。


「まあ、まだあるわ。ニザさん、これはあなたへのプレゼントだわ」

「僕に?」


 小さなプレゼントのふくろ。なにやら見覚えのある白いリボンをほどくと――。


 ブリキのクッキーの抜き型と、クッキーの模様をつける押し型が、コロンと出てきた。


「まあ、これはシャーキスね」

「ほお、よくできているな」


 これはユーリリットの作品だ。見たおかみさんがすぐに当て、僕の親方がそくざにほめるほど、シャーキスの特徴をよくつかんでいる良い出来だ。

 クリスマス市の露店の様子を描いた絵はがきもついていた。


『魔法玩具師のニザさんへ

 このシャーキスのデザイン型は、お菓子の魔女さんのお菓子工房オリジナルクッキーの押し型として使ってもらえることになりました。

 わたしはいま注文品の製作をしています。

 これは二つ目に作った物ですが、ぜひニザさんとシャーキスさんに持っていて欲しいのです。

 どうか受け取ってください。

 そして来年もぜひ、ルーンベルク市のクリスマス(マーケット)へ遊びに来てください。

                             ユーリリット


追記:もう一つの贈り物はホルディン市長さんがご用意してくれました。魔法のリボンの製作者として責任を取るためのお詫びだそうです』


「ほう、この白いリボンが、魔法のリボンねえ」


 なにかに使えるかな、と親方は袋のくちをしばっていたリボンをためすすがめつし、おかみさんはクッキーの抜き型と押し型を手に持って、つくづくながめた。


「おもしろいわね。ふだんは忙しいから押し型はあまり使わないけど、さっそく次に焼くクッキーからつかいましょう」


 クッキーの型をおかみさんは台所へ持っていった。


 ふくろにはまだ何か入っていた。


 ふくろのサイズにピッタリすぎて底にひっかかっている、厚めの長方形のかたい紙だ。

 僕はふくろを破らないよう気を付けて引っぱり出した。


 ふくろから最後に取り出したもの。

 それは――金文字で書かれた厚めの白い封筒で。


 来年の精霊界のクリスマス市への招待状だった。

                             〈了〉


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