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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

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83:花を受け取り、手と手を取り合う

 クラン長室での秘密の話し合いをして、翌日。

 昨日は『奇跡協会』にローズが手紙を届けに行った。


 ここクラン長室には、訪問客がいた。


 『奇跡協会』――ディアナ王国支部長のアルテミスと協会騎士団長のカリストが、目の前のソファに座っている。


「それで、ノーマさん。手紙の件ですが、間違いはないのですね?」


 アルテミスは静かに真面目な声音こわねで聞いてきた。


 ……昨日の今日で、俺ではなく、アルテミスがこちらにうかがうとはね。

 大分、信頼されてきてるみたいだな。


「あぁ、クロエ――『開花うち』の錬金術師アルケミストが判断した。間違いなく事実だよ」


「……そうなると大問題ですね。カリスト、あれから王都では『ポイスパ』は流通していないのですよね?」


「はい。調査担当からは王都内では見つかっていないと聞いております」


 ……『奇跡協会』の調査を信じない訳じゃないんだが。

 正直、インフィオの能力に比べると、どうしてもおとっているからな。


 インフィオからの報告があるのはいつになるか分からないが、詳細はそちらで聞くしかなさそうだな。


「『百花繚乱こちら』も軽く調査しているから、その報告が届き次第、『奇跡協会そちら』へも情報を共有しますよ」


「……助かります。どうにも、『奇跡協会われわれ』は『毒蜘蛛』にバレているようですから」


「……面目ない話だ。ノーマ殿、頼む」


 二人はかんばしくない顔と、申し訳なさそうな声音で俺に言う。


 まぁ、大抵の裏組織なら追えるんだろうけど、相手が相手だ。

 インフィオの師匠とも言えるインクローズ……生半可なまはんか密偵みっていだと即座に見抜かれているだろう……面倒な事だ。


「今後の方針はどうするつもりだ? ヒト、魔物で実験してそれぞれに異常を起こさせる薬剤――魔薬なんてモノを放置したら、ろくな事が待ってないぞ」


 釘を刺すようだが、これは聞いておかないといけない。

 下手をすれば、『奇跡協会』と『毒蜘蛛』との戦闘だけで済まない。


 騒動そうどうの炎が更に広がって行くだろう。


「……正直、ディアナ王国の貴族が関わる点で、こちらとしても苦い思いをしているんですよ。余りにも踏み込めば、王族との関係悪化から排斥はいせきされかねませんからね」


「アルテミス様……今回はあの者に協力をあおぐのも、致し方ない事ではないでしょうか……?」


 ほぉ……カリストがアルテミスに進言をする姿なんて初めて見たな。

 大抵はアルテミスがカリストをいさめる事が多いというのに……


「……それはまた後で話そう、カリスト。彼女には極力会いたくないのでね」


 ……な、なんだ?

 アルテミスが相当に嫌そうな顔をしだしたぞ……

 突っ込んでみたいが、素知らぬ顔でコーヒーでもすするか。


 藪蛇やぶへびになりかねない事は、避けて通るに限る。


「ア、アルテミス様……申し訳ございません……」


 しゅんとした様に答えるカリストをそのままに、アルテミスは何事も無かったかのように、俺へ顔を向ける。


「方針は決めあぐねております。ですが、動く際には……出来ればご協力を」


 ……がっつりの協力はしたくないんだが。

 あくまでも、俺達は冒険者だ。裏組織と戦う治安組織じゃないんだぞ?


「……できれば、軽くにしてもらえると助かるが。俺達はあくまでも、いち冒険者だ。下手な行動を起こせば潰すのも容易よういな冒険者クランでしかない」


「極力、としかお答えできません。『奇跡協会われわれ』としても外部組織――協力者に多くを求めたくはないのですが……いけませんね……最近の動きは後手に回る機会が多く」


 ……そこで俺を見ないでくれ。

 確かにオークの件でも――そういえば、伝えていなかった。


「すまない、伝え忘れた……王都近くで発生したダンジョン、あれもオークに同じ異常性があった。恐らくは『ポイスパ』の影響だろうな。ダンジョンが産まれ『毒蜘蛛』が利用していたのか、その逆か。『百花繚乱こちら』では判断できない」


 俺の言葉で、アルテミスの目が力強く見開かれ、じっと見つめられる。


「……それを私が聞いた後で、どうお答えになるか分かるでしょう? 貴方あなたが同じ立場なら、軽い協力で良いですよ、と言えますか……?」


 アルテミスは静かな声音で、先ほどまでの無表情から困り顔で俺を見る。

 言外に「『奇跡協会』の監視外で自由には行動させられません」と言うように。


 しまった!? この件の方が王都に近い事もあって重大だ!

 ……迂闊うかつだったかもしれない。


 アルテミスは黙ったまま、こちらを見つめている。

 その瞳に「今の発言、聞き逃せませんよ」と書かれているようだった。


 王都近くのダンジョンまでも関係がある事を、俺が話したとなれば、『奇跡協会』の支部長――アルテミスは見逃せない。


 アルテミスとの信頼、親密による距離感で口を滑らせた……

 言ってしまった手前、逃げようがない……


「ノ、ノーマ殿! 本当なのか? 本当に、本当なのか!? いや、疑う訳ではないのだ! 確認をさせて欲しい」


「カリスト、落ち着きなさい? 協会騎士団が到着した際、ダンジョンのオークは?」


「も、申し訳ありません……以前の報告通りです。ダンジョン到着時には既にノーマ殿が踏破済みであり、オークとの遭遇は無く……」


 ちぃっ! カリストの報告でさらに……逃げ場がない!

 オークの件を相応の立場で直接目にした者が、俺以外にはいない!


 重要な情報でも、もっと上手い伝え方があっただろうが……


「あ~……アルテミス、あ~、その……」


 ぼやく事しか出来なかった。


 ……詰んだ。自分で口を滑らせるのではなく、せめて間に誰か別人を立てるべきだった……

 分かってたはずだ。相手がアルテミスなら、情報の一言で当事者責任に化けることくらい。


 これは腹をくくるか……

 軽く、なんて言わずに、面倒事に頭まで漬かり込んで、最大限の利益を取る方向に変えるしかない。


 面倒くささと危険度は、最初の想定よりもずっと高くなったがな!


「やりましょう。えぇ、手伝わせていただきます」


 逃れられないなら、せめてこちらから攻めに転ずる。

 そして――リスクを被るなら、せめてその分の利子は、受け取らせてもらう!


 アルテミスは少し申し訳なさそうに、けれど嬉しそうな顔をする。


「ありがとうございます、ノーマさん」


 それは、重責じゅうせき背負せおう者同士だけが知る、安堵あんどの笑みにも見えた。

 ……互いにこの件に巻き込まれた者として。


 カリストは、うんうん、と首をうなずかせて口を開く。


「流石、ノーマ殿だ! そのいさぎよさ、見事! 私に勝っただけの事はある!」


 無邪気な顔で、カリストは嬉しそうに言う。


 はは、は……権力者たちの闘争とうそうに巻き込まれなきゃ良いんだが……


 カリストの喜ぶ顔を直視していられず、思わず天井を見てしまった。


 ……見上げた天井――騒動の先に何が出てくるのやら。

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