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第2話 魔法少女、マジカル根性

ミオが公園で男を制圧し、子供達に笑顔を振りまいた──そのわずか15分後。


路地裏でミオはコンクリ壁にもたれかかって、顔面蒼白だった。その手に握られた魔法ステッキの先端からは、さっきまでキラキラしていた光が一切消えている。


「マホポォ……!!」

パニックと涙声でマスコット型ドローンにすがりついた。流石にマホポにミオの体重を支えられる様な馬力はない。

その為地面へと埋もれた。


「さっきのビリビリで……なんか、ステッキから煙出てるんだけど!!見て!ここ黒い!焦げてる焦げてる焦げてるぅぅぅ!!」

なんということでしょう。

高い税金で作られた魔法ステッキがもはや炭になりかけている。


マホポの目がピコピコと点滅した。


『はい。見ればわかります。過放電ですね。

…3回目です。学びましょう』

「どうしようマホポォ……!また付近に不審者情報が上がったってSTELLAで表示されてたし、もしかしたら出動要請くるって言ってたじゃん!?どうすんの!?え、素手!?私、魔法少女なのに素手で行くの!?」

『大丈夫です。国家予算で予備パーツがこちらにあります。なので離して下さい』

「今この場に無いと意味ないぃぃぃ!!」


さらにギュッとマホポを抱え込むが、ポヨポヨと震えながら、物理的に拒否してくる。私達は一心同体の存在だというのに。もはや全力でこの私と解散したがっている。


可愛いキュートフェイスをして魔法少女を応援する立ち位置にいるが、中身は冷静沈着・完全ドライな白井だった。


《出動要請 発令──》

「ギャーーーーーッ!!」


地面にうずくまり、ステッキを抱えたまま叫ぶミオ。その手の中の魔法ステッキは、黒焦げを通り越して煙が若干出ている。もはや発火しそうだ。


「マホポぉ〜〜っ!!どうしよう!!要請来たけどステッキがっ、ステッキが炭なんだけど!!想定外すぎるんですけど!!」


『……国家予算を使った貴重な装備を“炭にする”魔法少女も、想定されていませんでした』

「ちょっと毒あるよね今の言い方!?あれ!?完全に私が悪いことになってる〜〜!!」


『出動要請が出ています。急行しましょう』

マホポはミオの悲痛の叫びにまったく反応せず、現場への急行をせかした。

──この鳥、さっきの声変換ミスを庇ったことを完全に忘れているらしい。



しかし、仕方がないためミオはステッキを抱えて全力で現場に急行することにした。

スカートを翻し、路地を駆け抜け、顔はもう半泣き。

ボタンは効かず、ホログラム起動もしない。振るとカラカラと中で何かが外れている音がする。

…まるで、赤ちゃんをあやす“おもちゃのガラガラ”である。いや、むしろ音だけは元気。


指令部にいるマホポこと白井も、ステッキ故障による予算の出費にダメージを負っていた。


しかし、現場はまったく待ってくれない。

STELLAの青い画面がアラートと共に赤く染まり上がる。


《──対象現在、児童に武器構えています》

《危険度上昇中》

《周囲のパニック状況拡大》

無機質な機械音声が淡々と読み上げる


それに慌てて白井はミオに指示を出す。

『急げ、すでに子供に向かって武器を構えている様だ』

「はあああああああああああ!?!?!?!?!?!?」


その瞬間、足がもっと速くなった。魔法がないなら、根性と筋力でカバーだ。ステッキはダメでも、子供の前でビビるわけにはいかない!!


数秒後。人垣をかきわけて、ミオは現場に飛び込んだ。

子供たちが悲鳴をあげて後ずさっている。その前に立つのは、ナイフを手にした男。荒い息。狂った目。ミオと、目が合う。

「おぉおおお!?魔法少女!?マジで!?来るの!?マジでぇぇぇぇッ!!」


あきらかに、狙っていた。男の目には、子供の姿など入っていない。ただ、魔法少女──ミオだけが目的だった。

「くっ……!」

魔法は使えない。ステッキは死んでいる。けれど、逃げるわけにはいかなかった。


炭になったステッキを握りしめ、半泣きの顔で叫んだ。

「マジカル・エンチャント!」


直後。


キラララァァァァン……!!

頭上の街灯に設置された演出サポートAIがミオの声紋を認識。システムが「呪文詠唱」と判断し、周囲に演出用の光と音を投射した。


実際にステッキが発しているのは、何かが外れているカラカラした音。それでも、ミオは叫びながら渾身の一振りを振るった。

──ドゴッ。

男の腕がぶつかり、ステッキのスイッチ部分が押し潰される。

少しの沈黙が流れる…と同時に


ボンッ!!


突然、先端から火花と煙と圧縮された電撃の残りカスが一斉に爆発した。

光、爆音、そして奇跡的な“魔法演出”。

「ッッッ!?!?!?」

男は何が起きたかわからず、叫びもせずにそのまま仰向けに吹っ飛び、

そのまま足をもつれさせ、勝手に転倒。そして白目になり動かなくなった。


……あたりが静かになる。

その直後


「「すごーーーい!!」」

子供たちの歓声がミオを包み込んだ。

「本物の魔法見た!」

「火のやつ!!ドーンってなったやつ!!」

「ミオちゃん、かっこいい~~!!」


「えっ、あっ、……そう!みんなの為に、頑張っちゃった!!」

子供たちは目を輝かせ、ステッキを握りしめた彼女に拍手を送る。

──いや、今の、ただの暴発なんだけど。

だが絶対に悟られてはいけない。私の雇用の命運がかかっている。この勘違いを絶対に味方にしてみせる。

そのあとも、私は懸命に手を振りまくりつづけ、何気なくステッキを体で隠した。


何故なら普通に先端がぶっ飛んでどっかに行ってたからだ。



笑顔でチラッとステッキを見下ろす。色々吹き飛んでもはやゴミと化したステッキからは、細く煙が立ち上っていた。


『やったねミオちゃん!怪人をやっつけたよ!』


そんな彼女の周りをマホポはフヨフヨと飛び回り続けている。ボタンをポチッとやったら勝手にミオの回りをクルクルしてくれる自動モードである。

制圧終わったからと、めっちゃ手を抜きやがっていた。







なお、ステッキ破損後日談。


『ステッキ、暴発による損傷パーツ:三箇所。補修不能。国庫申請中。なお、来月ぶんは冬のボーナスから削減予定です』


「待って待って待って!?私の!?えっ、私の冬!?

うそでしょォォォォ!?」

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