99:『月浮かぶ湖面』の訓練姿
『百花繚乱』の地下訓練場。
そこで寡黙に訓練をする『月浮かぶ湖面』の姿があった。
「……ふっ、ふっ。限界を、超えろ。今のまま、立ち止まるな」
怠ける事なく腕立て伏せをしながら、周りに声をかけ続ける魔術師の男――レイク。
魔力を流し、同時に負荷をかけながらの訓練を行っている。
「……いつも、思うが……ふっ……俺達が……一番乗り、だな……ふっ」
同じように腕立て伏せをしながら、得意げに話す戦士の男――ウルフェ。
普段着ている鎧よりも重い重りを体に纏わせ、汗が床に滴り落ちる。
「そんな訳、ないに……! 決まってるでしょうがっ! ふぅっ……!」
その横で、重厚な胸当てに腰当てを装備し、更に重りを両手両足に付けた重戦士の獣人の女――ドギア。
彼女がウルフェの言葉を笑い飛ばす様に否定する。
誰が一番早く使っているのかなど、『花扇』以外の『百花繚乱』にそれなりに所属していれば分かる事だからだ。
「クラン長は……抜き、だろうがっ! ふんっ! 所属じゃ、ふん! 一番、だろ! ……はぁっ!」
話しながらで少し腹筋と腕が震えながら、どうにかして体を上げるウルフェ。
しかし、そんな会話をしながらも必死に筋肉鍛錬に勤しむ彼らを他所に……
もう一人は掠れる様な、息も絶え絶えな様子で口を開いた。
「はぁっはあっ……腕立て、ゲホッ……もう無理……フェンはこれ以上やったら、うぷっ……口から漏れる」
そう言って他のメンバーよりも少ない回数で腕立て伏せを諦め、地面にくっ付く盗賊の獣人の女――フェン。
ぐったりするフェンを、『月浮かぶ湖面』のメンバーはやれやれと横目に見ながら、腕立て伏せを続けた。
しばらくして、リーダーのレイクが満足したのか、声を張り上げる。
「ふぅ……ふぅ……良しっ! 今日の筋肉調整は完了だっ! この後は各自、自由にして良いぞっ!」
レイクの言葉を聞き、嬉しそうな顔で口を開くウルフェ。
「んじゃ、俺はちょっと用事があるからお先っ」
そう言って、そそくさと訓練場を出てシャワーを浴びに行こうとするウルフェにドギアが声をかける。
「どうせ、アンタの用事なんて色街でしょうが。祖国の両親が泣くわよ。血を分けた家族として恥ずかしいったら……」
「ほっとけ! 祖国でも同じ事をやってたから――」
「いってら。羽目は外しすぎないように~」
ウルフェはフェンの言葉でドギアへの怒りが遮られるが、さっさと行くか、と思いなおして口を開く。
「その辺は心得てるってなぁ! んじゃ、またな! レイク、用事あったら3番通りの――」
「分かってる。まったく、さっさと行け」
レイクもやれやれとしながらウルフェに告げた。
それを確認して、ウルフェも憂いはないと訓練場を後にする。
「まったく、どこで色にハマっちまったのかねぇ……アタシとフェンはそんな気配ないってのに」
「ウルフェはフェンたちと違って、下半身でモノを考えてる。だから、強い事でメスをモノにできると本気で信じてる」
二人は女性陣としての意見を言い合い、血を分けたウルフェに毒舌を吐き続ける。
「その話題はやめよう。昔からウルフェは女の尻ばっかり追っかけてたのは事実だが、何かあれば冒険者を優先してきたのも事実だ」
訓練場で唯一人の男性――レイクは肩身の狭さを感じつつ、フォローをする。
毎度、ウルフェが居なくなるとこの流れになるため、若干慣れてもきていた。
「甘いねぇ、レイク。ノーマもすっかり気にしなくなっちまったけど、男ってのは」
いつもの締めのように言葉が紡がれ、誰もそれ以上、何も言わなかった。
「それにウルフェは、俺が休みやすいように軽くする節もあるからな……」
レイクの小さな声は誰にも届かない。男同士の友情がそこにはあった。
訓練場には、再び静かな息づかいだけが残った。
………………
「よし……これで、追加の鍛錬も……ふぅっ……終わったな」
「お疲れ、レイク。毎度の事ながら、いつも良くやるねぇ。ノーマと同じ回数こなしてるって言うけど……アタシらより早く来て訓練して、そんな調子で休む暇なんてあるのかね?」
ドギアがそんな事を言いながら、水入れを手渡してきたのでレイクは受け取ると、口に含み飲む。
「ふぅっ……それだけやる男がクラン長だと言う事を、誇らしくは思うが……俺も確かに詰め込みすぎには感じている。だが、この間は故郷に戻った訳だしな。少しはリフレッシュできただろう」
そう言いながらも、もう少し休暇があっても良かっただろうに、と思ったレイクは天井を見る。
「あいつは昔から変わらない。厳しい目線を持ちながら、いつだって自分には更に厳しいからな。それを表には見せない様にしているんだろうが……冒険者であれば気付けてしまうがな。はは」
普段から考えられない、ノーマのどこか抜けているように感じる部分。それを思い浮かべて、ついつい笑ってしまうレイク。
その顔を見て、ドギアは苦笑する。
「レイクは……どちらかと言うと心酔してる」
ぼそっと呟くフェンの言葉に、ドギアは、うんうん、と首を縦に振り頷くが……何も言わない。
「ん? 俺が、なんだって?」
「なんでもないよ。レイクはそのまま、今のレイクで良いって話さ」
そう誤魔化すドギアだった。
ヒトが活動し始める時間が近付いてきたのだろう。
訓練場には他の『花扇』の面々も集まりだす。
――朝の訓練場に、今日もいつもの熱気と騒めきが響きだしていった。
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