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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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84:猫の構ってサイン

 『奇跡協会』の突然の訪問から数日。


 クラン長室にはしばらくの平穏へいおんおとずれていた。


「……ふぅ。今日の稟議りんぎも無事に確認が終わった」


 一息つこうか……


 目をみながら、ソファに深くゆったりと座る。


 眼精疲労がんせいひろうに悩まされるとしじゃないんだけどなぁ……

 クラン長として書類仕事が多いから仕方ないか……


 目を開き、そこにある天井てんじょうを見上げ――


「ノーマ」


「ぬぉおおおっ!?」


 インフィオが居る!?

 毎度毎度、どんだけ俺をおどろかせるんだよ!?


 がっしりと俺の頭をつかまれ、動けなくされる。


 何をする!?


「ただいま」


 にっこりと笑うインフィオ。


 ここ数日間、クラン長室にも顔を出さなかったのに、唐突に戻ってきたな!

 ふらっと出て、ふらっと帰ってくる猫か!


「お、おかえり……驚かすなよ……その内、間違って首根っこ捕まえるぞ?」


「捕まると思うの?」


 ぐっ……インフィオの動きは不規則だ……元々の仕事柄しごとがらきびしい戦いになるだろう。


 驚いた拍子ひょうしに一息つく気分も飛んでった……

 報告を聞くか……まったく。


「それで、インフィオ。何か俺に報告する事が見つかったのか?」


「……もうちょっと、ゆっくりしても良いんじゃないの? ノーマ戻ってきてから、すぐに仕事仕事だし。こっちはこっちで潜伏せんぷくしてたし」


「まぁ、そう言いたくなるのも分かるけどな。それで……?」


 俺の再度の要求に、やれやれとした顔でインフィオは口を開く。


「王都で『ポイスパ』の再生成、再流通は今のところないよ。まぁ、残り物は見つかったけど、それも『毒蜘蛛』ではなく個人が楽しむために持ってるっぽい。一先ひとまずは平気だね」


「助かった、これで王都は――」


「ただ、王都に住む一部貴族、ジスタリア伯爵はくしゃくは残り物が大量でね? あれは本当に個人が楽しむために買ってたのかな? ねぇ、ノーマ?」


 楽しそうに俺の顔を上から見るインフィオ。

 舌なめずりでもするかのように、口を開いて、笑みを浮かべる。


 はぁ……貴族、か。結局、貴族連中の問題が露呈ろていした。

 そして『奇跡協会』が絞り上げた結果、今も残った貴族となれば……自ずと答えは分かる。

 下位貴族はしぼられ、上級貴族は逃げおおせたって事だ。


「……厄介やっかいだな」


「厄介だねぇ?」


「その割に、楽しそうじゃないか」


「ノーマと一緒に何かするのは楽しいからね?」


 そりゃ、良かったよ……数日前にアルテミスとの会合でリスクをとる代わりに利益を、なんて考えたが……

 これは、本当に『百花繚乱うち』がからんでも平気だろうか?


 ……いや、無理だ。上位貴族となれば厳しいだろう。

 アルテミスには早めに報告して、矢面やおもてに立ってもらうしかない。


「それで? いつまで、俺の頭を掴んだままなんだ?」


 インフィオはなおも俺の頭を掴んだまま、ぐりぐりとしていた。


「ん~? ちょうど時間も空いてるし、仕事で疲れたでしょ? 軽くマッサージしてあげてるのさ」


 首が、ごきごきっ、と音をひびかせる。


 ……ふぅ、なんでインフィオにマッサージされているのかは置いといて……

 意外と、心地良いな……


 でも、早めにアルテミスに……あ~、だらけそうに……


「ノーマも、たまにはっ! リラックス、しないとね?」


 ぐっ、ぐっ、と頭、首、肩と押し込まれる。


「んぁっ……効くなぁ……」


 しばらく、インフィオのじゃれるようなマッサージをのんびりと受け続けていると――


「ノーマさん、この間の件でいそ、ぎ……」


 ローズの声の後に、バサバサッ、と書類がクラン長室に散らばる。


 ……ローズが固まった。


 傍から見たらどんな光景だろうか。

 俺の背後で密着みっちゃくしながら、俺の上半身を触るインフィオ。


 ローズは固まりながらも、じー、と俺達を見続けている。

 その視線は徐々に困惑こんわくから、あきれの様な顔になっていく。


「ノーマさ――」


 説明も面倒だ、さっさと動こう!


「おっと、俺はそろそろ『奇跡協会』に報告を知らせに行かないといけないな! じゃぁな、インフィオ。ローズ、行ってくる!」


 イスから立ち上がり、さっさと扉に向かって歩く。

 ローズの肩を、ぽんっとたたき、勢いよく扉を開ける。


「え? は、はい? いってらっしゃ――」


 ローズの言葉を置き去りに、急いでクラン長室を出ていった。


 インフィオが上手く伝えてくれるだろ。誤解ごかいだしな……

 ローズのあんな顔、初めて見たかもしれない。

 はは、ははは……はぁ~……


 クランの建物を出る前に、気持ちを切り替えるため頭を振る。


「ふぅ……さぁ、行こうか」


 通りに出て、歩き出した。

 『奇跡協会』に突然の訪問となるが……この件は動き始めている。

 問題ないだろう。


 しばらく通りを歩きながら、話すべき内容を精査せいさしていく。


 だが情報がそろごとに、リスクもどんどんと高まってきている事も否応いやおうなく見つめなおす事となった。


 上位貴族か……

 アルテミスは伝手つてがあるようだったが……嫌そうだったんだよなぁ。


 この情報で上手く伝手を使ってもらえれば良いんだが……こればかりは誘導で無理やりは厳しいか。

 折角せっかくきずいてきた信頼と親密の関係をみすみす壊す事もないからな。


 そして……

 『奇跡協会』へ到着した。


 協会建物に入り、受付で声をかける。


「すまない、『百花繚乱』のノーマだ。至急、ディアナ王国支部長のアルテミス殿に、今すぐの会合をお願いしたい」


「……アルテミス様に確認を致しますので、少々お待ちください」


 受付女性は俺の顔を見ると、驚きながらも即座に動き出す。


 先日は『百花繚乱』へアルテミスとカリストが来た。

 今度は俺が突然会いに来たが、優先してくれるはずだ。


 ……しばらくすると。


 受付女性はカリストと共に入り口に戻ってきた。


「ノーマ様、お待たせいたしました。以降はカリスト様に引継ぎとなりますので、失礼いたします」


 受付女性はお辞儀をすると受付に戻った。


「ノーマ殿、部屋でアルテミス様に待ってもらっている。さぁ、付いてきてください」


「あぁ、助かる。しかし、会ってくれて良かった。今回は突然の訪問だったからな」


「……ノーマ殿はいつも突然に訪問されるではありませんか」


 ……おぉ、そういやそうだな。


「は、はは……申し訳ない」


「あ……せ、責めている訳ではないのですよ! 今となってはこれだけ、『奇跡協会われら』に協力をしてもらっておりますし、それだけの信頼がある! た、ただ、いつも突然の訪問だな、と思った事が口から出てしまっただけなのだ!」


 ……フォローになってないぞ、カリスト。

 それだと、「連絡してからこい」って言われてる気分に……いや、カリストの事だから、それはないな。


 こいつは腹芸が苦手そうだしな。


「あぁ、分かってるから。あせらなくても良いよ、カリスト。しかし騎士団長だよな……そんな性格で平気なのか?」


 最後の言葉は小さくつぶやいた。


 だが、カリストには聞こえてしまったようだ。

 耳が真っ赤になって、恥ずかしそうにしながらも前を向いて歩き続ける。


「……すまない、余計な事を言った」


「い、いや……気にしないでくれ。恥ずかしい話、良く皆からも裏表がないと言われている……」


 そのまま歩き続け、会議室らしき部屋の扉に到着した。


「こちらにアルテミス様がお待ちだ。私も当然聞かせてもらうが、よろしいか?」


「あぁ、問題ないどころか、そうすべきだからな」


 伝手を使って、存分に俺達――『百花繚乱』に降りかかる火の粉を払ってくれ。


 その代わり、協力は惜しまない。


 最終的な利子は頂くがな。


 カリストの開いた扉の先――アルテミスを笑顔で見ながら、足を踏み出した。

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