8:御守りの依頼②
お漏らし少女二人、アルメリアとフリュウの言い分としては……
C級冒険者としての知識を持っている俺に、諸々の冒険者知識を教えて欲しいとの事だった。
だとしても……
「断る。そんな暇は俺にはない」
そう告げるとアルメリアが駄々をこね始める。
「えぇ! なんで! 依頼料もしっかりと払います! D、C級?、冒険者の依頼料分はしっかり払えますよ! もうちょっと多めにも出せます!」
「そ、そうです! これでも私達、蓄えはあるんです! C級?の方に依頼できるだけの額は持ってますから! お願いします!」
C級だ、C級!! 悩まんでくれ!
「なぜ俺がやらにゃならん。俺以外に実力の伴った冒険者ならごまんといるぞ。それにやめとけ。俺は無能者だからな」
全く、何が悲しくてなりたての冒険者を面倒見なきゃ行けないんだ。
『百花繚乱』の創設メンバーの事や、訓練生ならまだしも、さっき知り合ったばかりの奴の面倒なんて御免だ。
ただでさえ忙しいし、俺自身、C級の件で忙しいんだぞ。
C級の俺は最低ランクダンジョンがD級になるんだ。
幾らオークを共に倒したとはいえ、良く知りもしない俺を簡単に誘ってんじゃねぇよ。
窓口を通してくれませんかねぇ、窓口を。ギルドの窓口は通してるけど、そういう事じゃねぇよ?
俺がそんな事を考えながら断りを入れるとアルメリアが条件を出す。
「じゃ、じゃぁ! 1時間だけ! 1時間だけで良いから!」
「えぇ!? アルメリアちゃん!? 1時間だけだと、すぐだよ!? せめて3時間くらい!」
アルメリアの言葉にフリュウが慌てて訂正を入れてくる。
条件出してくるのは良いけど、1時間とか3時間って……
そんな、ピンクなお店じゃないんだからさぁ。
もう少し交渉の仕方を学んでから来なさい。
交渉する時には相手に逃げ場のないように、既に手持ちのカードを整えておくもんなんだよ。
「あのなぁ……お前ら、時間制なんて交渉カードで認めるわけないだろ。それと俺の事、アンナさんから聞いてないのか……? アンナさん、この依頼断りますけど、良いですよね?」
アンナさんに無表情の顔を向けて言うと、ぎこちない笑みが返ってきた。
「え? え、えぇ……あれぇ……? お二人が大丈夫って仰るからお伝えしたんですけど……あれぇ?」
「いや、この二人、オークの件で初めて会ったんですよ……? なにも大丈夫じゃないですって……それじゃぁ、忙しいのは事実なので、失礼しますね」
全く、何が大丈夫だ。
あの二人、度胸があるのかないのか、分からん!
「は、はい! またいらっしゃってくださいね!」
「おっと、忘れてた。アルメリア、フリュウ。オークの金額だ。受け取れ」
そう言って二人に向けて親指でコインを弾いて渡す。
慌てながらアルメリアがキャッチした。
「それじゃぁな」
ギルドの酔っぱらいを見ていたら俺もまた飲みたくなってきた。
酒でも飲んで忘れようか!
問題はない!
ギルドを出ると、またまた琥珀の雫に向かって歩みを進めた。
…………
ノーマがギルドを出ていく姿を見送るとアンナが笑顔を顔に張り付けて、横にいる二人へとギギギギ、と油をさし忘れたブリキ人形のように顔を向ける。
「……お二人とも~?」
「ひぃっ!?」
「うぅっ!?」
余りの怖さにアルメリアとフリュウは声を上げてしまう。
「何も大丈夫ではないじゃないですか! あれだけ熱心に訴えかけるもんですから、話が通っているものだとばかり!」
「で、でもね? ノーマさんだったら受けてくれるかなって思ってたの! 本当だよ!?」
「う、うんうん! 本当、です!」
アンナの言葉に慌てて告げるアルメリアとフリュウ。
その言葉を聞き、なおさらに笑顔で詰め寄るアンナ。
「そんな曖昧な話で個別依頼なんて出しちゃ、ダメ、です! 全くもう、ノーマさんだってお忙しいんだから、こういう悪戯は申しちゃだめですよ? 良いですか?」
めっ、と人差し指を二人に向けてアンナは言う。
「ノーマさんも言ってたけど、そんなに忙しい人なの……?」
「や、薬草採取に森に入ってきてた人だから、そんな風に思ってなかった……」
二人の言葉を聞いて、はぁ……と息を吐き、アンナは告げる。
「あのね? ノーマさんを知らないって結構恥ずかしい事よ? 冒険者は情報が命。ノーマさんの事は生死に関わる事じゃないけど、元々話題に上がってる人なんだから情報を持っていないとダメ」
「うぐっ……」
「あぅ」
可愛らしく二人は口ごもる。
「良い? ノーマさんは、ね? この王都で伸び悩んでいたパーティーを束ねてクラン『百花繚乱』を創設した、『開花』のパーティーリーダーなのよ。創設時のパーティーはノーマさんのお陰で強くなったって言ってるくらい、信頼されてるんだから!」
「じゃ、じゃぁ、さっきの冒険者達はなんで?」
「う、うん」
「ノーマさんが基本放置してるし、クラン団員も言いふらさないのよ。事実、そうやって腐っている冒険者はノーマさん、相手にしないから、団員も無視。でも、そう。ノーマさんを知らなくて頼もうと思った判断は良いわ」
「えへへ」
「ふふふ」
褒められて喜ぶ二人。
「もし、本当にノーマさんに許可されて、訓練生として批評してもらえる事になったらしっかり頑張りなさい? あの人に付いていけばグングン伸びるはずよ?」
実証済みよ? 、とアンナはウインクして言う。
「じゃ、じゃぁ! クランの場所を……」
アルメリアとフリュウは、ふむふむと言いながらアンナから話を聞くのであった。
…………