第一章:異世界転生!…なのに、なぜか森で一人ぼっち
虚空に笑い声が響き渡った。それはあらゆる方向から、そしてどこからでもない場所から聞こえるかのようだった。その声の正体はわからない。笑い声ではあるが、人間のものではない……何か別のものの笑い声だった。
「坊や、お前は自分が良い人生を送ったと思っているのか?」
その声は低く、嘲るように、ダイキを取り囲む無限の空間を満たしていた。体はない。音もない。ただ暗闇があるだけ……そして彼だけがいた。いや、彼自身も感じることができない。体も見えないのだから。
極寒が彼を襲った。体はないのに。何もないのに。ただ意識だけが果てしない虚無の中に漂っている。
何……何が起こっているんだ?
混乱の中、疑問が彼の頭を駆け巡ったが、何もかもが意味をなさなかった。
「ああ、お前はそう思っている。当然だな、誰だってそう思うだろう?」
その声が再び響き、ダイキは苛立ちを感じた。一体何が起こっているんだ? 俺はどこにいる? 体はどうなっている?
「気づかないのか?」
声のトーンが変わり、毒を含んだ囁きが彼の頭に響いた。
「お前には体も形もない。お前は死んだんだ、坊や。若くしてな。それでも、お前は自分の人生が良かったと思っている。皮肉だと思わないか?」
死んだ。
その言葉が雷のように彼の頭を貫いた。もしこの虚無に空気があるなら、彼は息をのんだだろう。呼吸すらできないのに、全てが押しつぶされるような感覚に襲われた。まるで彼の意識自体が、はじけそうな泡のようだった。
いや……そんなはずは……
「一番最悪なのは何か、わかるか?」
声は続いたが、今度は茶化すような調子に変わった。まるでダイキが少しずつ崩れていくのを楽しんでいるかのようだった。
「最悪なのは、お前が自分でこの運命を選んだことだ。お前の愚かな決断と、お前の人生……そう。お前の引きこもり生活。お前の行動が、お前をここに導いたんだ。思い出したか? 引きこもりで幸せだったか?」
「何……?」
声は彼の頭に響いたが、彼の唇は動かない。その言葉の重みが彼を引き裂いていく。
俺がこれを選んだ?
「違う! そんなはずはない!」
反論しようとしたが、思考は混乱し、まるで自分自身の中で溺れていくようだった。
「もちろん、お前が選んだんだ。お前の人生は逃げの連続だった。言い訳を並べ立て、何かにすがりついて、ただ自分の行動の結果から逃げようとした。問題を解決しようともしなかった。何を考えていたんだ?」
「俺の苦しみを知らないくせに!」
「苦しみ……? 本当に? 笑わせるな」
その存在の乾いた笑い声が無限の空間に響き渡った。
ダイキは自分の中の何かが壊れるのを感じた。今まで無視してきた何かが、ついに曝け出されるような感覚だった。
「違う……お前は俺のことを何も知らない……」
「そうか?」
その存在は鋭い笑い声を上げた。
「本当に、ずっと逃げ続けて、それで全てがうまくいくと思っていたのか?」
「本当に、問題に直面することを避けられると思っていたのか?!」
ダイキは叫ぼうとしたが、声が出ない。彼は閉じ込められ、無力だった。
彼は何度も全てに背を向け、逃げてきたことを思い出した。部屋に閉じこもり、恐怖や不安に支配されていたことを。戦う代わりに、簡単な逃げ道を選び、ついには逃げ場がなくなったことを。
「お前の全てを知っている。お前は惨めな奴だ」
その存在の声は一瞬柔らかくなったが、残酷さは消えなかった。
「なあ、お前は自分が避けようとした問題から何かを学ぶと思っていたのか? だが、違う。そして今、お前は自分の惨めさに閉じ込められている。これはお前が自ら招いた結果だ」
ダイキは存在しない胸が締め付けられるのを感じた。
彼が長い間築いてきた脆い泡……彼が自分の小さな世界で生きることを許していたその泡が、ゆっくりとしぼんでいく。
そして、彼の心のどこかで、もし違う選択をしていたらどうなっていたのかと自問し始めた。
「もうわかってきただろう?」
その存在は続けたが、今度はより深刻なトーンだった。
「お前がやってきたことは、現実から逃げることだけだ。そして、もう逃げられなくなった時……誰かがやってきて解決してくれるのを待っていたんだろう?」
否定できなかった。彼は物事が自然に解決するのを待ち、誰かが彼を救ってくれるのを待っていた。
「助けようとしてくれた人もいた。だが、お前はその手を振り払った。他人に自分の問題を解決してもらおうとしたんだ」
「お前にはチャンスがあった」
「だが、お前はそれに値しなかった」
青年は沈黙した。その存在の言葉は彼の頭に深く刺さり、無視できない真実だった。しかし、彼の中にはまだ諦めきれない何かが残っていた。この状況でも、変わりたいという願いが。
だが、その存在はそんなに優しくはない。
「もう終わったことだ。お前ができるのは、自分以外に誰も責めるものがいないことを認めることだけだ」
その存在の笑い声は徐々に消え、ダイキは暗闇の中に取り残された。彼の思考と、残酷な現実を突きつける言葉だけが残った。
「もう何もできない」
「ダイキ……そうだな、それがお前の名前か? これがお前の罰だ」
「罰? 何の話だ?」
ダイキは混乱しながら尋ねた。
時間が経つごとに、頭の中の疑問は増えていく。その存在が話すたびに、彼の混乱は深まるばかりだった。
「逃げるのが好きだろ? 心配するな、これからも逃げ続けられるぞ」
彼を取り囲む暗い虚無は、まばゆい白光に変わり、すぐに鮮やかな青空へと変わった。ふわふわとした綿のような雲がゆっくりと空を流れ、非現実的な光景が広がっていた。
彼は突然、悪夢から覚めたかのように目を覚ました。
「え……? ここはどこだ……?」
彼は唖然としながら呟いた。
慌てて立ち上がり、周りを見回した。信じられない光景が広がっていた。
彼は森の空き地にいた。周りには灌木や見たことのない花が咲き乱れ、聞いたことのない鳥の鳴き声が木々の間から聞こえてくる。
全てがファンタジーの物語から抜け出てきたかのようだった。木々は見慣れたものだったが、何かが違う……何かがおかしかった。
清々しい空気が彼の肺を満たした。今まで感じたことのないほど純粋な空気だった。しかし、彼の心には何の癒しももたらさなかった。
「これは……変だ。変すぎる!」
彼は周りを見回しながら叫んだ。
体はまだ鈍く、まるで終わりのないマラソンを走り終えたかのように足が痛み、腕は硬直して感覚がほとんどなかった。
彼は胸に手を当て、そこにあるはずの傷跡を探した……しかし、何もなかった。ただ破れたシャツと、乾いた血が白いシャツを汚しているだけだった。
「ありえない……夢だったのか? いや、そんなはずはない」
彼は独り言をつぶやき、破れたシャツを触り続けた。
「これは現実だ。あの全ては現実だった……だが、なぜ俺はここにいる?」
苛立ちながら、ダイキは頭を掻いた。頭の中の空虚感が圧倒的だった。パズルのピースが合わない。
俺は死んだ。それは確かだ。
だが、ならばここは……あの世か? いや、そんなはずはない。教科書に書かれているような場所じゃない。もしかして……
「異世界だ!」
彼は突然叫び、顔を輝かせた。
「これはあのファンタジー世界だ! 仕組みはわかってる:死んで、変な場所で目覚めて、神様みたいなやつと話す……何度も見たことある!」
しかし、彼の興奮はすぐにしぼんだ。彼は自分の体をちらりと見て、諦めと軽蔑の混じった表情を浮かべた。
「だが……俺の体は相変わらず情けないままだ」
彼はため息をつき、腕をだらりと下げた。
「初期装備もない……最悪だ」
彼は空き地を歩き回り、何か役に立つものを探した。何もない。ただ木々と灌木、そしてまた木々。
「動物もいない……こんなの期待してなかった。普通なら、街に出現して、可愛い召喚士が笑顔で待ってるはずだ」
「だが、ここには何もない。街もない、女の子もいない! 最悪だ!」
彼は叫びながら近くの石を蹴飛ばした。
「くそったれの神め!」
最後に、彼は長いため息をつき、落ち着こうとした。まずは最初の一歩だ、と彼は思った。ここから脱出しなければ。
彼は空き地の端に近づき、周りを取り囲む密林を見つめた。
心臓が激しく鼓動し、額に冷たい汗が浮かび始めた。一歩前に出ようとしたが、体がすぐに硬直した。
恐ろしいイメージが頭をよぎった:木々の間に潜む獣、飢えた狼、影から彼を狙う何か。無数の方法で彼が引き裂かれる光景。
「ただの森だ……なんでこんなに怖いんだ?」
彼は声に出して不平を言った。
歯を食いしばり、もう一歩前に出たが、その感覚は消えなかった。むしろ、さらに強くなった。呼吸が荒くなり、胸が激しく上下し、パニックが彼を襲い始めた。
「ちくしょう!」
彼は叫びながら頭を掻きむしり、頭の中のイメージを消し去ろうとした。
一歩後ろに下がり、森から離れ、近くの岩に寄りかかった。
ゴツゴツした岩に背中を預け、足を抱え込み、腕の中に顔を埋めた。かろうじて見える彼の目は地面を見つめていた。
「これからどうすればいいんだ……?」
その考えが遠くのエコーのように彼を襲った。
何も持っていない。どこに行けばいいのかわからない。ここに村や街があるのかもわからない。この森には狼か、もっと悪い何かがいるかもしれない。何もできない。
「もう逃げられなくなった時……お前はどうした? 誰かがやってきて解決してくれるのを待っていたんだろう?」
あの存在の言葉が彼の頭に残酷に響いた。彼は拳を握り締め、歯を食いしばった。
「ちっ……」
「いや。誰も待たない。俺一人で何とかする」
彼は小さな声で言った。まるで自分自身を説得しようとしているかのように。
「よし、ダイキ。これは部屋から食べ物を取りに行くのと変わらない。一歩ずつだ。難しくない」
新たな決意を持って、彼は立ち上がった。再び空き地の端に歩み寄り、心臓が再び高鳴るのを感じた。
一歩前に出た。そしてもう一歩。目をぎゅっと閉じ、危険について考えないようにした。
「できた……?」
彼は片目をゆっくり開けながら尋ねた。振り返ると、空き地はまだ見えていた。彼の顔に薄い笑みが浮かんだ。
「よし、難しくなかった」