プロローグ
魔王を倒してから13年――。
異世界から召喚された勇者によって、魔王は滅びた。
使命を果たした勇者は元の世界へと帰還し、世界には平穏が訪れた。
それからというもの、魔物の数は急速に減少し、“冒険者”という職業は徐々に衰退していった。
一部の冒険者たちは王国の兵へと転職し、またある者は事業を立ち上げ成功を収めた。
だが、そんな「勝ち組」になれなかった者たちは、多くが職を失い、取り残された。
冒険者を辞めたくても、雇用先はどこも満杯。
かつての戦乱を支えた人員が余り、人手はすでに飽和していた。
結局、多くの冒険者は「辞めたくても辞められない」という皮肉な状況に追い込まれた。
しかも今では、魔物すらほとんど現れず、クエストの依頼は激減。
残された仕事は、「荷物運び」「掃除」「草むしり」など、もはや冒険とは呼べぬ雑用ばかりで、報酬も雀の涙。
その結果、街には行き場をなくした冒険者が溢れ、治安は悪化していく。
グーニグル国は対策として、冒険者を下級兵として雇い入れたが、
今度は現役冒険者と元冒険者との間で軋轢が生まれ、混乱はむしろ広がってしまった。
そして国は次の一手として、“娯楽政策”を打ち出す。
それが、命を賭けた頭脳バトル《異世界遊戯》だった。
だがこの遊戯の開催により、“異能力主義”が再び勢いを増すことになる。
能力の強さがゲームの勝敗に直結するため、強力な異能力者たちは名声を得て社会的地位を確立し、
世界はふたたび「能力こそすべて」という価値観に染まっていった。
その一方で、**“無能力者”と“雑魚能力者”**は遊戯における“消耗品”として扱われた。
無能力者は、何も持たないという理由で人として数えられず、
雑魚能力者は、能力があっても“役に立たない”という烙印を押され、より一層激しい嘲笑と差別に晒された。
かつては、魔王との戦いに貢献できないという理由で肩身の狭い思いをしていた彼ら。
魔王が倒れた今こそ、自分たちの時代が来ると信じていた者もいた。
だが、現実はその期待を裏切るものだった。いや、むしろ前より酷くなった。
力のない者たちは、黙って搾取されるだけの存在となった。
反抗の術も、言葉すらも、もはや残されてはいなかった。