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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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90:毒成分は花にもある

 『百花繚乱』の建物の一室。

 何かに使用されるであろう薬品や魔物の素材。それらが幾つも並ぶ部屋の中、作業をする者が2人。


「どうかしら?」


 ローブを羽織はおり、とんがり帽子をかぶった女性が声をかける。


「そうですねぇ……まだ毒性が抜けてないですし……危険な事には変わらないですし」


 ダボついた服に眼鏡をかけた少女が、試験管の中身を見ながら書類に書き写していく。


「そっか……焦っちゃいけないけど、気ははやるわね……魔術師失格だわ。もっと冷静に思考する必要があるかな……」


「この件に関しては、私達の悲願でもありますから。でもきっと……成しげて見せるんです。正攻法で厳しいなら、迂回うかいすれば良いんですよ。周りから邪道じゃどうと言われても……これは可能性に至るために必要なモノですから」


 コンコン、コン。

 部屋のドアが軽快にノックされ、二人は注意深く扉に顔を向けた。すると外から見知った者の声がかけられる。


「開けて~。ね~、ね~」


「インフィオさんですね」


 眼鏡の少女は声の主を確認すると扉に向かい、開く。


「やぁやぁ、クロエ。それにノインも」


 扉の先にはインフィオが立っていた。

 室内で作業をしていたクロエとノインに笑顔を向けながら入る。


「えぇ、インフィオさん。それで、どうだったの?」


「ん……? なにが~?」


「……ノー兄の様子ですよ」


 ノインはインフィオの勿体ぶった返答に、ふくづらをして言う。


「そうねないでって。問題ないよ。問題はあったけど、きっと解決できるからさ」


「そう……ありがとう、インフィオさん」


「それと建物からお客さんは撤収したから、もう大きい音を出しても平気だよ」


 手をひらひらさせながら、気軽に言うインフィオ。

 その言葉でノインもクロエもホッと息を吐く。


 部屋の中のモノは『外部』にれると厄介やっかいなモノばかりだからだ。


「ノーマの方は問題なさそうだけど、君たちの方はかんばしくなさそうだね」


「……諦めません」


「えぇ、諦める訳ないの。私達は『開花』で目指しているんだから。ノー兄は若干諦めてる節があるのは分かってる。自分をよく理解してる人だから……だから、邪道でも私は支える」


 二人はこころざし固く、机の上の機材や資料を眺め、作業に戻る。


「ノーマはまだ知らないし、知ったら止めるかも。けど、それが必要になるかも知れないから止めないよ。見てるだけだからね」


 にこっと笑い、後ろ手に手を組むインフィオ。

 楽しそうに、にこにこしたまま実験結果の書面を見ていた。


「成分の細かい調整が更に分かれば、毒性を抜いて魔力の増強が行えそうなんですけどね……インフィオさんにも分かりませんか?」


 クロエの言葉に、結果を見ながら悩ましい顔になるインフィオ。


「ん~……流石に成分までは知らないからなぁ……そこまで調べるには相当な危険リスクだし、ノーマにバレちゃうからさ。ごめんね」


「『毒蜘蛛』はどこからこういった情報を手に入れているんでしょう……人員と資金の豊富さも」


 ノインは試験管に入った粉末を眺めると、目頭を抑えて呟く。


「……こっちはサンプルを手に入れたけど、やっぱり厳しそうね。魔法の依り代としても解析かいせきが進めば……良かったんだけど」


 残念そうな顔をして試験管を眺めるノイン。


 依り代として使えるのであれば、ノーマの悩みの種である、魔力量の少なさを解決できる可能性が見えてくるからだ。


 害のない永続的な魔力量の増加。それこそが彼女達の実験内容であり、悲願である。


「さっきは必要になるかもって言ったけど……なんだかんだ、ノーマにはこの研究、必要ないのかもね。魔力量の問題なんて些細な事って言いそうだ」


 インフィオの呟きに、ノインとクロエはお互いに顔を見合わせ苦笑する。


「柔軟な考え方がインフィオさんの優れた部分だと思います。けど、私達は『始まり』からお兄さんの事を見てきたから」


「そう、最初の時から。だから簡単じゃないの。こびりついて離れなくなった、押し花みたいなものなのよ」


「軽率な発言だったね。前に進むためにも必要な事なんだね」


「いつか必要になれば使えば良い。使わなくても済むならそれでも良い。でも……」


「お兄さんが『可能性』を求めた時に、何もできないのは嫌……ですから」


 二人の目は、ブレることなくインフィオを見る。決して、その意志はブレる事は無い、と視線が訴えた。


「……そっか」


 インフィオはそれだけ言うと扉に向かって歩き出す。

 最後に扉を開きながら、ノインとクロエの背中に向くと口を開いた。


「ノーマが望むと望まざると、それがある事で救われる可能性、か。根深い問題だよね。ノーマにも、君たちにも」


 インフィオは最後にそれだけ告げると部屋から出ていった。


 その言葉に、部屋に残った二人は溜め息を吐く。


「ノー兄にだって、才能開花する資格はあったはずよ……いいえ、無ければおかしいわ」


 机で作業するノインの指は、書類をなぞりながら微かな震えがあった。怒りか、不安か。もしくはそれらがない交ぜになったモノか。

 自分自身にも分かっていなかった。


「そう、ですよ。きっとお兄さんにだって、あるはずなんです」


 クロエも作業をしながら、震えそうになる声をなんとか押し殺し、作業に集中する。村を出た時から、そうする事が運命さだめであったとでも言う様に。


 二人はそう呟く声と共に、扉はパタリと閉まっていった。

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