80:やり直される、新たなる門出
オークキングとの戦闘後、幾つも発覚した事態。
だが、それらの報告は『北のナモナキ村』の皆にはせずに、脅威が去った事だけを伝えた。
その後は、宴会の空気を続ける気にもならず、お開きとなった。
そして、翌日の今日。王都へ戻る日だ。
元々、1週間程度の滞在を予定していた事もあったが、昨日のオークの件を然るべき者に、早急に伝えなければならない。
王都帰還の話は騒動の後に、既に幼馴染達、両親にも伝えてある。
「義父さん、義母さん、ありがとね。今度は手紙とか出すようにするから」
ノインは別れの挨拶をして父さんと母さんを抱きしめる。
「父さん、母さん、これからも心配をかけると思う。だけど、俺は王都でしっかり冒険者をやっていくから。また纏まった休みが取れたら、帰ってくる」
俺もノインの後ろから声をかける。
はは、昔と違って素直に言えた。
すれ違いもなくなって、顔を上げて村を出られる。
来る時はそんな事、思いもしなかった。
それとは別の問題が出てしまったのは頭が痛いが、帰郷した事は大正解だ。
周りを見れば村の皆が集まり出している。
幼馴染達も両親と会話をしていた。
俺の言葉に、母さんはノインを抱きしめ返しながら口を開く。
「ノーマ、いつでも気にせずに帰ってきなさい。ここは昔も今も、貴方の場所なのだから」
「ノーマ、元気でいるんだぞ! また戻ってきて、お前の王都での話を聞かせてくれ! ははは! あと、ノインをしっかり見守ってやれよ!」
母さんは少し寂しそうな笑顔で言い、父さんは軽く見送りの言葉を言った。
本当、バランスの良い両親だよ……
「……ありがとう。父さん、母さん」
気付けば、『開花』で馬車に乗っていないのは俺とノインだけになっていた。
「ほら、ノー兄。私、先に馬車に乗って待ってるから」
父さんと母さんに抱き着くのをやめ、俺に何かを促して馬車に乗り込むノイン。
……ほら、って言われてもな。
……なんだかんだで、父さんとはしっかり話してたけど……やっぱり母親にってのは、気恥ずかしいもんがある。
「……あ~、なんだ、その……」
父さんと母さんに甘えるようで、上手く言葉に出せずに頬をかいていると――
「ほら、ノーマ! 来いよ!」
父さんが俺の腕を取り、引き寄せると、抱きしめてくる。
そのまま母さんも俺を抱きしめた。
「……ノーマ? 無事で帰ってくるんだよ……無茶はしても、生きて顔を見せるんだからね……」
幼い時に反対を押し切って村を出た。
その時は挨拶も碌にせず、俺よりもまだ身長が大きかった母さんを横目に眺めただけだった。
今は俺の方が大きくなった。
そして、両親の気持ちを知れた。
俺の肩に顔をつけ、震える声で告げた言葉。
本当は王都に送りたくはないだろう。
心配で堪らなく、冒険者なんてして欲しくないだろう。
けれど、俺が夢へ向かって走る姿を見て、必死に耐えて送り出そうとしてくれている。
だから俺も、必死に強がりの言葉を返す。
絶対なんて事はありえないが、信じさせ、安心させるように。
「母さん、無茶はしても生きて戻ってくるから。俺は絶対に生きて戻ってくるから」
俺の言葉に顔を上げ、じっと震える目で母さんは見つめる。
俺がどういう気持ちで言っているか、理解されているだろう。
だが、静かに頷いてくれた。
「ノーラ、大丈夫だ! ノーマならなんだかんだで、機転を利かせて戻ってくるさ! なぁっ!」
そんな空気を吹き飛ばすようにして父さんは言う。
そこで緊張は消えた。
俺も母さんも笑いだしてしまった。
「ははは、そうだね。俺は機転が利くから無事にいつでも帰ってくるよ」
「えぇ、そうね。ふふ、そうよね」
そうさ。
あぁ、そうだとも!
「じゃぁ、母さん。父さんも。行ってくる!」
「「行ってらっしゃい!」」
後ろ手に手を振り、馬車に乗り込む。
今日は、良い天気だ。
門出に丁度良い……
「御者さん、戻りもよろしくお願いします。それじゃ、出発だ! 王都へ!」
馬車の窓から見える父さんと母さん、幼馴染達の両親、村の人達。
窓から手を振り、元気に声をかける幼馴染達。
少し馬車の中は彼女達の声で騒がしい。
だが、その姿を見れば心が温かくなっていく。
晴れ晴れとした気分で王都に戻れるな。
本当に、良いタイミングで休暇が取れたもんだ……
こういう休暇なら、今後も沢山取りたいもんだね。
まぁ、片づけなきゃいけない問題もあるが……それは向こうに着いてからだ。
今は、この余韻に浸っても良いだろ?
馬車は少し揺れながら村を離れ、王都への道を進んで行く。
……そろそろ、俺のもう一つの帰る場所、王都の花園――『百花繚乱』も恋しくなってきていたしな。
あっちにこっちに、忙しない心だよ、まったく。
「……あっちはあっちで、放っておけない大事な仲間――花が待ってるからな」
……しばらくすると帰りたくなる場所、か。
「はははっ。またな『北のナモナキ村』。そして『王都の百花繚乱』、今から戻るよ」
自然と笑みがこぼれてしまう。
俺の独り言に、幼馴染達は何も言わず、嬉しそうに笑っていた。
いや、例外もいる。
ガウルだけは俺を突いて揶揄っていた。
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