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2

馬車が、舗装の甘い石畳をゆっくりと進んでいく。車体がわずかに揺れるたび、木の窓枠が軋んだ。

 まるでこれから運ばれる運命の重さを、車輪が受け止めているかのようだった。


「……まぁ、仕方ないよね。こればかりは“国の法律”だしさ」


 窓の外をぼんやりと眺めながら、ジーンがぽつりと呟く。


「それなら……私たちと一緒に逃げるという手もあります。あなた様に紹介された方々なら、国外へのルートも――権力もあります」


 向かいの席に座るコルソが、静かに、しかし強い意志を滲ませて言った。


 ジーンは肩をすくめ、かすかに笑った。


「じーやは優しいね。でも、この国では“無能力者”が国籍を変えることすら許されてない。

 それに、遊戯の参加者を逃がすのは明確に“反逆罪”扱い――最悪、死刑だよ」


 言葉の調子は軽いが、声の奥にある諦念は深い。


「それでも……あの遊戯は命を懸けたものです。もし、あなた様が……」


 コルソが言い淀むのを、ジーンはちらりと視線を向けて制した。


「気にしないで。それも見越して、あのゲームのルールも仕掛けも全部調べた。

 勝つつもりで行くんだ、じーや」


 ふっと息を吐いて、彼はいつものように笑う。

 それは、家族に向ける笑みとはまったく違っていた――コルソだけが知る、本当のジーンの顔だった。


「大丈夫さ。ちゃんと勝って、また会いに来るから」


 馬車が一度大きく揺れ、やがて速度を落とし始めた。


「……着いたようですね」


 コルソが言うと、ジーンも静かに頷いた。


「もう着いちゃったのか。案外、早かったな」


 御者が小さくノックする音が響く。扉の向こうには、すでに目的地の影が迫っていた。


 ジーンは腰を上げかけ、ふと思い出したように振り返る。


「そういえばさ、じーや。一つだけ、お願いがあるんだ」


「……何でしょう」


「敬語、やめてくれない? もう俺、アルバント家を出るんだしさ。名前も立場も、置いていくから」


 コルソの瞳が、一瞬だけ揺れた。


「……それは……あまりに、恐れ多いことで」


「いいって。……俺にとって、お前はただの執事じゃないからさ」


 コルソは黙って頭を垂れ、ほんのわずか、微笑んだ。


 ジーンは扉の前に立ち、背中越しに手を軽く振る。


「――じゃあね、じーや。元気で」


「……元気で、ジーン」

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