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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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99:『月浮かぶ湖面』の訓練姿

 『百花繚乱』の地下訓練場。

 そこで寡黙かもくに訓練をする『月浮かぶ湖面』の姿があった。


「……ふっ、ふっ。限界を、超えろ。今のまま、立ち止まるな」


 なまける事なく腕立てせをしながら、周りに声をかけ続ける魔術師の男――レイク。

 魔力を流し、同時に負荷ふかをかけながらの訓練を行っている。


「……いつも、思うが……ふっ……俺達が……一番乗り、だな……ふっ」


 同じように腕立て伏せをしながら、得意げに話す戦士の男――ウルフェ。

 普段着ているよろいよりも重い重りを体にまとわせ、汗が床にしたたり落ちる。


「そんな訳、ないに……! 決まってるでしょうがっ! ふぅっ……!」


 その横で、重厚じゅうこうな胸当てに腰当てを装備し、更に重りを両手両足に付けた重戦士の獣人の女――ドギア。

 彼女がウルフェの言葉を笑い飛ばす様に否定する。


 誰が一番早く使っているのかなど、『花扇』以外の『百花繚乱』にそれなりに所属していれば分かる事だからだ。


「クラン長は……抜き、だろうがっ! ふんっ! 所属じゃ、ふん! 一番、だろ! ……はぁっ!」


 話しながらで少し腹筋と腕がふるえながら、どうにかして体を上げるウルフェ。


 しかし、そんな会話をしながらも必死に筋肉鍛錬にいそしむ彼らを他所よそに……

 もう一人はかすれる様な、息もえな様子で口を開いた。


「はぁっはあっ……腕立て、ゲホッ……もう無理……フェンはこれ以上やったら、うぷっ……口かられる」


 そう言って他のメンバーよりも少ない回数で腕立て伏せをあきらめ、地面にくっ付く盗賊の獣人の女――フェン。


 ぐったりするフェンを、『月浮かぶ湖面』のメンバーはやれやれと横目に見ながら、腕立て伏せを続けた。


 しばらくして、リーダーのレイクが満足したのか、声を張り上げる。


「ふぅ……ふぅ……良しっ! 今日の筋肉調整は完了だっ! この後は各自、自由にして良いぞっ!」


 レイクの言葉を聞き、嬉しそうな顔で口を開くウルフェ。


「んじゃ、俺はちょっと用事があるからお先っ」


 そう言って、そそくさと訓練場を出てシャワーをびに行こうとするウルフェにドギアが声をかける。


「どうせ、アンタの用事なんて色街いろまちでしょうが。祖国の両親が泣くわよ。血を分けた家族として恥ずかしいったら……」


「ほっとけ! 祖国でも同じ事をやってたから――」


「いってら。羽目はめはずしすぎないように~」


 ウルフェはフェンの言葉でドギアへの怒りがさえぎられるが、さっさと行くか、と思いなおして口を開く。


「その辺は心得こころえてるってなぁ! んじゃ、またな! レイク、用事あったら3番通りの――」


「分かってる。まったく、さっさと行け」


 レイクもやれやれとしながらウルフェに告げた。

 それを確認して、ウルフェもうれいはないと訓練場を後にする。


「まったく、どこで色にハマっちまったのかねぇ……アタシとフェンはそんな気配ないってのに」


「ウルフェはフェンたちと違って、下半身でモノを考えてる。だから、強い事でメスをモノにできると本気で信じてる」


 二人は女性陣としての意見を言い合い、血を分けたウルフェに毒舌どくぜつき続ける。


「その話題はやめよう。昔からウルフェは女の尻ばっかり追っかけてたのは事実だが、何かあれば冒険者を優先してきたのも事実だ」


 訓練場で唯一人ただひとりの男性――レイクは肩身かたみせまさを感じつつ、フォローをする。

 毎度、ウルフェが居なくなるとこの流れになるため、若干慣れてもきていた。


「甘いねぇ、レイク。ノーマもすっかり気にしなくなっちまったけど、男ってのは」


いつもの締めのように言葉がつむがれ、誰もそれ以上、何も言わなかった。


「それにウルフェは、俺が休みやすいように軽くする節もあるからな……」


 レイクの小さな声は誰にも届かない。男同士の友情がそこにはあった。

 訓練場には、再び静かな息づかいだけが残った。



………………



「よし……これで、追加の鍛錬も……ふぅっ……終わったな」


「お疲れ、レイク。毎度の事ながら、いつも良くやるねぇ。ノーマと同じ回数こなしてるって言うけど……アタシらより早く来て訓練して、そんな調子で休む暇なんてあるのかね?」


 ドギアがそんな事を言いながら、水入れを手渡してきたのでレイクは受け取ると、口に含み飲む。


「ふぅっ……それだけやる男がクラン長だと言う事を、誇らしくは思うが……俺も確かに詰め込みすぎには感じている。だが、この間は故郷に戻った訳だしな。少しはリフレッシュできただろう」


 そう言いながらも、もう少し休暇きゅうかがあっても良かっただろうに、と思ったレイクは天井てんじょうを見る。


「あいつは昔から変わらない。厳しい目線を持ちながら、いつだって自分には更に厳しいからな。それを表には見せない様にしているんだろうが……冒険者であれば気付けてしまうがな。はは」


 普段から考えられない、ノーマのどこか抜けているように感じる部分。それを思い浮かべて、ついつい笑ってしまうレイク。


 その顔を見て、ドギアは苦笑する。


「レイクは……どちらかと言うと心酔しんすいしてる」


 ぼそっとつぶやくフェンの言葉に、ドギアは、うんうん、と首を縦に振りうなずくが……何も言わない。


「ん? 俺が、なんだって?」


「なんでもないよ。レイクはそのまま、今のレイクで良いって話さ」


 そう誤魔化ごまかすドギアだった。


 ヒトが活動し始める時間が近付いてきたのだろう。

 訓練場には他の『花扇』の面々も集まりだす。


 ――朝の訓練場に、今日もいつもの熱気とざわめきがひびきだしていった。

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