7:御守りの依頼①#
少女二人に声をかけて、オークが戻った空き地に躍り出る。
「良いか、お前ら! 俺の声に合わせろよ!」
少女二人には、静かにオークの背後に回ってもらい、剣士の茶髪ポニーテール少女と魔術師の黒髪ストレート少女に合図をする。
その声に反応し、オークがこちらに攻めてくる!
観察しろ!! 奴の動きを! 絶対に攻めるチャンスは来る! 来る!
どすどすと音を鳴らしながら、俺を見ている。
オークが同じように拳を握り、大きく振りかぶる!!
右、左、右、左と拳を横にふるう!
当たらない事で拳を振るうのをやめ、真っすぐに拳を突き出す。
これを避ければ!! 態勢を戻すのに時間が――!
今だ!!
「ポニテ剣士!!!!!」
「はい!!!」
ポニーテール少女が背後の茂みから飛び出し、オークに近づく!
その姿を確認して俺も拳を避けながら、振りかぶった隙だらけのオークの足先を切り付ける。
爪が剥がれる痛みは想像を絶するだろうが! 豚野郎!!!
「プギュアアアアア!!!」
オークが痛みから、足の指を抑える動作をして背を折る。
「ポニテ剣士、首に斬りかかれ!!」
「はい!!」
ブシュッと切れ味が良さそうに首横を切る。
オークはどくどくと血液を垂れ流し、苦しそうにしながら手を振り回し泣き叫ぶ。
「黒髪魔術師!!! 今だ!! 風刃だ!!」
「は、はい!! 切り裂き抉れ! 風刃!!」
黒髪ストレートの少女が手を広げると、オークの顔に向けて無数の風の刃が襲う!
たまらずにオークは顔を手で隠す。
その隙に俺はオークの横に走る!
いくぞ!
「残念だったなぁああ!!! 首がお留守だぞ!!」
俺は戦闘の高揚感から、はしゃぎながら首に剣を突き立てる。
俺の剣だけじゃ届かなくても、先にポニテ剣士が切り込みいれていれば、なぁああ!!!
オークの首の半分程まで刃が通る。
そのままオークは何も言わずに倒れた。
ふぅ……久々に、中型を狩ったな……
「ははは、これだよ! これこそが、冒険者だよな!!!」
C級になったテンションと酒のせいで大分やばい奴になってそうだ!
だが、関係ない! 今日から俺はC級だ! 才能持ちに無能者の俺が並んだんだ!
こんな時くらい喜ばないでどうする!
「ありがとうございました!」
「あ、ありがとうございます」
おっと……
流石にこのまま話してたら、頭が可笑しい奴になってしまうな。
落ち着こうか。
ふぅ~……
んぁ? 戦闘が終わった後になんで、クリエイトウォーター……?
あぁ、漏らしたのを洗い流すのか。お兄さんは何も言いません、見ませんからさっさと洗い終わりなさい。
その間に俺も息を整えるから。
暫く呼吸を整えて声を出す。
「それで、お前らはなんでオークなんかに襲われてたんだ? 更に奥まで行ってオークの住処でも踏み込んだのか?」
俺が聞くと、慌てたように手を振って否定する二人。
「い、いえ、コボルトを相手にして、あの木の生えてない場所で戦ってたら、いきなり走ってきたんです……!」
「横からいきなり、勢いよく来たから避けたんだけど……オークが声を上げたのを聞いたら、びっくりしちゃって足に力が入らなくて……」
さっきの死にかけのコボルトはこいつらか。
しかし、二人がまだ何もしていない状況でオークが勢いよく走ってきた……?
あの辺りにはダンジョンはないということになっているし、オークの住処ももう少し先に作られる事の方が多い。
オークと言えども冒険者を避ける動き程度の知能は持っている。
おいそれと人里に近づいて狩られようとはしないはずだが……
まさか、新規ダンジョンか……?
初心者の薬草採取場に近い位置で……?
いや、考えすぎか。
可能性としては、近場に人里を知らないオーク達の集団が住処を作った、または群れからはぐれたオークが迷い込んでって線の方が高いか。
初心者の行きかう森で新規ダンジョンなんて事になったら一大事だしな。
「そうか。そうなるとギルドに行って報告をしないといけないな……王都に戻るぞ。付いてきてくれ。名前は?」
「アルメリアです!」
「フリュウ、です」
「分かった。アルメリア、フリュウ、付いてこい。」
こうしてオーク討伐の証を手に入れて、二人を連れて森を戻り、王都の冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの扉を開くと、訝しげに俺の姿を見てくる者が多数いた。
それらを無視してアンナの受付へ行き、声をかける。
「アンナさん、王都近くの薬草採取の森でオークが見つかりました。この報告ってすでに来てますか?」
アンナは俺の言葉に驚きの顔をすると言う。
「王都近く!? そ、そんな報告あれば一旦出入り禁止の通知をしてますよ!? ど、どのあたりで見かけましたか!?」
アンナが簡易的な地図を出しながら言う。
「オークが向かってきた方角の詳細に関しては、俺も途中からなので判断できませんが……俺が見かけたのは王都の南西の薬草の森を、採取しながらなのでおよそ5km~10km程進んだ位置で遭遇。討伐後にマークを周囲に残して無暗に立ち入らないようにしてあります」
「はい……はい……そうすると、地図のこの辺りでしょうか……」
アンナが地図に軽く印を付ける。
「恐らくは。この二人が最初の遭遇者になりますので、詳細はアルメリアとフリュウから聞いてください。それじゃぁ、後は頼むぞ、二人とも」
そう言って、アンナ達の受付を離れ、薬草を卸すために買取受付に向かう。
そのタイミングで、依頼をこなしギルド併設の酒場で飲む、酔っ払い3人が上機嫌で声をかけてくる。
「おー、久々に依頼やったのか? 今度はなにやったんだ? 初心者の仕事奪うなよなぁ?」
ちょび髭のハゲが言う。
「ははは、言ってやるなよ。無能者の癖にD級冒険者になってるんだぞ。幼馴染を利用して、良くやるよなぁ?」
眼帯のハゲが言う。
「なんだ? 無視すんなよ? おーい、六花のアブラムシさんよぉ~?」
眉間にでかいほくろのハゲが言う。
酒を飲んで気分が良いんだろう。
無視してささっと薬草とオークの討伐証明をだしてしまおう。
「すみません。薬草の買取と」
「なんだ、こいつ! 薬草なんて採取してんぞ! ひゃひゃひゃひゃ! 成りたての仕事、奪ってんじゃねーよ! D級だったらダンジョン行って来いよ! なぁ!?」
「やめてください!」
「や、やめて……!」
先ほど分かれた少女二人が俺と酔っ払い冒険者との間に立つ。
「その方は、オークを倒して助けてくださったんです! そんな事は言わないでください!」
「そ、そうです!」
二人の話を聞いて酔っぱらい達が顔を見合わせ、俺の買取品を見る。
「オーク……? オークを倒しただってぇ?」
「見ろよ、こいつ討伐証明のオークの耳出してやがる!」
「D、D級だからな! 流石に無能者でも、オークは狩れるって事だろ!」
その言葉に、俺はにやにやした顔で口をはさむために口を開く。
「俺は今日から、C級だ。無能者に先を越されたなぁ、才能持ちさん?」
偶には良いだろ。
普段は彼女達に実際に負い目があるし、追放処分かと思ってたから言わなかったけど……散々な事を言われてきたんだ。
あぁ、こうやって言い返せるのは気分が良いなぁ……
ゆがんだ感情が出てきちゃうよ。
唖然としたまま固まってしまった酔っぱらいを放置して、買い取り代金を受け取りギルドを後にしようとする。
「ノーマさん! 待ってください!」
アンナから急に声がかけられる。
「なんですか? 俺の報告はもう何もありませんけど?」
「いえ、その件はこちらでギルド長に連絡済みですので、もう大丈夫です。その件ではなく、こちらのお二人からの依頼がありまして……」
アルメリアとフリュウがこちらを見ている中、アンナが言った。
「依頼……? なにを依頼するんだ?」
「私たちに同行して、冒険者の基本を教えてください!」
「お、お願いします!」
お漏らし少女二人からの依頼――御守りをお願いされた。