表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
7章 花園への道、未だ遠く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/139

78:上に立つ者の器#

 ノインの魔術がオーク達をおそう。


 だが、キングとジェネラルの動きもまた、早かった。

 魔術の顕現けんげんによる、衝撃しょうげきと傷をいながらも致命傷ちめいしょうけていた。


 魔術の轟音ごうおんひびく中……


「ブギュアァッ!」


 いさましいさけび。それは群れをたばねるモノの咆哮ほうこう


 その声にこたえるように、下位種オークは上位種におおいかぶさり、肉の壁――要塞ようさいきずき、守る。


 ノインの洗練された魔力で大群をけずった。


 それでも、やはり……残った。


 魔術の消えた空間に……

 しっかりと下位種に守られたキング、ジェネラル、ナイトが現れる。

 魔術で負傷ふしょうした体を、下位種オークの血でらしながら。


 キングが再びえる。


 その声で、血を流しボロボロになりながらも起き上がる、下位種オーク達。


 キングの号令で、攻撃を放った何者か――俺達が、どこにいるのかを探り出そうとしている。


 ……キング、ジェネラルは傷を負っていても、致命傷はない。だがナイトは3体、下位種オークは7体まで減った……


 大分状況は良くなった。


 ……それに、王のそばから側近そっきんどもを離したな! 間抜まぬけめッ!!


「……行け! ガウル! アリア!」


 俺の声に飛び出す二人。キングとジェネラルに向かう。


「クロエ! ユリア!」


 下位種の行動を阻害そがいする為の合図を同時に出す。

 クロエは取り出した溶解毒ようかいどくびんを投げる。


 毒瓶は回転をしながら、時折月光に照らされながら、下位種オークの頭上を飛び越え――


 ユリアの矢が撃ち抜いた。


 空中ではじけ、飛散ひさんした溶解毒に、ナイトと下位種の動きが止まる。

 地面でけむりを放ち、強いにおいを放っているそれ



 キングの傍に近付けず、ナイトと下位種はうめく。


「ブアッ!」


 力強く声を出すキングの号令、だが――


「遅いよッ!」


 アリアがキングに近付くと、ジェネラルが立ちはだかる。

 そのままジェネラルと付かず離れずを維持し、動きで翻弄ほんろうする。


「へっ、キング! 俺の相手をしてもらうぜ!!」


 その間に、ガウルはキングと相対あいたいする。


 アリアはジェネラル、ガウルはキングの注意を引き付け、ナイトと下位種にすきが産まれた。


 それを確認し、俺とイリアはナイトと下位種の前にすぐさま出ていく。


 急転きゅうてんする戦場。


「展開するぞッ!!」


 俺は声を上げ、踏み込む。

 ここから先は、俺も彼女達も死と隣り合わせだ。


 背後に気を付けろ。

 常に俯瞰ふかんし、指揮を出せ。

 彼女達は、指揮それを望んでる。


 キングもまた咆哮ほうこうすると、下位種オークのみだれがおさまり、統率とうそつされた動きに戻り始めた。


 ガウルはキングの巨体と真正面で切りむすぶ。だが、にぎつるぎごと、力押しで後退していく。

 ひたいに汗を流しながら、それでも不敵ふてきにガウルは笑う。


 アリアは森の木々を使い、月光げっこうかげの中を行き来する。だが、攻めの姿勢は取らない。

 ジェネラルも油断なくアリアの動きを追い、すきうかがい続けている。


 そして……

 俺とイリアも、乱戦――地獄じごく只中ただなかにいた。


 ナイト3体に下位種7体。

 オークは個ではなく軍として、連携れんけいの経験をんだかのように構え出す。


 ナイト3体が、俺とイリアを歪な三角トライアングルに囲もうと動く。大きな隙間すきまは、そのまま下位種が体でめようとしてきていた。


 イリアは俺の背後の隙を無くすように自然と守りに動き、クロエやユリアの動きを待っている。


 俺も同じように各個撃破で数を減らす為に、じりじりと身体強化のタイミングをはかる。


 しかし、なんでこう……くそっ……!

 俺も似たような連携をするが……数に負けている状況で、魔物も戦術を使うとはな!

 下手に包囲ほういを抜けてそのまま下がれば、後衛のノインとクロエにぶつかる!

 今の状況をだっするには……


 手をかかげ、後退の合図をクロエにする。


 クロエは、急ぎ包囲陣の中心に閃光玉を投げ込む。

 それを横目に、イリアに手で合図をし、閃光玉との間に大盾おおたてを構えて入ってもらう。


 イリアは抱き着くようにして大盾を構え、万全な守りの姿勢をとった。


 パンッ!! キーンッ!!


 音と閃光が暗い森の中を走り抜ける。


 如何いかに上位種のナイトと言えど、視界をうばわれて……


 イリアの大盾の隙間からのぞくと、オーク達は光に視界を奪われ、感覚が過敏かびんかの様にうめきながら、闇雲やみくもに手を振り、足を振り、剣を振る。


 ここで包囲を抜け――待て!


 ……閃光玉は一瞬の視界を奪うモノに過ぎない。

 なのになぜ、こんなにも呻いて……痛がっている?

 闇雲に動いているのは、視界が奪われたからではなく……


「クロエ、閃光と粘着!!」


「はい!!」


 クロエも俺の意図に気付き、閃光玉3個に粘着剤ねんちゃくざいを付けて、ナイト3体に投げ付ける。


 予測が正しければ……無力化が!


 イリアの抱える力が強くなると同時に――

 再び、音と閃光が場を支配した。


 至近距離だったため、耳鳴りの音がひどいが……

 どうやら、正しかったようだな。


 目の前にはナイトと下位種が立ち上がる事も出来ず、頭を地面に打ち付け、くるった姿があった。


 ……変異へんい――変質へんしつにしては、可笑おかしすぎる……

 こいつらに何があったんだ?


 仲間のオークの血でれた姿でも異常だというのに、今は閃光によって呻き痛がり、地面に頭を打ち付け、狂ったように顔を、首をかきむしる。


「ユリアとクロエはこいつらを始末しろ! ノイン、魔力はどうだ?」


「ノー兄、魔力は十分に練れた! 行けるよ!」


 ノインの言葉で、身体強化を発動させる。


 数舜すうしゅんで全体の動き、状況を把握はあくしようと目を動かし続ける。


 ガウルは、キングの膂力りょりょくに時々押し込まれながらも、身体強化の魔力量を増やし、距離をひらき――助走じょそうをつけて剣を振り抜く。

 ひたいに汗をかきながら、今も横顔は笑っている。

 強がりかもしれないが、まだガウルが笑っていられるだけの状況って事だ!


 アリアも瞬発力しゅんぱつりょくで逃げられてはいた。

 だが、俺達やガウルから付かず離れず、邪魔じゃまをさせずの位置で避け続ける為に、常に一手先いってさきの状況予測を要求されている。

 綱渡つなわたりの状況に近い。


「アリアの援護に回るぞ! ガウルは耐えきれる! ノインは待機だ!」


 急ぎ、手で指揮をしながらも言葉も告げる。

 これだけ口を開き、余裕のない戦闘指揮はいつぶりだろう。


 Aランク魔物のひきいる大群たいぐんとは、それだけ恐ろしく、余裕がなくなる状況だ。

 だが……


 冷静さをく事など、決してあってはならない。


 俺が冷静でなければ、大事な花を散らしてしまう。

 だからこそ、今はガウルではなく、アリアだ!


「アリア! イリア!」


 俺の言葉と手指示に、イリアは動き出し、アリアはちらりとこちらを見て口の端を上げると……


 ジェネラルの攻撃をけ――入れ替わるようにイリアがあらわれ、大盾で防ぐ。


 良い動きだ!


 俺の言葉と手指示だけで、二人の位置関係とタイミングに気付いてくれる。


 そして、俺も走り出す。

 イリアが大盾で防ぐ間に、瞬間の身体強化をほどこした俺とアリアで!


「アリアッ!!」


「いつでも良いよ!!」


 俺に合わせろ!


 身体強化と剣先に魔力をわせる。

 ジェネラルの動きが遅くなる。

 ゆっくりと、イリアから俺に向こうとするが……


 間に合わせねぇよッ!!

 更に、魔力を!! 流せ!!


 俺の踏み込みを、刺突しとつを……

 アリアの踏み込みのりで深々と――


 突きさせぇえええ!!!


 ジェネラルの腰に、ゆっくりと突き刺される剣。

 だが、俺の魔力だけでは浅く刺さるだけで、途中で岩にでも当たったかのように止まる感覚が手に届く。


 流石、Bランクのオークジェネラルだ。魔力を身にまとい、強化された肉体。硬度こうどが違いすぎる。


 だが、俺には無理でも!


 ここだ、この瞬間ッ!!!

 アリアの魔力量ならッ!!


「アリアぁああああっ!!!」


「はぁあああああッ!!!」


 俺の声が聞こえる前から、俺の動きに呼応こおうして動いていたアリア。


 ジェネラルの腰に刺さる剣を、アリアが!


 魔力で強化し、助走じょそうを付けた全力の飛びねた勢いが乗った足で――

 踏み抜く!!


「ブグッ」


 ジェネラルの腰に深々と刺さり、背中から腹を突き破る俺の剣。


 震えながら、剣に手をかけるが――そんな隙を見逃す様な『開花』ではない。


「そこですっ!」


 イリアがジェネラルの胸を袈裟けさ斬りし、そのまま横なぎの一撃いちげきを首にはなった。


 ジェネラルは、今度は何も言えずに、静かにひざからくずれ落ちる。

 腹から出た剣によって、膝を付き、こうべれた姿勢で息絶いきたえるジェネラル。


 ……残すは、キングのみだ。


 ジェネラルの背中から剣を抜き取ると、静かにアリアとイリアを付き従えて、向かう。


 さぁ、孤独になった王に、会いに行こうか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ