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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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89:貴族としての強みと不自由さ

 この部屋に集まっている者はそれなりの立場の者ばかり。

 だからこそ、切り替えも早い。


「それじゃぁ……私に何をどうして欲しいのかしら?」


「今回の件、アルテミスから軽く聞いてないか?」


「唐突に呼ばれたのよ? 何について呼ばれたのかすら知らないわ。でも……予想はつくわよ?」


「……聞かせてもらいましょうか? アナタの予想とやらを」


「あらあら、嫌な言い方ね? 先ほどの『ポイスパ』と言う発言。そこに最近の貴族達の動きを見れば、おのずと答えが出るわよ。必死に巻き込まれない様に、あの手この手で逃げてるのだから」


 予想、ねぇ?

 それだけで確度かくどの高い予想をしたのか? 俺達の動きすらも何をしようとしてるかも理解してる言い方なんだけどな……


「ほぼ、全て理解しているって事だな……それならそうと言ってくれ……」


「それは違うわ。あくまでも予想。詳細を聞かなければ、私は協力なんてしないわよ? 幾ら最近のお気に入りの玩具ノーマの頼みでも、ね?」


 ……目を見るのが怖いな……ふとした瞬間に悪戯にやられそうで。

 悩んで下向いてるフリしておこう……


「そうか……じゃぁ、順を追って説明させてもらう」


 そして俺は話していく。

 これまでの経緯を……


 思えば、アルメリアとフリュウに出会ってから、続いて来た事なんだなぁ……

 出会って、そう長い付き合いかと言われると、まだまだなんだけどな。


 そんな事を思い浮かべながら話し続けた。


「……ふぅ。これが今回の経緯だ。エリアベート、分かったか?」


「えぇ、承知しょうちしたわ。私が何をしなくてはいけないのかも。まぁ、ノーマは別の事も思い浮かんでいたみたいだけど? 女のかんとしては、別の女の事ね? これだけ、綺麗どころが部屋に居るっていうのに。ふふふっ?」


 最後は、にたりと笑いながら言う。


 俺からどういう反応が返って来るか分かってるのに、わざと言ったな?


「ノーコメントだ。それで? アルテミスとエリアベートの見解は一致してるのか教えてくれ。協力ができるのか」


「……こちらは問題ありません」


「えぇ、私だってそうよ?」


 ディアナ王国怖い女選手権があったら、この二人は上位十人には入ってるだろうな……


 見ろよ、カリストの、なんて静かにコーヒーを飲む姿……なごむねぇ。

 あいつ、ミルクと砂糖を入れまくったな? 一人で激甘げきあまコーヒー飲んで、ほんわかしてるよ……


「……では、王国への根回しと貴族の呼び出し。この二つはエリアベート、アナタにお任せしても良いのですね?」


「えぇ、簡単な事ね。とても、とても、簡単な事よ? うふふ?」


「ははは、そうか。簡単な事か? はははは」


 ……目を離してた隙に、もうバチバチと。

 敏感びんかん導火線どうかせんでも付いてるのかよ……お前らは……


「はいはい……それで、役割分担は平気そうだな? じゃぁ、エリアベート、頼んだぞ? アルテミスもな? カリストは……まぁ、そのままで良いか……」


 一人だけ蚊帳かやの外なのに、発言させずに放置してたらお茶菓子と甘々なコーヒー楽しんじゃってたしな。

 「あま~い」、ってうっとりしちゃってるの見てると、なんか現実に呼び戻したら可哀そうになるし……


 その後もしばらく、エリアベートとアルテミスと共に会合の詳細を確認しあい、突き詰めていった。


 時間も夜更けになる頃、話し合いも終わった。

 エリアベートは、さっと立ち上がり口を開く。


「じゃぁ、また後日ね。ノーマ?」


「はいよ。改めて、貴族との矢面に立ってくれて助かる。その代わりの礼になるかは分からんが、今は細かくお前に聞かない事にする。この件の後でも良いから、教えてくれ」


「えぇ、良いわよ。『奇跡協会アルテミス』が良いと言うのであれば、ね?」


 未だ座っているアルテミスを上から見下ろして言うエリアベート。


「……協力者のノーマさんには、今後とも良い仲を築いていきたいと考えております。ですので、落ち着いたら私もいる場所で、お願いいたします」


 静かにエリアベートを見ながら言うアルテミス。


「……そ、そうか。次は俺のいる時だけで良いから……もう少しだけ、仲良くしてくれよな……巻き込まれたら、自分の身が守れるか不安だ」


 情けなく、それだけ告げるのであった。


「そうですね……迷惑にならない様に気を付けます。では、私達もこれで……カリスト、帰りますよ?」


「はい、アルテミス様! ノーマ殿。美味しいコーヒー、紅茶とすまなかった。なんだかんだで、ついつい頂いて」


 少し照れながら言うカリストに、うんうん、とおじいちゃんのような気分で優しくうなずく。


 カリストは慌てたり、怒っているよりも、その方が良い。

 ガウルと同じで、のんびりして好き勝手して楽しそうな方がな。


「気にするな。そのお陰で、大分心が安らいだ。今後も気兼ねなく来ると良い」


「そ、そうか? ありがとう」


 カリストはそう言うと、元気な顔でアルテミスの後を付いて行った。


 クラン長室から皆が出た後に口を開く。


「インフィオ。お前はどこまで知ってたんだ」


 クラン長室の扉が開かれ、インフィオが姿を見せる。


 今回はそこからか。突拍子もない位置から出てくるかと身構えていたんだがな……まぁ、それは良い……


 さっきまでの話、恐らくはこっそり聞いていたはず。

 インフィオが知っていても言ってない事はきっとある。


「ん~? そうだなぁ……『エリアベート』の事は、個人的に軽くだけど知ってたよ。本当に、軽く、だけど。それ以外は話を聞いて予想がついた、かな」


 少し困ったように笑うインフィオを見て、深く聞こうとはならなくなった。


「……そうか。そうかぁ……」


 俺が知らない、インフィオの事となれば……予想はつく。

 『百花繚乱』のインフィオになっての事なら、勝手に話し出すくらいの気軽さだ。


 それ以前の話は余り聞かない。聞けば答えてくれるだろう。だが、自分から言う時を待ってやりたい。


 いつかは聞くしかない時が来るかもしれない。それでも今はまだ……聞かない。


「じゃぁ、不問って事で」


「ありがと。ノーマならそう言うと思った」


 インフィオはそう言うと嬉しそうに笑う。


 俺だって、困り顔よりも笑っている方が良いからな。


 俺達は静かにソファに座り、一息ついた。

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