異世界転生!…なのに、なぜか森で一人ぼっち - 第四部
森は彼らの周りで呼吸しているかのようだった。濃い霧が渦を巻き、まるで生きているかのように動いていた。アラタは慎重に進み、足取りの重さを感じながら歩いていた。
「ああ、そうだ! ほとんど忘れてた」
ダイキはアラタに向かって言った。彼の声は遠く、まるで別の世界から話しているかのようだった。
「君に聞きたいことがあってさ。」
アラタは好奇心を抱きながら彼を見つめた。森の冷たい空気が、彼にこの状況の奇妙さを思い出させた。
「そうだな、これが夢じゃないってわかったから、俺も質問がある。まず、ここはどこだ? 街にいるべきじゃないのか?」
ダイキはうなずき、アラタを指差した。
「その通り! 俺もそう思ってた! でも、それが質問じゃないんだ。俺が聞きたかったのは……俺たちがどうやって死んだか、覚えてる? 誰に殺されたか?」
アラタは頭を下げ、目を細めながら記憶を探ろうとした。どんな小さな断片でも。
「どうやって死んだんだろう? 何も覚えてない。誰に殺されたかもわからない。どうやってここに来たのかもわからない。」
すべてが暗闇で、完全な静寂だった。体はなく、暗闇がただ光に変わり、青空になった。そして、木の上で目を覚ました。
「何かが起こったのか、それともこれが俺の出現地点なのかもわからない。」
「でも、考えてみると……あの暗闇で遠くに何かを見た気がする。それとも、ただの想像か?」
「そうだ、たぶんそれだ……他に誰かがいるなんて意味がない。」
「おい!」
「アラタ、また迷子になったのか?」
ダイキはアラタの目の前で手を振り、彼を思考から引き戻した。
「ああ、いや……ごめん。君の質問について考えてたけど、何も覚えてない。ただ暗い場所にいて、それから光って、ここに現れた……」
ダイキは一瞬がっかりしたが、その答えを分析すると、その失望は驚きに変わった。
「待てよ、神様の声を聞かなかったのか?」
アラタは眉をひそめ、混乱した。
「神様? 神様を見たのか?」
「いや……でも声は聞いた。あの声はどこからともなく聞こえてきた。あれが神様じゃなかったら、何だっていうんだ?」
アラタは顎に手を当て、ダイキの話を理解しようとした。しかし、彼が得たのはただの疑問だった。
「なぜ俺は聞かなかったんだ?」
「ダイキ、その神様は具体的に何を言ったんだ? 何か重要なことか?」
「いや」
ダイキは断言した。
「ただ、俺の人生でやった悪いことを全部並べ立てて、それから罰について何か言ってた。あの場所にいる間、ずっと俺をバカにしてた。」
アラタはさらに眉をひそめ、混乱が深まった。
「それ……神様なのか? 本当に? 神様らしくないな。」
「もちろん、神様に決まってるだろ」
ダイキは反論した。
アラタは黙り込み、情報を処理しようとした。
「神様ならそんなことしないよ。ただ別の世界に送り込んで、魔王を倒して世界を救うための強い力を与えるだけだ。」
「まあ、ちょっとクリシェに走りすぎたかもしれないけど、神様がそんなことするなんて想像もつかなかった。」
「正直、あの状況は忘れたいよ。あんまり楽しいものじゃなかったから。」
「わかる。でも、なんで君だけがその神様の声を聞いたのか、まだわからない。俺だって君と一緒に転生したはずだ。不公平だな。」
ダイキはため息をついた。アラタの執拗な質問に少しイライラし始めていた。
「信じてくれよ、君はあの神様とやり合わなくてよかったんだ。たぶん、君はここに来る前にもっとひどい状態になってたよ。」
アラタは眉をひそめ、ダイキに鋭い視線を向けたが、ダイキは完全に無視した。
「彼の言う通りだ、たぶんあの神様を見なくてよかったのかもしれない。でも、さっきの俺の気持ちについて話すのは関係ないだろ。」
次の一歩を踏み出す前に、強い轟音が森を揺るがした。木々が震え、枯れ葉が彼らの上に降り注いだ。
小さな齧歯類、リスのような生き物が悲鳴を上げながら逃げ出し、鳥たちも慌てて飛び去った。
「聞こえたか?」
アラタは恐れたような声で尋ねた。
「聞こえないわけないだろ? あの音はたぶん森中に響き渡ったよ。」
アラタは動かず、音の源を探そうとした。彼の体は硬直し、最大限の警戒態勢に入っていた。
ダイキはその場に凍りつき、どんな音も立てないようにしていた。彼にとって、どんな動きもあの何かを引き寄せる可能性があった。
「何もない。何も見えない」
アラタは見える範囲を確認した後、叫んだ。
「たぶん、古い木の幹が倒れたんだろう。ここの木はでかいから、あの音はそれで説明がつく。」
「何でもないよ、ダイキ。どうやら安心して——」
アラタが言葉を終える前に、冷たい波が彼を襲い、膝をつかせた。
森の涼しくて穏やかな空気は重くなり、奇妙な暗い瘴気が彼らを取り囲み始めた。
「なんだこれ!?」
アラタは叫びながら、激しい咳に襲われた。
「何が起こってるんだ? 息ができない! これはどこから来てるんだ?」
彼はその奇妙な霧の源を探そうとしたが、時間が経つにつれ、呼吸はさらに苦しくなった。
彼の目は赤くなり、開けているのも難しかった。喉の激しいかゆみは、彼を襲う乾いた咳でしか和らげられなかった。
「ダイキ、どこにいる!?」
彼は咳き込みながら叫んだ。
苦労して立ち上がり、袖で鼻と口を覆いながら、濃い闇の中を進んだ。地面の轟音が彼の足取りを不安定にさせた。
「目を開けているのが辛い! 何が起こってるんだ!?」
アラタは手を使って闇を払おうとしたが、無駄だった。視界はほとんどなく、ただ本能に従って進むしかなかった。
手探りで進む中、彼は何かにぶつかった。
少し後退し、目を細めると、ダイキの姿が見えた。彼は地面に倒れ、激しい咳に苦しんでいた。目を開けることができず、涙を流しながら草の上を転がり、目をこすっていた。
「おい、袖を使え、バカ! それを吸い込むな!」
アラタは彼に向かって走り、彼の腕を取り、鼻と口を袖で覆わせようとした。少なくとも少しは瘴気から守るためだ。
「歩けるか?」
「ああ、歩ける。でも何も見えない、アラタ! どこにいるんだ?」
ダイキは涙ながらに叫んだ。
「落ち着け。ここにいる。俺の腕をつかんで、離すな。ここから脱出するぞ。」
ダイキは従い、震えながら友人の腕にしがみついた。
彼らはその場を動き始めたが、そこはもはや森には見えなかった。木々は見えず、足元の茂みだけが彼らにここがどこなのかを思い出させた。
その奇妙な効果はアラタにも影響を及ぼし始めた。一歩進むごとに、彼の目はさらに焼けるように痛み、涙が止まらなかった。
目を開けているのがさらに難しくなり、力尽きる前にここから脱出することを願いながら進んだ。
「もう無理だ。目が痛すぎる。でも諦められない。この攻撃は俺たちに向けられてる。きっと脱出する方法があるはずだ。」
「くそっ!」
彼は叫び、イライラした。
何度も木にぶつかりながらも、アラタは立ち上がり、ダイキを連れて進み続けた。
彼だけがこの問題から抜け出す方法を知っていた。諦めることは、彼らがその黒い瘴気の中で窒息死することを意味した。
彼はすでに視力を失っていた。
彼の目はついに閉じ、腕は瘴気から彼を守るために上げたままにすることができなくなった。激しい咳が彼を支配し、声を出すことさえできなかった。
残された力を使い、アラタは前へ走った。完全に見えない状態で、彼らが閉じ込められたこの地獄から脱出するために必死だった。
彼の力は尽きた。
二人は冷たい草の上に倒れ、喉のかゆみが次第に消え、ゆっくりと視力が戻り始めた。
空気は以前より薄くなり、彼らは少し楽に呼吸できるようになった。アラタの肺は貪欲に広がり、瘴気の拷問の後、新鮮な酸素を体に取り込もうとした。
視界はまだぼやけていたが、輪郭が次第にはっきりしてきた。
胸の重苦しさは少しずつ和らいでいった。まるで毒の霧が彼らを置き去りにしているかのようだった。しかし、彼らの体にはまだ深い疲労感が残っていた。
アラタは状況を理解するのに数秒かかった。彼は手で顔を拭い、まだ涙が流れている目をこすった。
立ち上がろうとしたが、足が震え、すぐにめまいが襲った。しかし、なんとか立ち上がり、頭をすっきりさせるために大きく息を吸った。
「ダイキ……」
彼は呼びかけ、まだ地面に横たわり、息を整えようとしている友人を見た。
ダイキはもう少し横たわっていたが、ついに腕を動かし、ゆっくりと起き上がった。
彼の顔は青ざめ、呼吸はまだ不安定だった。目は重く感じたが、ようやく開けることができた。咳は減ったが、完全には止まっていなかった。
「大丈夫か?」
アラタは慎重に近づきながら尋ねた。
「ああ……たぶん大丈夫だ」
ダイキは答えたが、声はかすれていた。
二人はそこに座り、数分間休んだ。
冷たい草は彼らにいくらかの安らぎを与えたが、同時に警戒心も抱かせた。彼らは何がその霧を引き起こしたのか、危険が完全に去ったのかを知らなかった。
轟音は止まっていた。
「ここに長くはいられない。これは……これは明らかに偶然じゃない。」
アラタはうなずき、先に立ち上がった。彼の体はまだ痛んだが、もう休んでいるわけにはいかないとわかっていた。
彼らを襲った何かが、まだ近くにいるかもしれない。
二人はいくつかの困難を抱えながらも、進むことができる状態だった。
アラタはダイキを見て、起こったことについて彼の意見を聞こうとした。しかし、ダイキは完全に動けなくなっていた。
彼の顔は純粋な恐怖を表しており、体は今までにないほど震えていた。
彼を見るだけで、アラタは自分の体温が急激に下がるのを感じた。まるで寒気が彼を貫いたかのようだった。
彼は数秒間ダイキを見つめ、彼がその状態に陥っている原因に直面するのを恐れた。
彼が聞き取れたのは、不明瞭なつぶやきだけだった。その中で理解できたのはただ一つ:
「あれ……あれは……何だ……」
彼は震える手で前方を指差した。
アラタは素早くその方向に頭を向けた。
彼の心臓は一瞬止まり、呼吸を忘れた。あるいは、生存本能が彼を動けなくさせたのかもしれない。
彼の体は麻痺していた。反応できなかった。彼の顔には表情すらなく、完全に緊張していた。まるで目の前の光景を処理できないかのようだった。
彼の目の前には、巨大な木の幹の後ろに、その木と同じ高さの生き物が彼らを見つめていた。その腕には筋肉らしきものはなく、不規則な漆黒の毛皮の下には骨しかないかのように見えた。
その頭蓋骨は彼らが今まで見たことのないものだった。鹿のそれに似ていた。黄色がかった骨が完全に露出していた。
それが彼自身の解剖学的な一部なのか、それとも真の姿を隠すための一種のマスクなのかはわからなかった。
その頭蓋骨の眼窩の中には、真紅の光が彼らをじっと見つめていた。若者たちが何か動くのを辛抱強く待っているかのようだった。
それは、永遠に続く自然の法則を不気味に思い出させるものだった:食うか食われるか、その究極の表現だった。