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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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95:親密で辛辣な親交

 ティーカップに注がれた紅茶から湯気が立ち上る。

 この部屋は先ほどまでとは打って変わり、おごそかな空間に様変わりしていた。


 ディアナ女王とエリアベートは静かに紅茶を口に含む。

 俺はその様子をながめ、机の上で手を組み無言。


 流石に紅茶を飲む時間は待った。話を切り出しても良いだろ?


「……エリアベート、そろそろ本題に入らないか?」


 エリアベートはティーカップをカチャッ、とソーサーに置く。


「えぇ、構わないわよ。ノワール、良いわよね?」


 ディアナ女王――ノワールを見て、微笑ほほえみかけるエリアベート。


 ディアナ女王とエリアベートの関係がまだ掴めていないが……どうやら、大分親密な関係のようだな。

 そもそも、王城につながる地下通路の件もある。アルテミスの話を考えると、相当な……


「そうですね。すっかり紅茶を楽しもうとしてしまいました」


「ふふ、ノワールはいつもオンオフの差が激しいわよね」


 どの口が言うのかっ!、とは言わない。

 言った時に酷い目にあいそうだからな……


 ディアナ女王――ノワールは紅茶を置くと背筋せすじを伸ばし、俺を真っすぐに見てくる。


「では、改めて……ノーマ。急な呼び出しにも関わらず、良く来てくれました。今回の件をエリアベートから聞いた時に、アナタと直接会って為人ひととなり、状況を直接確認したいと思ったのです」


 ノワールの言葉で、先ほどまでの弛緩しかんした空気は消え去った。

 そして、真っすぐに見つめられる目からは、力強さを感じさせる。冒険者とはことなる力強ちからづよさの質。王国の頂点に位置する女だ。


 流石に……ただの女性が女王など出来る訳もない……か。

 入室してからの軽い雰囲気ふんいきに引っ張られたな。確かに、エリアベートの言う様にオンオフの差が激しい。


 ノワールの言葉に徐々に強制のようなモノを感じはじめ、早めに返答する事にした。


「……一介いっかいの冒険者には、身に余る光栄です。ただ、呼び出され方は気になりましたがね……」


 意図いとせず、軽口――本心がつい出てしまう。


 強制力に近い。それなりに場数は踏んだと言える俺が、ディアナ女王の圧力に肩が強張こわばり、本心を隠せないのだから。


 会う前の緊張とは違う。ディアナ女王の奇異きいな気配にやられたのかもしれない。


「ノーマ、その件はもう忘れなさい? それとノワール、力が入りすぎよ。それ以上見つめ続けたら、ノーマが更に委縮いしゅくしてしまうわよ。言ったでしょう? 彼は無能者だって」


 エリアベートの言葉でノワールからの圧力が下がる。


 ディアナ女王は冒険者ではない。だがその実、内に秘めた力は強力。そう評価するのが妥当だろう。

 当然、女王という立場もあるが、それのみで彼女を判断するのは危険か。

 得体えたいのしれない感覚はエリアベートと良く似ている。


「失礼しました。権威をまとう事に慣れてしまうと、調整が難しいものですので。それで、ノーマ……アナタはどこまで予想していますか?」


 ……どこまで?

 何を予想するって言うんだ?


「ノワール、端折はしょりすぎよ? ノワールはこう言ったのよ。アナタは現状、他に何を知り、これからの動きをどこまで既定路線きていろせんと考え、今後をどう予想しているのか、よ」


 他に知っている事は、ないな。言ってない事はあるだろうが……

 その点も含め、今後の上位貴族への既定路線は既に予想がついている。


 今後の予想は、曖昧あいまいだがな……


「……以前、話したのが俺の知る全てだ。その上で予想は立てたが、曖昧あいまいなモノでしかない」


「それで良いのよ。ディアナ女王はそれを求めているのだから」


 エリアベートがノワールへ顔を向ければ、静かにノワールも同意するようにうなずいた。

 俺はそれを確認して、再度口を開く。


「それで良いなら……ジスタリア家から王都の流通経路詳細は判明します。けれど、黒幕くろまく――『毒蜘蛛ポイズンスパイダー』の尻尾しっぽつかめないでしょう」


「そう言い切れる理由はどこにあるのでしょうか?」


 俺の言葉にディアナ女王は目を細め、真意を聞きだそうとする。


「詳細は知っているでしょうから省きますが、既に時間も経過した今……国外に潜伏せんぷくし、こちらの動きを監視する程度に留めるでしょう」


 それに……インフィオの見つけた脅威きょういもいるからな。

 なおさら尻尾ですら、既に掴まれないところにいったはずだ。


 あの時は、たまたま『毒蜘蛛』の一歩先を行けたからこそ、掴めただけだしな。


「それができるだけの暗部のモノ――インクローズが見張っているので。我々の動きはほとんど、見抜かれているでしょうね」


「……では、なぜアナタはいち早く見抜いたのですか? 活動拠点を」


 俺の言葉にディアナ女王は不思議そうな眼差まなざしと、何か確信を持ったようなひとみで問いかけてきた。


「それは情報の取得が、ただの幸運でしかなかったからですよ。本腰を入れたなら『百花繚乱』でも……インクローズには、それだけの腕がある。違和感を感じ取るだけの……」


 インフィオの存在に気付けると言う事は、そこらの暗部あんぶ――暗殺者あんさつしゃ密偵みっていの才能持ちなど露見ろけんした上で利用されるだろうからな。


 それだけイチ技能に関して、有能で厄介な存在が『毒蜘蛛』に付いている。


「そうですか。やはり、エリアベートの話から予想された状況ですね。王国として騎士団を動かせば、決して姿は見せない。ですが、このまま放置する事もできない……」


 俺をじっと見つめ、返答をうながすディアナ女王。


 俺にどうしろと言うのか。こちらとしては首尾しゅびよく情報が得られるとは……

 まさか『百花繚乱』、いやインフィオを動かせと言う事かっ!?


 そんな答えは幾らディアナ女王であろうと口には出さないっ!

 インフィオは『百花繚乱』で咲く花だ。誰であろうと、俺の花はイジラセナイ。俺の意思、俺達の意思でない限り!


 これこそ、許されない越権えっけん行為だっ!


「ノワール? ノーマの顔を見てみなさい? 踏み込みすぎるから、葛藤かっとうしだしちゃったじゃない。政治手腕せいじしゅわんをどうこう言うつもりはないけれど、彼の『百花繚乱』に無理強むりじいは駄目よ?」


 エリアベートがディアナ女王の手を握り、さとす様に言葉を出した。


「ごめんなさい、エリアベート。事前の評価ではノーマなら乘って来るかもって思ったのですが。『百花繚乱』はそれほどまでに彼にとっては大事なのですね。国などよりも」


 ディアナ女王の言葉で、フッと圧力が減る。


 生きた心地がしない会合だな……

 この間の『奇跡協会』とエリアベートの時よりも……ここにアルテミスがそろっていたら、一飲みで俺なんて食われてしまいそうだ。


 なんでか、エリアベートが俺を守ってくれているがな……


「協力はできませんが……一先ひとまずは王国が警戒けいかいしている事を示せば、『毒蜘蛛』は去るでしょう。上位貴族――ジスタリア伯爵を筆頭ひっとうに、関係貴族の排斥はいせきを行えばですが」


「……そうですか。では、アナタの意見も確認できましたし、その様にいたしましょう。エリアベートの友であり、アナタの住まう良き国、ディアナ王国女王のノワール・フルムーン・ディアナがちかいます」


 非公式の謁見えっけんでディアナ女王は胸に手を当てて告げた。

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