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3

ジーンが馬車から降り、ちらりと後方を振り返ると、黒塗りの自家用馬車が静かに待機していた。

その瞬間ジーンの頭の中は軽くなって、何かを忘れたかのようだった。

 その光景を、もし通行人が見たとすれば――おかしなことだと感じるだろう。

 “遊戯”に参加する者は、本来なら国が手配する専用の馬車に乗せられ、睡眠薬で意識を奪われたまま輸送されるのが通例だ。


 しかし、ジーンは違った。

 アルバント家は、世間体を何よりも重視する名門。

 彼を“自家の馬車で送り出す”ことで、まるで単なる外遊か、特別な任務のように見せかけていたのだ。

 すなわち、“無能力者を出した”という不名誉を、周囲に悟らせないための偽装工作である。


 

 ジーンの周囲には、複数の監視役が張りついていた。

 彼が不穏な動きをしない限り、手出しはされない。だがその代わり、逃げようとしても一瞬で制圧されるよう、完璧な体制が敷かれていた。


 だからこそ、彼には睡眠薬も必要なかった。

 “特権階級としての建前”と、“確実な監視”――その両方が、彼の行動を制限していたのだ。


 馬車のすぐ前に、鎧を着込んだ屈強な男が無言で立っていた。

 全身を鋼で覆いながらも、なぜか上半身は裸で、仮面の奥からじっとジーンを見つめている。

 男はジーンが降り立ったのを確認すると、足元を指差した。


 そこには、地面に半ば埋もれた石の階段があった。

 ぱっと見では五段しか見えず、まるで地下の倉庫か物置のように見える。


 ジーンは階段の前に立ち、目を細めた。

 しかし、すぐに迷いなく足を踏み出す。


(これは……魔法の階段。降りることはできても、上ることはできない)


 転移魔法が組み込まれた特殊な装置――階段を降りた者の身体は、魔法陣に触れた瞬間、別の場所へと転送される。

 しかもこの階段は一方通行。いったん足を踏み入れれば、戻ることは絶対に許されない。


 すなわち、**「片道切符」**なのだ。


 ジーンは静かに、だが確かな足取りで階段を降りていった。



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