68:クランに咲く花を眺める
先日、冒険者ギルドを伺ってから、正式に活動休止の通達が届いた。
「ノーマ、活動休止だって~? その間はどうするの~?」
インフィオが当たり前のように、クラン長室のソファにゆったりと座りながら、話しかけてくる。
「元々、ここ最近はバタバタしてたしな。そろそろ、まとまった休みでも取ろうかな、って考えてたんだよ」
「へ~……クランはどうするのさ~?」
ごろん、とソファに横になりながら、顔だけこちらに向けてきた。
くつろいでんなぁ……
「クランはローズやインフィオ、部門長に任せるよ。まぁ、本格的に休みを入れる日はまだ決めてないから、この後に報告する予定だったけどな」
「ふ~ん……そっかぁ……クラン創設から3年間、まとまった休みを取った事なかったもんねぇ~」
興味を失ったような感じで言うと、ソファから顔を出すのを止めて、本格的にごろごろしているようだ。
「まぁ、偶には休んだって罰は当たらんさ」
「そうかもね~……でもさ~……」
「ん?」
「いつもいるノーマが居なくなるのか~……つまんないな~」
俺は別にいつもいる訳じゃ……居た、かもしれないなぁ……
基本居るなぁ……
やる事と言ったら、自己鍛錬、クラン長室で仕事、訓練場で批評、短期の遠征に付き添い、くらいだったし……
ほぼ毎日、居た気がする……
クラン員から仕事中毒とか思われてそうだ。
「つまらないって言われても困るが、暇な時間はクラン団員と話でもしてな」
「ノーマほど反応が面白くないんだもんな~……」
俺の役目って……インフィオの中でどうなってんだよ……
珍しくインフィオとのんびりした会話をしたのであった。
しばらくして定時報告の時間となったので、部屋を出て部門長区画に声を掛ける。
「ローズ、皆、おはよう」
ローズ、フーディー、アーミン、リクエスに挨拶をする。
インフィオは後ろに引っ付いている。
「ノーマさん、おはようございます。ギルドから届いた活動休止の件ですよね?」
「あぁ、その事なんだけど。まとまった休み貰えないかな?」
「「「え……?」」」
ローズ以外、一言で固まった。
おいおい……俺だって、いつもいつも仕事していたい訳じゃないんだぞ……?
「分かりました。いつからお休みされますか?」
「決まってないよ。『開花』とそうだんして決めるからさ、もう少し待ってくれないかな。その内に来るだろうし」
「承知しました。ほら、みんな、なにを固まってるの。定例報告会議を始めるわよ?」
そこからは各部門の報告を聞いていく。
最近はまともに朝は参加できていなかったが、特に問題もなさそうだ。
世は全て、事もなし。
良い事じゃないか……
「あ、ノーマに報告忘れてた。ちょっと前に、大通りでいざこざがあったって報告してたよね」
「ん? あぁ~……あったような気がする……それがどうした?」
「その相手は『金の樹』リーダーのCランク冒険者、ジェイドって言うんだけど、確かに合同依頼で参加してたよ。まぁ、それは良くて……彼等はメンバー二人を故意に、ダンジョンへ置き去り――囮にして、逃げたらしいよ。囮にされた二人が、王都にボロボロで戻ってきて発覚したんだって。酷い話だよね~」
インフィオは酷い話と言いながら、別に悲しそうではない。むしろ笑っていそうだ。
まぁ、俺自身も別に、へぇ~、位にしか思わない。時々あるしな、こういう話。上位ランクでは、そこそこ珍しいかも知れないが。
「Bランクダンジョン『陽を遮る緑陽』に無謀に挑んで、メンバーを見捨て、依頼失敗で違約金。複数の酒場で聞いたら、元々ノーマを目の敵にしてたらしいけど……何かやったの?」
そんなにワクワクした目で聞くんじゃありません。
面白い話なんてないんだから……全く、こいつは。
「何もしてない。と言うより、記憶に残ってないからなぁ……俺からは何もしてないはずだ……」
「そっか~。じゃぁ、酒場で聞いた通りかな? メデューサ討伐の噂に嫉妬して上位ダンジョンに挑み失敗。逆恨みだね」
それはそれで、楽しそうに言うのを止めなさい、インフィオさんや……
ほぼ『金の樹』との記憶が消えてるから、相当面倒に感じたんだろうな。
「掻い摘んで聞いたら、もっと碌でもなかったな……」
部門長達も俺の発言に頷きながら、「うんうん」と言っている。
「その件で『金の樹』は即刻の活動休止だってさ。違約金の件も、正式に所属クラン『雄々しき月光』のグリズリーに送られたみたいだよ。この後どうするかは、クラン長の沙汰次第だろうね」
グリズリーも大変だな……
まぁ、『百花繚乱』の事じゃないから、手伝わないけど。
「そうか。Cランク冒険者でありながら、俺の記憶に残らなかったって事は、『徒花』だろう。その上、持ち上げられて良い気になっただけの、『枯れ尾花』、とはな」
才能開花した者にありがちな、傲慢な思考のまま上位ランクに上がるなんて、不運だな。
自分も、仲間も、誰も良い結果にはならない。
まさにそれが、証明された良い例となったな。
『百花繚乱』はそんな事は起きないだろう。
俺の花園は、そんな徒花ではないのだから。
インフィオの報告も終わり、引き続き定例会議を続けていく。
今日も、『百花繚乱』は何も問題なさそうだ。
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