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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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87:魅了するのかされるのか

 あの後、エリアベートを無理やりに訓練場から引っ張ってクラン長室に戻った。


 エリアベートはねた様に口を開く。


「なによ、まったく。別に嫌味で言った訳じゃないのに。ノーマもノーマよ。急いで訓練場から追い出す事ないじゃない」


 ……『百花繚乱』で無能者なんて言うとは思わなくてね?

 こっちも驚きだよ、まったく。


「今後、『百花繚乱うち』で俺を無能者と呼ぶのは辞めてくれよ……俺以上に『花扇』は敏感びんかんなんだからさ」


「本当、驚いたわ。これだけ人望があるなんてね? ねぇ、『花園の批評家』のノーマ」


 ねていたと思えば、もう揶揄からかうように言葉を告げる。

 唯我独尊ゆいがどくそんな態度が許されるだけの実力と気品きひんか。


 エリアベートは『英雄』を見出すとか言っていたが、彼女の様な者が『英雄』と呼ばれるのかもしれないな……


「で? 訓練場での事は詳しくは話してくれるのか?」


「だーめ。おあずけよ? 知ってしまうのは勿体ないじゃない。こういうのはじっくりと、ゆっくりと楽しむものよ……?」


 怪しい笑みを浮かべ、目が俺を見据える。


「……分かった。いつか聞かせてくれ」


 気付けば、俺は納得してしまっていた。


「そう、それで良いのよ」


 バンッ、と音がした気がする。

 だが、俺の目はエリアベートだけを見ている。


「良くありません! エリアベート嬢、アナタはノーマさんに何をしているのです! 今すぐに魔力を抑えてください!」


「……相変わらず、つまらない女ばかりね、『奇跡協会』は。代替わりしても堅物かたぶつばかりで嫌になるわ、アルテミス?」


「カリスト!」


「はい!」


 エリアベートの顔を見続けていた俺を、視界の端でカリストが動くのが見えた。そして駆け寄ると、勢いそのままに横からぶん殴られた。


「い、ってぇな……くそ……エリアベート!」


「……なに?」


「今俺に何を流した! 何をやった!」


「あら? 『奇跡協会』と仲良しの癖に、そんな事も知らないの? ダメなノーマ」


「ノーマ殿、目を見すぎるな! 心の揺れにつけ込まれる!」


「言いがかりよ……そんなに普段から使ってないったら。私だって疲れるのよ?」


 目を見て心の揺れにつけこまれる!? そんな能力の魔眼があるのか!?

 今までもまさかっ!?


「……俺が時々、お前の目を見た時に吸い寄せられそうになったのは?」


「使ったのはさっきだけよ。それ以外の時にそう感じたのなら、アナタ自身が私にかれただけ。うそじゃないわよ?」


 ……この発言すら信用ならない。それに俺自身、迂闊うかつだった……まさかそんなもんをエリアベートが持っているとは思わずに……くそっ。


 俺が惹かれただと? こんな危険な女に!? ふざけんな!


「魔眼持ちだなんて聞いた覚えがないぞ。どうなってやがる……そんな力が有ったら、もっと話題に――」


「だから……使ってないって言ってるでしょう? 今のはつい魔が差しただけよ。今の魅了みりょうだって、強くはかけてないわ」


 ……落ち着け。状況を判断しろ。

 くそ、鼓動こどうがうるさい……どっちの意味での鼓動だ……くそっ……!


「エリアベート。貴女あなたは協会との協定を破るつもりか! 『奇跡協会われわれ』の協力者に魔眼を使うなど! どういうつもりかね!」


 アルテミスが魔力を練って腕にわせていた。

 行使の言葉をつむげば魔術が発動される状況。


 だが、エリアベートは笑う。


「ふふ……な~に、アルテミス? お気に入りを取られるのが嫌で怒ってるの? 嫌ね~、女の嫉妬しっとかしら?」


「このことわりに反した吸血鬼がっ!! 燃やし尽くせ、赤熱の――」


 エリアベートの言葉にアルテミスは腕を振るい、言葉を続けようとする。


 ここでそんな事、させられる訳ないだろうがっ!!


「二人ともやめろ! ここは俺の『百花繚乱』だ! エリアベート、それ以上挑発するのであれば、その無謀むぼうさを理解させる」


「「……」」


 なんとかアルテミスとエリアベートの言葉をさえぎって争いを止める。


 アルテミスは行使しかけた魔力を霧散させながら、視線はエリアベートを睨んだままだ。


 エリアベートはそんな視線を嘲笑あざわらうように口の端を上げながら、何も言わずに腕を組む。


 一触即発の雰囲気のままだが、これ以上は許さない。


「二人とも座るんだ。俺達は争う為に会合をする訳じゃない。問題をこれ以上増やすな。エリアベート、魔眼を二度と俺に使うな」


「……すみません、ノーマさん。協力者への魔眼使用で頭に血が上っていたようです」


「……この女はどうでも良いけれど、ノーマとの約束は守ってあげるわ。今は、ね」


 アルテミスとエリアベートはほこを収めながらも、睨みあう。


 冷静になれ……エリアベートの言葉を気にするな。落ち着くんだ……これ以上、問題の収拾を困難にするべきじゃない……今は落ち着く事が最善だ。


 エリアベートは席に着くと声を出す。


「それじゃ、呼ばれた理由を聞きましょうか。嫌ならそのままお帰り頂いても構わないわ。出口はあちらよ?」


 手でクラン長室の扉を指し示すエリアベート。


「……それ以上挑発をしないでくれ。はぁ……今回の件、本当にエリアベートが伝手と言えるのか? こんな状況で……」


「あら? 心外ね。大抵の事は出来るわよ? 貴方は知らないのでしょうけれど」


 ちらりとエリアベートはアルテミスへ視線を向けた。


「先日もお伝えした通り、彼女ほど理不尽な存在を私は知りません。貴族においても、王国においても。なんせ、人の姿をした化け物ですから」


 アルテミスは、目の前の存在を拒否するように言葉を吐いた。


「……化け物? それは魔眼という意味でか?」


「いいえ、文字通り化け物なんですよ。彼女はヒトであってヒトではない。受け継がれた魔法をその身に刻み込まれた、血を求める吸血鬼なのですから」


「……は?」


 言っている意味を理解できなかった。

 エリアベートがなんだって? 吸血鬼? これも比喩ひゆか?


「ほら、ノーマが固まってしまったじゃない。都合の悪い事を秘匿ひとくするくせは、『奇跡協会』のおろかさね」


 その言葉を受けても、気にせずに返答するエリアベート。


 思考は何を整理するべきか判断がつかず、ぐるぐると同じ場所を回り続けてしまう。


 俺が脅威きょういを感じながらも、英雄的側面を感じたエリアベートが『吸血鬼』なら……俺が咲かせたいと願う『花』は『英雄――ヒト』であるのだろうか。


 ……そんな疑念も俺の心に根を張り、思考を邪魔していった。

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