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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
7章 花園への道、未だ遠く

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80:やり直される、新たなる門出

 オークキングとの戦闘後、幾つも発覚した事態じたい

 だが、それらの報告は『北のナモナキ村』の皆にはせずに、脅威きょういが去った事だけを伝えた。


 その後は、宴会の空気を続ける気にもならず、お開きとなった。


 そして、翌日の今日。王都へ戻る日だ。


 元々、1週間程度の滞在を予定していた事もあったが、昨日のオークの件をしかるべき者に、早急さっきゅうに伝えなければならない。


 王都帰還おうときかんの話は騒動そうどうの後に、すでに幼馴染達、両親にも伝えてある。


義父とうさん、義母かあさん、ありがとね。今度は手紙とか出すようにするから」


 ノインはわかれの挨拶あいさつをして父さんと母さんを抱きしめる。


「父さん、母さん、これからも心配をかけると思う。だけど、俺は王都でしっかり冒険者をやっていくから。またまとまった休みが取れたら、帰ってくる」


 俺もノインの後ろから声をかける。


 はは、昔と違って素直すなおに言えた。

 すれ違いもなくなって、顔を上げて村を出られる。

 来る時はそんな事、思いもしなかった。


 それとは別の問題が出てしまったのは頭が痛いが、帰郷ききょうした事は大正解だ。


 周りを見れば村の皆が集まり出している。

 幼馴染おさななじみ達も両親と会話をしていた。


 俺の言葉に、母さんはノインを抱きしめ返しながら口を開く。


「ノーマ、いつでも気にせずに帰ってきなさい。ここは昔も今も、貴方の場所なのだから」


「ノーマ、元気でいるんだぞ! また戻ってきて、お前の王都での話を聞かせてくれ! ははは! あと、ノインをしっかり見守ってやれよ!」


 母さんは少し寂しそうな笑顔で言い、父さんは軽く見送りの言葉を言った。


 本当、バランスの良い両親だよ……


「……ありがとう。父さん、母さん」


 気付けば、『開花』で馬車に乗っていないのは俺とノインだけになっていた。


「ほら、ノー兄。私、先に馬車に乗って待ってるから」


 父さんと母さんに抱き着くのをやめ、俺に何かをうながして馬車に乗り込むノイン。


 ……ほら、って言われてもな。

 ……なんだかんだで、父さんとはしっかり話してたけど……やっぱり母親にってのは、気恥きはずかしいもんがある。


「……あ~、なんだ、その……」


 父さんと母さんに甘えるようで、上手く言葉に出せずにほほをかいていると――


「ほら、ノーマ! 来いよ!」


 父さんが俺の腕を取り、引き寄せると、抱きしめてくる。

 そのまま母さんも俺を抱きしめた。


「……ノーマ? 無事で帰ってくるんだよ……無茶はしても、生きて顔を見せるんだからね……」


 おさない時に反対を押し切って村を出た。

 その時は挨拶あいさつろくにせず、俺よりもまだ身長が大きかった母さんを横目にながめただけだった。


 今は俺の方が大きくなった。

 そして、両親の気持ちを知れた。


 俺の肩に顔をつけ、ふるえる声で告げた言葉。


 本当は王都に送りたくはないだろう。

 心配でたまらなく、冒険者なんてして欲しくないだろう。


 けれど、俺が夢へ向かって走る姿を見て、必死にえて送り出そうとしてくれている。


 だから俺も、必死に強がりの言葉を返す。

 絶対なんて事はありえないが、信じさせ、安心させるように。


「母さん、無茶はしても生きて戻ってくるから。俺は絶対に生きて戻ってくるから」


 俺の言葉に顔を上げ、じっと震える目で母さんは見つめる。

 俺がどういう気持ちで言っているか、理解されているだろう。


 だが、静かにうなずいてくれた。


「ノーラ、大丈夫だ! ノーマならなんだかんだで、機転きてんかせて戻ってくるさ! なぁっ!」


 そんな空気を吹き飛ばすようにして父さんは言う。


 そこで緊張きんちょうは消えた。


 俺も母さんも笑いだしてしまった。


「ははは、そうだね。俺は機転が利くから無事にいつでも帰ってくるよ」


「えぇ、そうね。ふふ、そうよね」


 そうさ。

 あぁ、そうだとも!


「じゃぁ、母さん。父さんも。行ってくる!」


「「行ってらっしゃい!」」


 後ろ手に手を振り、馬車に乗り込む。


 今日は、良い天気だ。

 門出かどでに丁度良い……


御者ぎょしゃさん、戻りもよろしくお願いします。それじゃ、出発だ! 王都へ!」


 馬車の窓から見える父さんと母さん、幼馴染達の両親、村の人達。


 窓から手を振り、元気に声をかける幼馴染達。


 少し馬車の中は彼女達の声でさわがしい。

 だが、その姿を見れば心が温かくなっていく。


 晴れ晴れとした気分で王都に戻れるな。

 本当に、良いタイミングで休暇きゅうかが取れたもんだ……

 こういう休暇なら、今後も沢山取りたいもんだね。


 まぁ、片づけなきゃいけない問題もあるが……それは向こうに着いてからだ。

 今は、この余韻よいんひたっても良いだろ?


 馬車は少しれながら村を離れ、王都への道を進んで行く。


 ……そろそろ、俺のもう一つの帰る場所、王都の花園――『百花繚乱』も恋しくなってきていたしな。

 あっちにこっちに、せわしない心だよ、まったく。


「……あっちはあっちで、放っておけない大事な仲間――花が待ってるからな」


 ……しばらくすると帰りたくなる場所、か。


「はははっ。またな『北のナモナキ村』。そして『王都の百花繚乱』、今から戻るよ」


 自然と笑みがこぼれてしまう。


 俺のひとごとに、幼馴染達は何も言わず、嬉しそうに笑っていた。


 いや、例外もいる。

 ガウルだけは俺をつついて揶揄からかっていた。

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