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ジーンが周囲を見渡すと、そこは巨大な円形の闘技場だった。
中央には石畳で整えられた広いリングがあり、その外周をぐるりと囲むように、段々と積み上がった観客席がそびえている。
上段の席は、装飾こそ華やかだが誰の姿もない。きっと貴族や高位の者たち専用なのだろう。
一方、下段には粗末な服の市民たちがぎっしりと詰めかけ、目を血走らせながら見下ろしていた。
その視線には、好奇心と残酷な期待が入り混じっていた。
そこへ、赤いタキシードを着た男が一歩前に出て、大きな声で言い放った。
「お待たせいたしました! 予定より遅れてしまい、誠に申し訳ありません! この者たちが――ちんたら、ちんたら歩いていたおかげで、皆様の大切なお時間を無駄にしてしまいました!」
場の空気が一気にざわついた。
次の瞬間、観客席から怒号が飛び交う。
「ふざけんなゴラァ!」
「元貴族だからって、なめやがって……!」
「もっと苦しめ! もっと泣けぇ!」
ジーンは顔をしかめ、ちらりと他の参加者たちに視線を向ける。
彼らは一様に黙り込み、ただこちらをじっと見つめていた。
その瞳は、生気を失った魚のように濁っている。不気味だった。
(……流石の俺でも、こんな目で見つめられるのはご勘弁だな)
そんな中、タキシードの男が観客に向かって声を張り上げた。
「まあまあ皆様、彼らも反省しているようですし――早く“人が苦しむ姿”が見たいんじゃありませんか?」
その一言に、観客の怒号は一転して歓声へと変わる。
「そう来なくっちゃ!」
「早く俺たちを楽しませてくれよ!」
「ふふ、それではその前に――私の自己紹介をさせていただきましょう」
タキシードの男は胸に手を当て、芝居がかった動作で一礼する。
「私の名前はヌルノ・ビーン。この“遊戯”の進行役、すなわちゲームマスターでございます。何か困ったことがあれば、私にお申し付けくださいね」
彼は不気味な笑みを浮かべながら、手を打った。
「では、さっそく今回のゲームを紹介しましょう。
タイトルは――“魔女裁判”。」