異世界転生!…なのに、なぜか森で一人ぼっち - 第三部
数分間、二人の間には重い沈黙が続き、緊張した空気が張り詰めていた。
鳥のさえずりがなければ、この沈黙はダイキにとって耐えがたいものだっただろう。
一方、アラタはまだイライラしている様子だった。おそらく、先ほどのパンチを未だに引きずっているのだろう。しかし、時間が経つにつれ、彼の表情は次第に和らいでいった。
「俺に一言も話しかけてこないのか?」
ダイキは歩きながら、仲間を観察しながら思った。
「あのパンチでまだ怒ってるのか? でも、一番変なのは、なんでこんな状況でこんなに冷静なんだ? 俺たちがここに来てから、彼は何も質問してこない。どこにいるのか、どうやってここに来たのか、それに……俺たちの死についても何も言わない。それは無視できないほど重要なことだろ! ましてや、一緒に死んだ相手の横にいるのに!」
「バカみたいに聞こえるかもしれないけど、せめて俺を見て喜んでくれてもいいのに。でも、それすらなかった。ただ説教してきただけだ。まるで演劇の授業でのモノローグみたいだった。」
「もしまだあの授業を受けていたら、だけど。まあ、あれからもうずいぶん経つけどな。」
「たぶん、長い間部屋に閉じこもっていたせいで、俺の常識が曇っちゃったんだろうな。」
ダイキは数秒間、友人を観察し続けた。彼は手を動かしたり、ポケットに手を入れたり、指を鳴らしたり、手を開いたり閉じたりして、気を紛らわせようとしていた。
すべては、アラタが最初に沈黙を破ってくれることを期待してのことだった。しかし、何も効果はなかった。アラタはただ横目で彼を見つめ、緊張した表情を保っていた。
「何やってんだこいつ?」
アラタはダイキの動きに困惑しながら思った。
ついに、ダイキは彼の注意を引くのを諦め、自分から沈黙を破ることにした。
「アラタ、大丈夫か?」
アラタは彼の目を見たが、その表情は会話をしたいという気配を一切見せなかった。
「どうした?」
「ただ……あのさ、俺たちがどうやって死んだのか、何か覚えてる? 俺はあの時の記憶が曖昧でさ。」
アラタはその質問に眉を上げ、驚きを隠せない様子だった。
彼の唇に笑みが浮かび、それまで保っていた真剣な表情が消えた。軽い笑いが彼の口から漏れた。
「じゃあ、これは夢じゃないってことか? 俺たちは本当に死んだって言ってるのか? ははは。マジで言ってるのか? 冗談だろ?」
「全部悪い夢なんだよ、ダイキ。明らかに……」
アラタは一瞬凍りつき、瞳が収縮し、顔が硬直した。
「おい、アラタ、大丈夫か?」
アラタの神経質な笑いは、次第に速くなる呼吸に変わった。
何の前触れもなく、彼は膝をつき、口を手で覆いながら、信じられないという感情に飲み込まれた。
「アラタ? 聞こえてるか?」
ダイキの声はアラタの耳には届かなかった。彼の心臓は今までにないほど激しく鼓動し、呼吸は秒ごとに荒くなっていった。
「こんなのありえない……そんなはずはない! バカみたいだ!」
アラタは思った。彼は何度も自分をつねり、これがただの悪い夢であることを願った。しかし、つねるたびに痛みが増し、彼はさらに動揺していった。
「お願いだ……何か……」
冷たい風が彼の体を包み込んだ。ダイキは完全に困惑しながら彼を見つめていた。
「どうしたんだ?」
ダイキはますます不安を感じながら思った。
「もしかして、アラタは本当にこれが夢だと思ってたのか? もしそうなら、彼の態度も少しは理解できるけど……」
「でも、さっきのパンチで気づかなかったのか? それとも、ただこれが悪い夢だと思い込んでただけなのか?」
ダイキはゆっくりと近づき、アラタを落ち着かせようと手を伸ばした。しかし、介入すべきか、それともアラタが自分で落ち着くのを待つべきか迷い、手を止めた。でも、この状況では、それは無理そうだった。
「おばあちゃん……」
ダイキがアラタの話でしか知らない女性の名前が、かすかな声で漏れた。
その瞬間、ダイキは何か重要なことに気づいた。彼がこの世界に来て、以前の人生から逃げ出し、彼を苦しめていたすべてを捨てたと感じている間、アラタにとってはそうではなかった。
ダイキはいつもアニメで見ていた「並行世界」を夢見て、日々の地獄から逃げ出したかった。
毎日が単調で、やることは揚げ物を食べたり、冷蔵庫にあるインスタントスープを見つけたり、一日中アニメを見たりゲームをしたりすることだけだった。
彼にとって、これはあの悲しい現実からの脱出だった。ダイキはここに来て何も失わなかった。むしろ、得たものの方が多かった。しかし、アラタは違った。
「おばあちゃんを一人にしちゃった……どうするんだ? 彼女は何もできない……俺が全部やってたのに! 俺がいなきゃ、彼女はうまくやっていけない。彼女の子供たちは面倒を見ようとしない……だから俺がやってたんだ。俺がいなきゃ、どうなるんだ! 彼女にいつもそばにいると約束したのに……俺がいなきゃ、どうなる……」
アラタは打ちのめされていた。彼の目は太陽の光の中で強く輝いていた。彼は涙を一滴も流さないように必死に戦っていたが、時間が経つにつれ、それが難しくなっていった。
ダイキはアラタの肩に手を置いた。
その温もりは一瞬だけだったが、アラタを襲っていた冷たい思考の渦を一時的に消し去った。ダイキは、それだけではアラタの内側を蝕んでいるものを鎮めるには不十分だとはわかっていた。
「聞けよ」
ダイキは正しい言葉を見つけようとした。
「誰かを置いてきたんだろ? ……でも、今更後悔しても仕方ない。俺たちは生きてる。」
「お前のおばあちゃんには会ったことないけど、きっとお前が生きてることを喜んでくれるよ。お前のことを心配して、気をつけるように言うだろう。」
「わからないけど、たぶん、ただたぶん、彼女はお前に心配しないで、大丈夫だって言うだろう。だって、お前のおばあちゃんだろ? お前みたいなところがあるなら、きっと何とかやっていけるよ。」
「約束する。」
アラタは彼の言葉を信じたいかのように、希望の光を宿した目でダイキを見つめた。
ダイキは心から笑っていたが、内心ではその空虚な言葉がアラタを本当に落ち着かせられるかどうか不安だった。
「嘘だよ、結局。何も約束できない。ただ……俺が言ったことが少しでも本当であってほしいって願ってるだけだ。」
ダイキは声には出さなかったが、胃のあたりに違和感を感じていた。彼は偽りの希望を与えるのが好きではなかった。ましてや、幼稚園の頃からずっとそばにいてくれた親友に。
「……ごめんよ、アラタ。」
ダイキはアラタに手を差し伸べ、そのジェスチャーがこの厄介な瞬間を終わらせる一歩となることを願った。彼は不安を隠しながらアラタを見つめた。
「さあ、立ち上がれ。一緒に転生したんだから、それは喜ぶべきことだよ。たぶん。」
「___」
アラタはまだ完全には回復していなかったが、以前よりはましに見えた。どうやら、ダイキの「空虚な」言葉が彼を立ち上がらせるのに十分な力を持っていたようだ。
「ああ」
彼は袖で目を拭きながら、少し鼻声で言った。
久しぶりに、ダイキはアラタの顔にわずかな笑みを見た。それは本当に彼を安心させた。
どうやら、彼の言葉は完璧ではなかったが、それほど悪くなかったようだ。
「手を貸してくれてありがとう。」
ダイキは驚いた。何を言えばいいのかわからず、数秒間言葉が出なかった。二人の間に沈黙が流れた。
「ああ! えっと……どういたしまして、たぶん。お前は俺の友達だし、自然に手を貸しただけだよ……文字通りな! はは!」
「なんてひどいジョークだ! こんな時にこれしか言えないなんて……」
「ええ……まあ、そうだな」
アラタは無理やり笑顔を作りながら答えた。
「もう行くべきだと思う。」
アラタは歩き始め、ダイキは肩をすくめて自分の顔を叩いた。
親しい間柄だったが、彼は自分が言ったことに恥ずかしさを感じずにはいられなかった。
「最悪だ……マジで、長い間部屋に閉じこもってたせいで、俺の社交スキルは完全に消えちまったな。」
「うぐっ……」