94:ディアナ王国女王との非公式な謁見と越権行為
あれから室内でしばらく待機している。
時間が過ぎれば心も落ち着くと思いきや……
いつ来るのか、そもそも礼日作法など知らない、どこまで話が通っているのか。
それすらも分からずに背中に汗が出続ける。
表面上は顔に汗は出ていないだろう。だが、口の中は渇き、膝を付き俯いていると、吸い寄せられて倒れそうな気分になってきた。
「……はぁ、はぁ」
隣を見れば、同じような姿勢のエリアベートがいる。その奥にはカスミ。
だが、彼女達は俺と全く様子が異なり、緊張もしていない。
俺だけが口から苦しい声を出している。
「ふっ……う、ふ……」
俺を眺めて笑うエリアベートだが、声は出さない。
必死に声を出さないようにしながら、引き攣ったように表情がころころ変わる。
「……ぐっ」
なぜ声を出さないのか。
既に女王付きの者――恐らく使用人が部屋に居るからだ。
そして、エリアベートを真似して今の姿勢で居るが……長い。
「まだ、か……」
小さく漏れてしまう焦りの声。
その声にエリアベートが遂に笑い声を上げた。
「あっはは、ノーマ! アナタ、緊張しすぎよっ! 女王との謁見だからと、そこまで……うふふ!」
エリアベートが声を出すと立ち上がる。
こ、声を出したらまずいんじゃないのか!?
姿勢も普通に立ってるけど、良いのかっ!?
ばっ、と使用人を見るが何も言わない。
静かにそこにいるだけだ。
「ノ、ノーマ……? ふっ……ふふ! いつまでその姿勢をとっているの……? あははは」
「……どういう事だ、教えろ」
「あら? うふふ、知らなかったのかしら……? 非公式の謁見だから、今時点で畏まる必要なんてないわよ? ぷふっ」
こ、この姿勢、まだ意味ないのにやってたのか!!?
あぁああ……やっぱりこいつの悪戯は、インフィオと違う……! インフィオは中でしかやらねぇってのにっ!!
もう一度やられたら、本気で怒りに任せそうだ……!
「……はぁ」
だが、ここは王城……落ち着け、流石にそんな姿を女王にお見せするのは明らかな失点になる。
俺の武器は思考だろ……冷静になれっ……! 落ち着け……可愛い悪戯だ、と水に流せ……あぁ、くそっ……心がざわつく!
「ふふ、楽しんでもらえたようね。それで、今度こそいらっしゃるわよ。ほら、使用人が扉に手をかけたでしょう?」
「……あぁ」
「そこで膝を付き、頭を垂れ、女王に一言声をかけられてから名乗るのよ。もう落ち着いたわね?」
「……大丈夫だ。さっきの事に比べたら、何でもないように感じ始めた」
もう大丈夫。緊張感に飲まれるな。
エリアベートはわざとやりやがったのは嬉しくないが……俺の緊張をとる為に、そして少しばかりの悪戯を思いついたのだろう。
「なら良かったわ。流石に女王の前でも、アナタがおろおろする姿をみて笑わないなんて……堪えきれそうにないもの」
「……」
言いたい放題言うな……近付けば近づくほどに、厄介さが増していくんだろうな、この女は……
別に俺から近付いている訳じゃない……確かに尊敬している部分もあるし、惹かれる側面もある。事実だ。
だが離れていこうとしても、俺よりも早い速度でグイグイ近付いて来てる。だから逃げられないだけだ……
そして……ガチャッ、と扉が開かれた。
「お待たせしたわね、エリアベート。それにカスミも。それと先日頂いた紅茶も美味しかったわ」
何も言わない。凄いさらっと言えば世間話をされているが、まだ声をかけられていない。
「それで……エリアベート? この部屋の中では格式ばった行為は辞めて欲しいと、いつも言っているじゃないですか。それに彼を呼び出したのは私達でしょう? なぜ非公式の謁見で跪いているのか教えてくれますか?」
女王の言葉に本気で怒ろうと決意した。
小声で俯きながら、エリアベートに言う。
「……おい、エリアベート。俺はそろそろ本気で怒るからな。1日で許容できる範囲を超えそうだ」
「ふふ、うふふ。ノーマ、アナタもそろそろ疑う事を覚えたようね? これも立派な進歩よね? あははははっ!」
エリアベートは高笑いを始めた。ディアナ女王と思われる女性の前で。
すっと立ち上がるエリアベート。だが、俺は立ち上がらない。
どうせなら初対面だし、頭を垂れて正式に挨拶しておこうと思ったのと、立ち上がる気力が湧かなかったせいだ。
どちらかと言うと気力が大きいだろうな……
「ノーマ、よく来てくださいましたね。エリアベートからの報告を受けて、アナタともお話をしたかったんです」
女王は俺に声をかけてきた。
エリアベートよりも幾らか世間話な声音を脱し、少しフランクな優しい声音といった感じだ。
ここで、しっかりと挨拶を返そう。それから自分のペースに持っていけば良い……エリアベートに乱されすぎただけだ……!
「ディアナ女王、お初にお目にかかります。王都で冒険者として活動し、『百花繚乱』のクラン長を――」
「知っておりますから、省きましょうか。ほら、立ってイスに座ってください。ほらほら! 美味しい紅茶とお菓子もありますよ!」
俺の挨拶は途中で割り込まれ、女王にさっさとイスに座るように促される。紅茶とお菓子付きで。
……えぇ~、なんか軽いんですけど。俺、初対面なのに……
俺の緊張、返せよ……




