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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
7章 花園への道、未だ遠く

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79:手向けの花は七色に#

 静かに、堂々と俺は歩き続ける。

 視線の先では、ガウルがキングとの戦闘を続けていた。


「はぁ……はぁ……へっ、中々、つえぇじゃねぇか……!」


 ガウルの舌がくちびるに何度も触れ続ける。

 そろそろ、ガウルの集中も切れかかってきていた。


 ……変わってないな、ガウル。そのくせは直すべきだ。


 そして……静かに、キングの下へ到達した。


「ガウル、下がるんだ。そろそろ限界だろ」


「ノーマッ! まだッ! まだこいつを仕留め切れてねぇ! オレにやらせろッ!」


「分かってる。だけど、ガウル。君は本当に一人で倒すつもりなのか? 俺の指示を忘れてないだろうね?」


 じっとガウルを見やる。


 キングもボロボロだが、ここでガウルに暴走されても危険だ。

 飼いならされた犬に成れないのであれば、幼馴染とは言え……力づくで退いてもらうぞ! ガウルッ!


「……分かったよ。そんな目で見ないでくれ……」


 キングの攻撃を警戒けいかいしながら、ガウルは後ろに下がる。


 それで良い。

 彼女達を無事に返すためには、危険すぎるけ――遊びは抜きだ。


「さぁ、キング。君の軍勢は消えたよ。後は、何も残っていないお前だけだ」


 俺達――俺を見て、静かにうなり声を上げるキング。


 怒っているのか、にくいのか、ねたんでいるのか。

 何も俺には分からないが、一つ言える事がある。


 それは――


「部下の統率とうそつが行えず、目の前の事にのみ固執こしつし、誘導された。お前の器はその程度だった。消えろ、愚王オークキング


 本来のキングであれば、大群たいぐんひきいていても劣勢れっせい趨勢すうせいを見極め、仲間の生存――存続を考えていたはずだろう。


 それすら行えず、怒りに任せ、冷静さをいた。

 何があったかは知らないが、あわれなモノだ。


 俺は、手を挙げて合図を送る。


 キングは俺の動きを見て、声を上げながら突進しようと走り出す。


 だが、遅い。判断が遅すぎる。


「はぁあっ!!」


 イリアが間に入り、大盾を構えはじく。

 ユリアがキングの両足を矢で射貫いぬき動きを止め、クロエがその間に粘着閃光玉ねんちゃくせんこうだまを投げ付ける。


 アリアとガウルは……ひと休みさ。


「ノインッ!!!」


 イリアに抱えられて後退する中、ノインへ声を上げる。


 ノイン、十分に魔力は練ったのだろう?

 キングに、お見舞みまいいしてやれ。


「……うずもれる土砂、ねむり誘う微風そよかぜ灰燼かいじん業火ごうか、複合魔術、万華鏡まんげきょう


 キングの体を土砂が覆い、一定の間隔で風が旋風つむじを作り、業火をきつける。


 ノインの髪は魔力の流れで七色に輝き、風に舞う。


 風が小さく鳴き、業火はさけぶように燃え上がる。


 静かに魔術が消える。

 そして、残ったモノは――魔術のりなす万華鏡。


 様々な色の砂粒がけてガラスとなり、月の光を透過とうかして、辺りをいろどる。


 ノインによる手向けだ。

 花が咲き誇る様に、ガラスは七色で構成され、光と影で幾重いくえにも姿を変え、映し出す。


 立派なひつぎだ。


「……七色に咲く偽りの花――愚王。最後の開花、か」


 戦闘を終え、ひと呼吸つくと周囲を確認するように指示を出す。


 まだ残ったオークが付近にいるかもしれない……

 そいつが異常個体であれば、村を襲ってくる可能性も拭いきれないからな……


 俺は周囲を確認しながら、アリアやユリアの報告を待った。


「ノーマ君、皆。ちょっと来てもらえる。そう遠くないから」


「アリア、ユリア、何かあったのか」


「お兄さん、現時点だと私達じゃ判断できない。お兄さんやクロエに見てもらう方が早いと思う」


 『開花』で固まって移動する。

 キングの群れを見つけた位置から、歩いて十数分。


 岩肌に小さな穴があった。


 だが、その近くには……


鉄格子てつごうし……? なぜこんなところに」


「この鉄格子、元々はいんぺいされて岩肌に見えるようになってたみたい。問題はこの先なんだ」


 ……人工物。それも鉄格子に隠ぺい。

 村からそう離れていない位置で、何を……


「……これは」


「ね? 私達だけじゃ、判断できないでしょ」


 その先にあるのは、おりの中に幾つも転がる、人の亡骸なきがらだった。


「……クロエ、調べてくれ。アリア、この他に似たような空間はあったか?」


「うぅん、ない。ここだけみたいだよ。この先には机はあるけど、何かをしてた物や記録は持って行ったみたい。残ってるのは注射器だけ。密偵みっていの才能じゃないから、細かくは発見できないけどね」


 ……十中八九、ろくでもない実験だろう。

 こんな王国の田舎。そこからも外れた森の中で、人知れず行う実験だからな……


 しばらく、ヒトだったモノを眺めながら、思考を回し続けた。


「クロエ、どうだ? 何かわかったか……?」


「……うん、残った人体の一部には同じように刺し傷があった。それと、肉体の変異も。なにかの薬物を打っていた、もしくは打たれていた事が分かる。それと……」


「教えてくれ」


「向かいのおりはオークが入れられてた事が痕跡こんせきで分かった。えであばれてこわしたのか、年月で劣化れっかしていたのか分からないけど、そこから抜け出して……食事をしたみたい」


 ……この人達がどの程度、魔力を保有していたのかは分からないが、膨大ぼうだいな数の死体だ。

 それを食ったオークは……


「……これがオークキングの原因か」


「うん……人とオークに共通してるのは何かの薬物を刺されて変異――変質してる事。この注射器が答えだった」


 クロエは注射器の中を綿わたで丁寧に拭い、軽く匂いをいだ。

 そしてその綿を、用意した薬剤にひたすと、徐々に色が黒ずみ、綿がけ始め、何かのかたまりが産まれた。


 目を閉じてうなずく。


「少し前に王都で流行った、『ポイスパ』と同じ変化を示したよ。お兄ちゃん」


 目を開き、力強く告げるクロエ。


 逆に俺は、困った顔をしているだろう。

 ここに来て、王都の問題が悪化して露見ろけんしてしまったのだから。

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