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嫌な、……予感

 一秒でも早くちゃんと気持ちを確認しないと、桐生を誰かに盗られてしまう気がした。



 ♢ 〇 ♢



 球技大会の後打ち上げで行ったカラオケではクラスでも目立つ派手な感じの女子達が桐生を持ち上げまくっていて、史帆は平気な顔をしていたけれど、内心では死ぬほどそわそわしていた。

 須藤にはイノちゃんが話をつけてくれて、打ち上げ後にこっそり四人で抜けてボーリングに行こうという話になった。

 その帰りには、須藤がさり気なく桐生の史帆に対する気持ちを訊いてくれることになっていた。

 だけど、ボーリングを四人で楽しんで、家に帰ってみると……。


〈――何かさぁ。須藤、一応聞いてくれたみたいなんだけど、『わかんない』って言われちゃったんだって〉


 その夜、イノちゃんからそうメッセージが来て、史帆は落胆した。

 二人はこんなに距離が近づいてきている――はずなのに? 


(『わからない』、なんだ……)


 がっかりしていると、イノちゃんが追撃メッセージで慰めてくれた。


〈でも、桐生も恥ずかしいのかもよ? ほら、男同士って、よくわかんないプライドとかあるみたいだし〉

〈そっかなぁ……〉

〈にしてもさ! 須藤って、マジ使えなくない? あいつ何なん? ほんと口ばっかりw 何も訊き出せてねーwww〉


 何とか史帆を笑わせようと、イノちゃんが一生懸命にメッセージを送ってくれる。

 須藤は、最近では史帆とイノちゃんの間で、〈男友達枠〉から〈お笑いネタ枠〉にまで格下げされていた。


 何かで笑いたい時には、須藤ネタが一番いい。

 どうでもよくて、すぐに笑えて、関係ない奴だから。

 二人はその後も、メッセージで須藤を弄って盛り上がり続けたのだった。



 ♢ 〇 ♢



 そのうちに三学期末の大掃除があって、こういう面倒なイベントでサボりまくる須藤にいい加減うんざりしてイノちゃんがはっきり怒って、ちょっと険悪になったりした。


 雑巾を洗いに行ってくれた桐生が戻って、空気が変わると思って史帆はほっとした。


「ありがと、桐生。後は雑巾干して終わりかな。最後だから、さっと済ませちゃおう!」


 明るく言って、史帆が駆け寄ってバケツを受け取ると、桐生がなぜか――気まずそうな顔をした。


「あ……、うん」


 すぐに桐生に目を逸らされ、史帆は小首を傾げた。


「……?」


 何となく桐生が自分を避けたような気がして、……嫌な予感が胸に走る。


(え……、何……?)


 ……気にし過ぎだろうか?

 球技大会以来、桐生のことが前よりずっと素敵に思えてしまって、史帆は、彼の一挙手一投足が気になってしまうようになっていた。

 でも、こんなちっぽけなことで不安になっていることが伝わってしまったら、桐生に〈重い〉と思われてしまうかもしれない。

 史帆は何とか笑顔を作って、感じ取ってしまった違和感を頑張って気にしないようにした。


「こっちの窓の方が、日が当たってるよ。早く雑巾干しちゃおう……」



 ♢ 〇 ♢



 ……それから、桐生と史帆の間に漂う空気はガラッと変わってしまった。

 メッセージを送っても半日以上も既読がつかなくなってしまったし、クラスで話しかけても視線が合わなくなって、どことなくよそよそしい。


(あ……。駄目になっちゃったんだ……)


 すぐに、史帆の直感がそう告げる。

 何があったかはわからない。

 でも、二人の間にあった恋の始まりめいた何かが消えてしまったのは、間違いないように感じた。

 イノちゃんは、すぐに否定してくれた。


「気にし過ぎじゃない? あんなに仲良かったんだし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。きっと今忙しくて疲れてるとかなんじゃない?」

「かなぁ……。でも、何か、自信なくなっちゃうよ」


 最近の史帆はため息ばかりで、イノちゃんを困らせてばかりだった。

 何があったのか全然わからなくて、……でも、告白のタイミングは棚上げした方がいいことだけはわかった。


「……他に好きな子とか、できたのかなぁ」

「そんなことないって」

「でも、この間の球技大会で凄い目立ってたし。あの後、何かあったのかも……」

「……」


 少し考えて、イノちゃんがポンと手を打った。


「あ、そうだ。メッセージ送ってみれば? 案外、普通に返事返ってくるかもよ?」

「でも、昨日送ったばっかりだし……。もしほんとに忙しいなら、迷惑に思われちゃうかも」

「じゃあ、明日か明後日(あさって)。あ、やっぱり週末は? 土日なら、一日中練習ってこともないでしょ」

「うーん……」


 考え込んで、その週末さり気ない感じでメッセージを送ってみて、でも、蓋を開けてみれば、日曜の夜まで待っても既読もつかなくて。

 ……史帆は、とうとうイノちゃんに電話で泣きついた。


『――もしもし? 史帆?』

「やっぱり駄目だった……。既読もつかないの。やっぱりこれ、振られちゃってるんだよね……」


 電話口でイノちゃんの声を聞くともう我慢できなくて、史帆は泣いた。

 どう考えたって、おかしい。

 ……いや、察するべきだ。

 これは、言葉のない桐生からの返事なのだ。〈無理です〉、っていう……。

 彼女が杉崎先生と駄目になってしまった時とは立ち位置が逆になって、イノちゃんは史帆の泣き言を何時間も聞いてくれた。


『まだわかんないかもよ。はっきり振られたわけじゃないし……』

「でも、さ。よく考えてみると、ウチも、元彼の時こういうのしたもん……」


 これまで付き合った二人の彼氏と別れる時、史帆もだんだんメッセージの返信を遅らせたりして、〈別れの予告〉をしたものだった。

 あの時は、急に言うより傷つかないだろう――それに面倒だ――なんていう軽い気持ちだったけれど、……こんなことをされてどんなに傷つくか、自分がその立場になって初めてわかった。

 あれは、……駄目なことだった。

 やっぱり、気持ちが決まった時点で、言わなくてはならなかった。


『あたしは、忙しかったらメッセージの確認送れちゃうこと、あるけどなぁ……』


 まだ彼氏ができたことのないイノちゃんが、頑張って史帆をフォローしてくれる。

 でも、史帆もまだはっきり何かがわかったわけじゃないのに諦めたくない気持ちもあって、イノちゃんの意見を聞いていると、〈そうなのかな?〉とも思えてきて……史帆は、優しいイノちゃんに甘えることにした。


「じゃあ、イノちゃんから桐生に、理由訊いてみてくれない、かな……」

『え、あたしが?』

「うん……。あ、無理ならいいんだけど」

『ううん。いいよ。訊いてみる。正直あたし的には桐生とかどうでもいいし。嫌われたって何も感じないから』

「変なこと頼んじゃって、ごめんね……」

『いいんだよ。あたしだって、杉崎先生の時は史帆に超話聞いてもらって助けてもらったし。あ、桐生とセットで須藤にも嫌われとくかな』


 イノちゃんがいつものお笑いネタの須藤を引っ張り出して笑わせてくれて、史帆は何とか頷いた。


「だよね。須藤はマジでどうでもいいよね」

『ほんとほんと! 来年は絶対別クラがいいわー……』



 ♢ 〇 ♢



 ……結局、イノちゃんの質問に対する桐生の答えは、〈他に好きな人がいる〉、だった。

 その後で、史帆にも桐生から直接メッセージが来た。


〈もう話聞いたかもしれないけど……。俺、好きな人がいるんだ。何か変な感じになっちゃってごめん〉



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