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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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98:『見晴らす丘』のオン姿

 依頼に向かう、とある冒険者たち。

 その足取りは軽く、歌声と鼻歌まじり。気晴らしにピクニックにでも向かうような雰囲気ふんいきだ。


「もぉー、ヒルダさんったら! Cランク依頼でも、次はちゃんとよろいを着てくださいねっ!」


 さらっとした水色の髪を一つむすびの三つみにし、左目が緑色、右目が水色のオッドアイの中性的な美人――付与術師のウルルが、鼻歌を披露ひろうするヒルダに怒った声を上げる。


「アタイが鎧を着る時は、もっと危険度の高い依頼の時だけだって分かってるだろ? 何度もやってるんだから問題ないよ」


 大剣使い――ヒルダはそういうと、自分の胸をドンッとこぶしでたたく。

 前衛であり大剣を使うヒルダは、本来であれば全身鎧ぜんしんよろいで身を固めた上で戦闘を行う。


 だが、脅威きょういに感じなくなると鎧を着こまなくなるという、悪いくせがあった。

 今は手足、肩、胸当てのみを装備している。


「それに、格好についてはアタイは特に責めてないだろ? クルルだって騎士なのに、胸当てと腰当てだけじゃないか。変わらないだろう?」


 ヒルダの言葉に、ウルルは隣を歩くクルルを見る。


 歌っていたクルルはその視線に気付くと、歩きながら器用にくるくると回り、服装を見せびらかす。


「これ、可愛かわいいでしょっ! フレアスカートの上に邪魔じゃまにならない腰当て、それに胸当ても胸横にスリットが入ってて、オシャレなんだよ!」


 さらっとした緑色の髪をウルルと同じ髪型にし、左目に水色、右目が緑色のオッドアイの中性的な美人――騎士のクルルは笑いながら、おどるようにくるくると回り続ける。


 だが、男だ。美人な男だ。


「ふふ、可愛いねクルル。まるで美人騎士様! でも、下着が見えそうな短さだから、気を付けないと」


 そう言って、クルルの腰をつかんで止めると、フレアスカートをおさえてあげる盗賊――ライティ。


 ライティはしっかり者のお姉さんの様に、クルルの服を直していく。


「ありがとね、ライティ。クルル兄さん、可愛いものに目が無いから」


 兄――クルルの服装に、ウルルもほぅっ、と見とれながら言う。


「気にしなくて良いよ。ワタシもしたくてやってるからね。こんなに可愛い子のお世話なんて、良いじゃない」


 ライティはそう言いながら、クルルの服のみだれを直し終わると、後ろから抱きしめるようにほおずりする。頬ずりにくすぐったそうにしながらも、嬉しそうなクルル。

 その後は2人で仲良く手をつないで歩きだすと、前を歩いていたウルルとも手をつなぐ。


 真ん中にクルル、左にウルル、右にライティ。

 仲良し3人組だ。


 その様子を苦笑しながら見るヒルダ。


「まったく、アンタたちはクルルに甘いねぇ。クルル、服がやぶけない様に後ろで守ってるんだよ?」


「うんっ、ヒルダさん!」


 そう言いながらヒルダもクルルに甘かった。

 楽しそうな笑顔で嬉しそうな声音を返すクルルに、ふっ、と笑いながらヒルダは前に向き直り、目的地へと歩いて行く。


 今日の天気はとても晴れ晴れとした、ピクニック日和びよりだった。



………………



 無事に国境手前の村近くで増えすぎていた――フォレストウルフの群れを蹴散けちらし終わった『見晴らす丘』の一行いっこう

 少し暗くなり始め、帰りの道中は野営でもして帰ろうか、と話していると……


 前方で明かりを持ったヒトたちと、その周囲を囲む魔物が見えた。

 数が多い為に、牽制けんせいしながら、魔物の包囲ほういくずそうと狙っているようだ。


「あれって、わたしたちの狙ったフォレストウルフ……の残りでしょうか?」


「構やしないさ! アタイは動き足りなかったくらいだったさ!」


 ヒルダはそう言うとさっさと向かって行こうとする。


「あ、でもヒルダさんっ! そのまま近づいたらっ!」


 ウルルの静止は届かなかった。

 急いで3人も追従ついじゅうし、付いて行くと……


 ヒルダが近付く気配におびえたように、フォレストウルフは辺りを見渡し、そそくさと尻尾しっぽを巻いて逃げ出してしまった。


「だぁあっ!! どうして、普通にアタイが近付くと逃げてくんだい! 隠密行動おんみつこうどうばかりさせて、まったく、この犬ッコロ!!」


「ヒ、ヒルダさん……仕方ないですよ。それだけの闘気とうき殺気さっきを出したまま近付いたら……」


 ヒルダの怒鳴り声にウルルがなだめていると、視線を感じた2人は会話を止める。


「さ、先ほどの御助力、助かりました。なにぶん、数が多かったので上手い事、狩るのに時間がかかって面倒だったので」


 2人の会話が止まった事で、おずおずと剣士風の冒険者が話しかけてきた。後ろには3人の仲間もうなずきながら、ヒルダ達に感謝の言葉を言おうとする。


 だが、興味はないとばかりに、ざっくりとヒルダが先に口を開く。


「あぁ、そんなの興味ないよ。アタイらはこれから王都に戻るだけ。その時にたまたま魔物におそわれたアンタ達と出会った。そして、アタイも戦い足りなかった。それだけの事さ」


 そう言ってヒルダが後ろ手に手を振り歩き出したので、クルル達3人も通り過ぎる時に手を振って、去っていく。


「王都に着いたら訓練場で体を動かすよ! ウォーミングアップに走って帰るよ!」


「え~……その前に汗かいちゃうよー、ヒルダさーん」


 クルルの声を無視して、走り出す準備をするヒルダ。

 そのままヒルダの一声で、『見晴らす丘』は走り出し、一気に冒険者たちと距離が離れていった。


………………


「す、凄い方々だったなぁ……」


 剣士風の冒険者は『見晴らす丘』の去って行った方をながめながらつぶやく。


「だけど私達も王都に向かうから……向こうであったら、ちょっと気まずいかな?」


 魔術師風の冒険者も頷きながら、先の事を心配する。


「で、でも……さっきの感じだと、忘れちゃってそうですね……はは」


 突然とつぜんの登場と去り方に少し笑ってしまった、魔具を腰に下げた冒険者。


「まぁ、良いじゃんか。王都であったら助かったって改めて伝えて、酒でもおごればさ! ほら、行こうぜ!」


 盗賊風の冒険者が明るく声を出し、先を行こうとうながした。


「よし! じゃぁ、さっき倒した魔物の素材を回収して、王都にすすもっか!」


 完全に暗くなる前に、急いで作業を進めるのだった。



………………



 結局、『見晴らす丘』は夜通よどおし走り続け、明け方には王都に到着したのだった。


 ヒルダにクルルとウルルがかつがれた状態で……

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