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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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91:だからこそ、花は惹かれる

 『百花繚乱』を出る金髪の女。その容姿ようしは見る者によって表現は変わるだろう。


 あどけなさの残る守るべき少女のようであり、つやっぽさを振りまき男性をき付ける愛すべき女性であり、高貴な身分で高嶺たかねの花の令嬢れいじょう、と。


「今日はなんて、楽しかったのかしらっ!」


 通りで両手を伸ばし、くるくるとおどるように回りだす。

 夜もけ始め、酒場に向かう人混みの中、彼女の周りはぽっかりと隙間すきまができる。


 そして静かに彼女をながめる通行人。


 彼女は力を使っていない。今は、その存在すらも隠していない。

 だからこそ、人は惹き付けられる。


「あぁ、無能者のノーマ。彼の周りには花がたくさん。それも、一際ひときわ輝きを放つ花ばかり! 素晴らしい! なんて素晴らしいのっ!!」


 『百花繚乱』からアルテミスとカリストも出てくると、目の前の通りで踊るエリアベートに驚いてしまう。


「……何をやっているんですか。通行人の邪魔じゃまでしょう」


 ぴたりと動きを止めると、アルテミスに目を向けるエリアベート。


 そして通行人も、はっ、と気付き、無意識に見とれてしまっていた、と動き始めた。


「ふふ、何もしていなくても集まるモノなの。高潔こうけつな魂には、皆、引き付けられるものなのよ。自然と、ね」


 アルテミスはエリアベートの言動にイライラしそうになりながら、目頭めがしらを押さえる。


「……なぜあなたは事を大きくするのでしょう。いえ……あなた方、カレンデュラ家は、でしょうか」


「人生に謳歌おうかできないモノだからこそ、人生を面白くしたい。私達一族は人生の中に居ながら、現実を送れない。だからじゃないかしら?」


 笑いかけながら言うエリアベート。

 その言葉の意味に、アルテミスは眉を寄せて困ったように考え、口を開く。


「……なぞかけですか? いささかも、理解ができません。それとも、それを見て嘲笑あざわらっているのですか?」


「はぁ……本当に、頭がかたいのね……だからこそ、『奇跡協会』なのでしょうね。でも、アナタ達だって似たようなものじゃない。人生を謳歌おうかしているとは言えないわよ」


「人生を謳歌……それを決めるのは自分自身の行動と結果によって――」


「ほら、堅い。アナタのアナタらしさは仕事によって生まれたもの。けれど、ノーマとの時間でアナタは違う一面を見せた。それこそが人生を謳歌している瞬間しゅんかんよ? それも謎かけだと言うの?」


「……良く分かりませんね」


 アルテミスは困ったように声を出す。

 その様を見て、エリアベートはなげかわしいとでもいう様に、カリストへと視線を向ける。


「カリスト、アナタも大変ねぇ? ふふ、仕事はできてもポンコツなのはアルテミスの特性なのかしら?」


おっしゃっている事は良くわかりませんが、それくらいにして頂きたい! 我々はアナタと違い、ヒトだ。ヒトは苦悩くのうし、藻掻もがき、時代をつむいだ! アルテミス様も同じ事。完璧かんぺきな者などいない!」


 カリストはエリアベートに対し、少しばかり厳しい言葉を投げかける。

 だが、その反応こそ待っていたとでも言いたげに、エリアベートは笑った。


「カリストはヒトらしい反応よ。だからこそ、アルテミスもアナタが好きなのでしょうね」


「……やめよう。これ以上、アナタと言い争いはみにくい。それに……聞こえない様にしていても、周囲の目がある。ここで終わりにして別れよう」


 アルテミスは声音を普段の厳しい口調に戻すと、エリアベートに背を向ける。


 その姿にエリアベートも、先ほどまでの表情から貼り付けたような笑顔に変え、歩き出す。


 カリストはその姿を体を少し横に向けながら見送り、アルテミスの後ろにいそいそと付き従い、歩き去った。


 『百花繚乱』の前はいつも通りに人が行きいはじめ、それなりにヒトの声がにぎわいだしていった。


 そしてしばらくし……

 エリアベートは自身が王都に所有する邸宅ていたくに着くと、カスミに迎えられる。


「エリアベート様、お帰りなさいませ。会合はどうでしたか?」


 お辞儀をし終わると、眼鏡をクイッとして話しかけるカスミ。

 その姿にエリアベートは笑顔を向け、口を開く。


「ただいま、カスミ。会合よりは『百花繚乱』が面白かったわよ。短時間で楽しみつくしたわ」


「そうですか。それで……どういった点で?」


「そうねぇ……主にノーマの唖然あぜんとした顔かしら? あの顔だけで言った意味があったわ」


「……」


 少し悩ましそうな顔をカスミが見せると、エリアベートは苦笑する。


「半分冗談じょうだんよ。真面目まじめに答えるなら、血の継承者けいしょうしゃが彼の元に居たわ」


「遠い御親戚ごしんせき、とでも言うのでしょうか?」


「ふふっ、そうね。そうなるのでしょうね。あちらはヒトで、こちらは人外ヒトデナシという、遠い親戚。無能者……『花園の批評家レビュアー』の元に今は居たのには……驚いたけれどね? あははっ」


 無能者という言葉を言い直したエリアベートに、カスミは少し首をかしげた後、うなずく。


「見込みがあるのであれば、『月下の乙女ナイトメイデン』に引き入れますが?」


「それはダメよ? 折角、伸び伸びと育つ事が出来る自分の居場所を見つけたの。批評家ノーマの下でしっかりと芽吹めぶいて、つぼみから花を咲かせてもらいましょう? 花園をらしてはいけないわ」


 エリアベートは『百花繚乱』で見かけたモノをいとおしそうに、けれどれて、手折たおってしまいたそうにしながら答える。


「……それでよろしいのですか?」


 エリアベートの顔が余りに、悪戯いたずらをしたいけれど我慢がまんしているような顔であったため、カスミは聞き返してしまう。


「あら……ふふっ、私ったら……うふふっ……あははは! なんてはしたない顔をしてしまっているのかしらっ! あははははっ!」


 エリアベートは自身の顔を触り、そのほほがひくひくと上がり、極上ごくじょうの笑顔をしている事に気付くと、更に笑いだしてしまう。


 その高笑いは邸宅の庭に響き渡り、王都に消えていった。

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