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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
7章 花園への道、未だ遠く

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74:一方そのころ、王都の蕾

 『開花ブルーム』が、王都を出発したのを見送った直後の事。


 アルメリアとフリュウはヒルダにかかえられ、『百花繚乱ライオットオブカラー』の会議室に運ばれた。


 円卓に並ぶ『花扇』のリーダーたち。その中で、ぽつんと末席に座るアルメリアとフリュウ。


 そこから時計回りに視線を辿れば、レイク、ウィンリィ、アイシャ、サニア、グレイ、ヒルダと並んでいる。


「……そんで。なにを俺が気付いていないってんだよ、ヒルダ。機微きびがどうの」


 グレイがむすっとしながら、再び聞き直す。


「じゃぁ、答え合わせしてやるとしますか」


 ヒルダはビシッ、と人差し指をアルメリアとフリュウに指す。


「ズバリ、あんた達、ダンジョン遠征での事を引きずってるだろ! いつもと動きがぎこちない、言葉に覇気はきもない、ノーマの視線をうかがいすぎてる。当たっているだろう?」


「「え、えぇ……!? な、なんで分かるんですか……!」」


 二人の声が重なり、会議室にひびく。

 その声に、『花扇』のリーダー達――グレイを除き、想定通りであった答えに納得を示す。


「……やはり、か。気持ちの問題は厄介やっかいなモノだからな」


 レイクは腕を組みながら、静かに呟きうなずく。


「そうだよね~? これに気付けないって、リーダーとしてどうなんだろうね? 仲間の行動、言葉に気を使い、理解を示してこそ、パーティーリーダーだよ、グレイ」


 ウィンリィはグレイに流し目をしながら、厳しい言葉を投げかけた。


「……おにの首でも取ったかのように言いやがるじゃねぇか……けっ……」


 悪態あくたいが口をついて出てしまうが、ばつの悪そうな顔をするグレイ。


「そこが上手く直せないなら、お前はそこまでで止まってしまうぞ」


「わぁってんよ、ちくしょう……! だが、今回は俺の件じゃねぇ。さっさと進めてくれ!」


 グレイは、レイクの言葉にれた口調で同意し、気付けなかった悔しさのにじむ顔を手でかくして、先をうながした。


「あ~、でも、誰しもが通る道だからねぇ。特にランクが低い内は……」


「だねぇ~。むしろ、下手にアタシ達『花扇』だけの臨時りんじ混成こんせいパーティーよりも安定感あるから、良かったって思うべきなんだけどね。そうは気持ちが上手く切り替えられないからこそ、まだノーマから見て、つぼみなんだろうね~」


 アイシャの言葉に、サニアもアドバイスを言う。


「まぁ、それで気持ちがどうにかなるってんなら、アタイもそれで良いんだ。……だけどじょうちゃん達は、それじゃ納得できないんだろう?」


「……頭では、分かってるんだ。ノーマにも切り替えられなければ、死ぬって言われてるからさ……でも、私があの罠に気付かず踏んだって事が、どうしても何度も、何度も! 目を閉じると繰り返されるの! ノーマの期待を裏切るのも、ノーマが傷つくのも怖いの!」


 顔を手でおおい、感情に任せて首を振り続けるアルメリア。


「わ、私も、あの時どうしても、心の油断があって、罠を見逃しました。その結果、ノーマさんに負担がかかり……私達だけを、助けようとしたノーマさんを初めて怖いと思いました……いつまた失敗をして……その時に、助からなかったらって」


 フリュウも同じように感情をこぼす。

 だが、冷静に心の問題を見つめられていた。


 その様子に、『花扇』の面々は顔を見合わせると、レイクがぽつりと口火を切る。


「俺は、というか俺達は元々Dランクパーティーだったのは知ってるよな?」


 唐突に静かに話し出したレイクに、アルメリアもフリュウも黙って頷き、見つめる。


「俺達――『月浮かぶ湖面』が『開花』とダンジョンに入った時、レベルの差に落ち込んだ。その時ノーマに『君達は実力があるのに、どうしてそんなにくさりそうになってる。レイク、君の思慮しりょ深さは良いけど、ネガティブは駄目だ。パーティーメンバーに伝染でんせんするぞ』って笑われた」


 優しい眼差まなざしで二人を見る。


「そのダンジョンでの戦闘指揮はボロボロで、最終的にノーマの指揮になったくらいだ」


 自嘲じちょうする様に思い出して言うレイク。


 レイクは次にウィンリィを見た。

 見られたウィンリィも、はぁ……、と息を吐き、呟く。


「……余り言いたくないから、ここだけの話だよ?」


 恥ずかしそうな顔で、二人にウインクをするウィンリィ。


「ボクがノーマ直伝のスパルタ魔力訓練を受けてた時、成長を焦って指示を守らずに、かくれて訓練し続けた。結果、その日のダンジョンは魔力回復剤を服用しても、ずっと気持ち悪さがぬぐえず……最後に吐いて、そのまま失神さ。ノーマにおぶられて、ダンジョンを撤退てったい。情けない話、ボクは失神して記憶にないけど、『ノーマの背中』にも迷惑めいわくをかけた」


 ウィンリィは額に手を当て、気まずそうに言うと、今度はアイシャを見る。


「え~……今度は私ぃ……これ言うの嫌なんだよぉ……」


 アイシャは天をあおぎ見て、呟く。


「……アイテムポーチと化粧ポーチを間違えて持って行った。終わり」


 アイシャは一息にささっと終わらせて、サニアを見る。

 だが、それは許されなかった。


「おい、噓つくんじゃねぇよ! その後に続きがあんだろうが。しっかりと教えてやれよ。先輩として」


 にやにやしながらグレイがアイシャに告げる。


「あんた、覚えてなさいよね……! 分かったわよ、言えば良いんでしょ! 同じ形のポーチにダンジョン用アイテムを入れて、そのつもりでダンジョンに潜ったの! でも、ノーマに言われて、アイテムを魔物に投げつけたら、ファンデーションが舞ったの! 投げたアイテムの形も似てたんだから、仕方ないでしょ!」


 腕組みをして、フンッ、と言うアイシャ。


 グレイが馬鹿にして笑う。


「はははっ! どこの馬鹿が化粧ポーチなんか持ってくんだよ! アホすぎ――」


 アイシャが机にして顔を隠す。

 女性陣は静かにグレイの姿をみる。

 そして、ヒルダはかぶりを振り、ウィンリィは「自分も話すのに馬鹿だなぁ」と皮肉を呟く。


 その光景に、グレイも口を閉ざして静かにした。


 少しして、アイシャが気を取り直し、サニアを見る。


「アタシはね~……ノーマと合同パーティーではしゃぎすぎて、思いっきりスキップしたら泥沼に突っ込んじゃった。その泥沼から引き上げてもらうのに時間かかっちゃって、結局、なにもしないで帰還きかんしたんだよね~」


 アイシャは自分の頭頂部――犬耳を手で抑えて、頭を抱える様にする。


「ノーマには、『下手したらパーティーリーダーだけが死んでたんだからな』って泥だらけで怒られました。えへへ……」


 苦笑し、ほほを引くつかせて、当時の自分の行動を恥ずかしそうに言うサニア。


 サニアはグレイを見やる。


 グレイはさっきまでの態度と打って変わり、本当に静かに言った。


「格好つけて……、ノーマの声を無視して……」


「え~? なんて~? ほらほらぁ、グレイ? なんて言ったの~? 先輩だよねぇ?」


 アイシャがグレイにやり返す。


 グレイはアイシャを馬鹿にした。その自分でいた種に、屈辱くつじょくにでも耐えているかのように身を震わせる。


「……格好つけて、ノーマの声を無視して、魔物に突っ込んだ」


「で~? 何が起きたんだっけぇ?」


 アイシャの声に、プルプル震えながら顔を赤くするグレイは、ガタッとイスから立ち上がって大声で言う。


「だぁああ! くそっ! そうだよ! 突っ込んだ後に速攻で、散布さんぷされた麻痺まひ毒を吸い込んで身動き取れなくなったんだよ! その間、ノーマが前衛に入って俺を守ってくれてたんだよ! ちくしょうっ!!」


「あらあらー、騎士様に助けられてうらやましいわー。ね~ぇ、グレイ? それに、その後『馬鹿がリーダーに成れる訳がない。お前が死んでも、メンバーは殺すな』って言われたんでしょう?」


「うぅ……うぅぁあああ……この話は他言無用だからな……はかまで持ってけよ……」


 アルメリアとフリュウを上目で見るように、グレイが告げる。


「こういう事さ。わかったかい、お嬢ちゃん達? 今の『百花繚乱』の創設メンバー『花扇』のリーダーだって、色々とやらかしてきてんのさ。アタイだって何度やらかしてきたか分からないくらいさ!」


「……ヒルダの件は、俺達には昔から教えてくれないからな。後で個人的に聞いてみると言い」


 レイクはアルメリアとフリュウを見て告げる。


「良い女は無暗矢鱈むやみやたら吹聴ふいちょうせずに秘密を作るもんさ」


 がっしりしながら、スラリとした肢体したいらし、大きな胸を張って言いきるヒルダ。


 その後に二人の目を見て伝える。


「さぁ、どうだい? アンタ達の悩みはアンタ達だけじゃない。アタイ等も同じ道を辿ってきたんだ。安心したかい? 誰もがノーマに助けられ、殺しかけ、強くなってきたのさ。アンタ達は、どうなりたい?」


 アルメリアとフリュウは顔を見合わせて一緒に答えた。

 短く、力強く――それでいて、優しい少女達の声。


 その一言に、『花扇』の面々はうなずき、顔をほころばせた。

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― 新着の感想 ―
グレイに大きなブーメランが刺さりましたね。 ブーメランとは投げずにいられぬものなりけり。 (*´ω`*) でも、やらかしレベルで言ったら、ノーマも色々とやってそう。本人が無茶無謀と考えるラインと、周…
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