表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
8章 埋もれた真実、隠れた現実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/139

82:ブーケは誰の手に

 一頻ひとしきり苦笑したままだった俺達だったが、インフィオが口を開く。


「それで? ノーマとしてはどうしたいの? 今回の件って結構な面倒事に巻き込まれそうだよ」


 小さく両手を広げて、やれやれ、と言うように肩をすくめるインフィオ。


「分かってる。そこが問題なんだ……下手へたな行動は起こせない。迂闊うかつな相手にも話せない。なんせ――」


「貴族のつながり、ですね」


 ローズも問題の大きさに、どう対処するか決めあぐねている様に、下を向き、両手の指を静かに組んだ。


「そうだ。『毒蜘蛛ポイズンスパイダー』の組員は、貴族が関わっていた事を告げてる。どこから貴族おかかえのやからの耳に届き、貴族連中が噂するか分からない」


 腕を組んで目を閉じる。


 簡単に考えれば、4人ほど候補が浮かぶが……

 どれが一番良いかを決めなくちゃならないな……


「それなら素直に『奇跡協会』じゃないかな? 元々、王都での『ポイスパ』問題に動いてたしね」


 インフィオはそこまで言うと、含みのありそうな笑顔を浮かべる。


「それに『奇跡協会』なら外部とのつながりがほとんど無い処理の仕方だから、れる事もないよ」


 そう提案するインフィオの言葉に、目を閉じながら問題がないかを考え続ける。


「確かに……私もそれが一番、かどが立たない落としどころだと思います。王国との伝手つてもなく、有っても関係貴族の問題。冒険者ギルドもおかかえ人の可能性は捨てきれないですし……打てる手は『奇跡協会』のアルテミス様、かと」


 やっぱり、そうなるよなぁ……

 俺としても、それが一番の最善手さいぜんしゅだと思ってた。


 思ってはいるんだけどなぁ……


「……面倒に巻き込まれそうな気がして、けたかったが。仕方ないか……」


 ……重い腰を上げるか。

 後手に回れば回るほどに、首がまり、身動きが取れなくなる。


 停滞ていたいは、心のゆるみだ。冒険者としても、クラン長としても。


 常に、自分で出来る、最善さいぜんを……えがき、つかむだけ。


「決まった」


 指揮――批評をするんだ。

 クラン長として、やるべき事をやれ。


「ローズ、『奇跡協会』に連絡をしてくれ。出来るだけ早めに会合出来るようにするんだ」


 これが俺達『百花繚乱』のやり方だ。

 躊躇ためらってる暇はない。


「はい、ノーマさん。迅速じんそくに」


「インフィオ、王都の再調査だ。『ポイスパ』の流通が完全に止まっているのか、止まっていなければ流通経路を」


 この件すらも実績にしろ。


「……りょーかいしたよ、ノーマ」


 さぁ、花束を投げに行こうじゃないか……

 存分に受け取れ、『奇跡協会』――アルテミス!!


「さぁ、仕事の開始だ。インフィオ、ローズ、頼んだぞ」


 二人が同時に立ち上がりクラン長室を出ていく。


 さて……もう一件、確認しておかなきゃいけない用事があったな。

 彼女達も訓練場にいるだろう。


「『外の件』は方針が決まったし……次は『内の件』か」


 俺はソファから腰を上げ、クラン長室を出る。

 行き先は訓練場。そこに向かいながら考えをまとめる。


 彼女達に必要な行動、言葉。

 恐らくは、俺が直接の対応はしなくても良いはずだ。


 俺がいないと回らないような、軟弱なんじゃくな『百花繚乱』ではない。

 だが、まだ若いつぼみは雨風に耐え切れないかもしれない。


「……だからこそ、俺がいるんだ」


 一人、誰につぶやく訳でもなく、決意を吐き出す。


 上階から地下への移動は長いようで短い。

 もう着いてしまった。


 室内からは、訓練生と指導をする『花扇』のメンバー達の声。


 だが、地下1階の訓練場をのぞいても、目的の人物は見つからなかった。


「……いない? 下の階も確認してみるか」


 そのまま地下2階へ下る。


 下る途中で既に、大声がとどろいていた。


「あんた達、そんなんでやってけると思ってんのかい! もっと気合い入れろって言ってんだよ!」


 ……ヒルダの声だな。

 訓練場の扉でも開いてんのかってくらいひびいてるんだが……


 静かに扉を開き、のぞき込む。


 そこには……


「はぁ、はぁ……うっ」


「ふぅ……ぐっ……はぁ……」


 アルメリアとフリュウだ。

 後ろ姿からは顔が分からないが、肩で息をしている事とれ出た声は聞こえてきた。


「ナメテんじゃないよ! ぶっ倒れるまでやれば、どうにかなるとでも思ってんのかい!? アタイが言ってんのは、この線まで踏み込んでみろって事なんだよ!」


 ……線?

 何の訓練をしているんだ?

 俺の考えと違う訓練なら、指示を出す――


死線しせんくぐれって言ってんだよ! そんな事も出来ないで冒険者かい! ノーマとの行動で何を学んだ、あんた達!」


 ヒルダの言葉で扉を開く手を止める。


 ……良かったよ。

 お前らもしっかりと気付いているようで、安心した。


 パーティーの要はリーダーだ。

 常に俺がいる訳じゃない。

 だからこそ、『花扇』の各リーダーが気付いていたという事実は好ましい。


「何も持っていないアタイに踏み込めないで、どうやって今後やっていくんだい! ノーマはいつまでもダンジョンに付いて来ちゃくれないし、面倒だって見ちゃくれないよ!」


 ヒルダは無手むての状態で立っている。

 だが、その先でにらむヒルダは恐ろしいだろう。


 俺にはヒルダの意識は向いていない。

 だが、二人には相当な重圧がけられているはずだ。


「お帰り、ノーマ。入らないの?」


 おっと……アイシャに見つかった。


「あぁ、今はそっとしておく事にするよ。幸い、『花扇』のリーダーが見守ってくれている様だしな?」


 小さく開いた扉越しに会話をする。


「そっか。じゃぁ、任せておいて。もうちょっとだと思うから!」


 アイシャは小さく笑って言った。


「分かった。じゃぁ、頼んだぞ」


「任されました!」


 お互い、奇妙な状態で会話をしているので、少し笑いそうになってしまった。


 そのまま静かに扉を閉じる。


 きっと……力強い笑顔で、俺に報告しに来るだろうから。


 気分も晴れ晴れとしながら、クラン長室へ戻る中、ローズが小さく会釈えしゃくをする。


 その手には、これから送るであろう手紙がにぎられている。


 気持ちを切り替え、クラン長室へ足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ