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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
6章 実を付けぬ金樹(ざまぁ)

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67:関心のない枯れ尾花

 帰ってきて書類をまとめ、数日経過したばかりだから、まだ体に疲れが残っているな。


 石化のしびれは早めの処置で治ったが、薬剤の乱用オーバードーズによる副作用がまだ残って、魔力の練りがし辛い。


「はぁ……しかしどうにも、この視線が……見る目が変わって来たと喜ぶべきか、鬱陶うっとうしいと言うべきか」


 王都の通りでは、『ディアナ王国武闘祭』で顔を見ていた多数の者がこちらを向いて、ひそひそと言いながら指し示してくる。


 これが無能者で馬鹿にされていた頃と似ているのなんのって……言っても仕方ないだろうが、気分は良くないんだよなぁ……


「はぁ……まったく、どうしていつもひそひそと」


 何度目になるか分からない、ため息を吐いてしまう。


 今回の件で『開花』の皆にも怒られたし、そもそも花扇にも色々と言われ……留めにローズが報告書を見て震えだし、涙を流して仕事にならず。

 散々な状況を招いてしまった……


 無茶だったのは分かっていたが……それだけ、心配してもらえるとは思っても居なかったよ……

 言ったら怒られそうだが、嬉しかったりするんだよなぁ。


 そんな事を考えて、通りの視線を無視しながら冒険者ギルドを目指して歩く。


 今回は『古びた石壁』の件で報告、兼、お叱りのお言葉を頂きに行くのだ。


 それもまた、ため息が出てしまう要因なのだが……


「ふぅ……さて、到着っと……」


 ギルドの入り口を抜けると……騒がしい声が響いていた。

 どうにも受付窓口である冒険者が揉めている様で、一方的に話続けている。


 まったく、窓口で受付嬢に文句言う輩ってのは、どうして大声で相手の言い分を聞かないのかね。


 いつもの如く、階段に近い位置の窓口に座るアンナに声をかける。


「アンナさん、おはよう。今日はビッグスさんに朝から会う事になってるけど」


「あ、ノーマさん! 聞きましたよ!? 石化の件! もう……無茶しちゃだめですよ……? 冒険者のノーマさんに無茶するなって難しいって分かってますけど……でも……」


 アンナが悲しそうな顔で俺を見ると、目をしっかりと合わせて言った。


 まぁ、無茶しないってのは保証はできないけど……だが――


「アンナさん、無茶はします。でも、必ず生きて帰ってきますから。そんな顔をしないでくださいよ、ははは」


 申し訳なさも感じている分、少しばかり乾いた笑いも出てしまった。


「絶対……絶対ですからね! 私の担当冒険者が、……なんて嫌ですからね!」


「分かっています。絶対、生きて王都に戻ってきますから。それで……ギルド長室へは向かっても平気ですか?」


「あ、えぇ! そうでした……ふぅ……ノーマさん、どうぞ2階に上がってください! ギルド長が部屋でお待ちしておりますので!」


 アンナは一度深呼吸すると、明るい雰囲気ふんいきに戻して告げた。


 はは、彼女にも心配させてしまったな……

 だが、これから会うビッグスには更に絞られるだろうな、ははは。


 階段を上がり、ギルド長室をノックする。


「『開花』リーダー、『百花繚乱』クラン長、ノーマ・レヴィシアです!」


「入れッ!!」


 ひぃっ……いつもより、大分、声が恐ろしい。

 それこそ、奇跡協会の時よりも怒ってらっしゃる感じだ……


 くそっ、魔物と違って人間は思考や行動が難しいからな……


 扉を開き――

 ビッグスの睨みの利いた視線に足が止まりかけるが、何とか踏み出していく。


「座れッ!」


「……は、はい」


 応接用のソファに座り、ビッグスの顔を見る。

 よくよく見ると、怒っている様にも、心配そうにしている様にも見える。


「……体はどうだ?」


 神妙しんみょうな声音で言われ、一瞬、固まってしまった。


「はっ? あぁ、いえ、問題ないとは言えませんが、石化の影響は特に残っていませんよ。この通り、体も五体満足ですし」


「そうか……ギルドとしても、今回の『古びた石壁』の件は重く受け止めている。未帰還の冒険者が居たが、あくまでも実力が足りなかったと考えられていた。それがまさか、こんな結果になるとは、な」


 あのダンジョンは未踏破ではあったが、それはあくまでもボスエリア到達をしていなかったからだ。


 ある程度、ダンジョン内の構造、出現する魔物、罠の情報は出回っていたため、潜る冒険者の数も多かった。

 その内のどれくらいの冒険者が罠を踏みぬき、裏ダンジョンに入ったのかは知らないが……決して多くはないはずだ。


「流石に気付きませんって。あんな落下罠を抜けた先に、メデューサが配置されているなんて」


 流石に……

 この件で責められるべきは俺だろう。


 なんせ、なぁ……


「罠を踏みぬいたのは『百花繚乱うち』のアルメリアですよ。しっかりと指導していれば、危険を招く事もなかった。この件で、ギルドの調査不足だって言うのはおかど違いですよ……」


「まぁ、そう言って貰えると助かるがな……あれから再発防止に、ダンジョン報告、未帰還の見直しを理事会が命じてな。お孫さんが巻き込まれてってのもあるだろうが、てんやわんやさ。それはこっちの問題として、だ」


 ビックスがグイッと顔を寄せてきた。


「な、なんですか?」


「公式としては褒められる行動じゃねぇが……やりやがったな、ノーマ! メデューサ討伐だ! 理事会のお孫さんも一緒に落ちて、無事の帰還。こりゃぁ、個人的に何か有るかもしれないぞ!」


 んぁ?

 意外と怒ってないのか?

 おしかりムードの中で色々と突っ込まれると思ってたんだが……


「ははは、必死でしたよ。なんとか二人は石化させずに済みましたが、俺は石化一歩手前でしたから」


「問題はそこだ。冒険者としては、無理無茶は承知で戦闘しなきゃなんねぇ時もある。それが格上の魔物だろうと、な。だが今回は他クラン、他パーティーが居た。捜索を待つべきだった、って意見も理事会から出てな」


 あ~……確かに理事会からそういう意見が出ても仕方ないかもなぁ……


 理事会は、冒険者から成った者ばかりではない。だからこそ、良質なギルド運営が維持されているとも言える。


 今回、疑義ぎぎを上げたのは誰かは分からないが、お爺ちゃんレイアールお婆ちゃんナイラじゃないだろう。


「……調査官は派遣されますか?」


「こんな事で調査官は出張って来ねぇさ。メンバーが罠や魔物によって、不自然に死んだとかなら別だが」


 ふぅ……

 調査官には知り合いも居ないし、便宜べんぎはかるとしたら理事会の伝手つて。面倒極まりない。

 痛くもない腹の中を、もぞもぞ動かれるのは気持ちが悪いからな……助かった。


「と、言う訳で、だ。理事会のほとぼりが冷めるまで、お前に加えてアルメリア、フリュウも活動休止だ! 公式としては、他冒険者が無茶する可能性のある危険な行動による休止、だがな。実績は積んだが、やり過ぎたな! はっはっは」


「ま、まぁ……その程度であれば、特に問題ありませんよ。どうせ、少し休もうと思っていたので」


「そいつは良かった! ギルドからも活動休止命令が出て、堂々と休めるぞ! ま、クラン運営にでも精を出すと良い」


「あ、この休みはクランでの活動も休もうと思います。北のナモナキ村に戻って、顔でも出そうかなと。冒険者になってからずっと、王都に居続けたので」


「あ~、里帰りか。王都に来た冒険者は里帰りなんて、ほとんどしねぇからな。俺も親が死んでからは、里帰りなんて面倒でしなくなっちまったな」


「それは、まぁ……忙しさもあるでしょうし?」


「はっ、言い訳さ。王都暮らしが長すぎて、懐かしさよりも面倒くささの方が勝ってるだけさ」


 ビッグスは笑いながら言うと、真面目な顔に戻す。


「今回は無事に生き残った。だが、次回も……なんて考えはよせよ。そうやって、一山当てて次も狙うビギナーズラックなんて考えで、消えていった奴らを腐るほど見てきた。まぁ、お前はそういうタイプじゃねぇだろうから、お節介な忠告かもな」


 ビッグスは真面目な顔から、笑った顔に戻す。


 ありがたい事だ。こうやって言ってもらえるなんてな。

 そして、改めてビッグスの思いやりも感じる。

 相当に心配していたからこその、怒り。そして、無事であったからこその、忠告。


 ここ最近の流れで、浮かれ、とまでは行かないが……早く早く、とれている気持ちもあるかもしれない。

 俺も気を付けておかないと、いつか身を滅ぼすな……

 グリズリーにも『古びた石壁』での実践で驚かれていた。


 たがが狂ってしまわないように……今一度、見つめ直すべき機会になったな。


「いえ、その忠告は金言きんげんですよ。無理無茶をする場面と、しなくて良い場面は切り離すべきですからね。俺自身、こういう事に慣れすぎてしまっているかもしれませんので、気を付けます。アルメリアとフリュウにも良く伝えておきますよ」


 俺の言葉にビッグスもホッとしたような顔をした。


 心配かけて申し訳ない。


「そうしてやってくれ。あと今回の罠の事だが……お前の不注意で気付けなかったって報告書には書かれているが、良いんだな? お前の評価にも繋がるぞ?」


 ビッグスが俺の発言内容との齟齬そごに気付き、真意をうかがうようにして言った。


 だが、答えは決まってるさ。


「はははっ、それこそ問題ないですよ。『百花繚乱』で参加し、俺がいた。なら全責任は俺にあるんですよ。裏方の、クラン長の俺が全て背負せおいますよ。支援すると決めた時から、俺は覚悟を持ってクラン長をやってます」


 力強く宣言し、ビッグスを見やる。


 そうさ。俺は、俺の手の届く内はしっかりと育て上げる。

 だからこそ、『花園の批評家レビュアー』なのだから。


「そうか。それなら良い。詳細は報告書のみ、と言う事にさせてもらう。これは非公式の雑談だ」


 にやりと悪い顔をするビッグス。


 ははは、ビッグス。その顔だと子どもが泣き出すぞ?

 だが、今の俺も似たような顔になっているだろうな。


「えぇ、お願いしますよ。王都支部、冒険者ギルド長のビッグス殿」


 手をスリスリしながら、言うとビッグスが以前と同じ様に嫌そうにしながら口を開く。


「だから、それをやめろと……もういい、さぁ、帰れっ! 話は終わりだ!」


「では、失礼しますね」


 ビッグスがキレる前に、さささっ、と退散を決め込みギルド長室を出ていく。


 なんでか、この手をスリスリするの不評なんだよな……

 やり方が悪いのかねぇ……まぁ、良いか。


 さて、用事も済んだし、帰りますかね。


 2階から階段を降り1階に向かう。

 来た時は怒声で騒がしかったが、今はいつも通り笑い声やら混じった騒がしさになっていた。


「アンナさん、ビッグスさんと話し終わったから帰るよ。受付窓口も落ち着いたみたいで良かったね」


「あ、ノーマさん、お疲れ様でした! 時々あぁして、依頼内容の確認不足で揉める事がありますからねぇ……まさかCランクパーティー『金の樹』が、とは考えたくもなかったですよ~……それを茶化して酒場の冒険者も笑ってましたし……」


「はは……それは、なんというか……お疲れ様です」


「私の担当ではなくても、聞こえるだけで疲れちゃいますよ~……あっ、今の内緒でお願いしますね」


 うっかり、疲れを吐露してしまったアンナが、シーッと人差し指を立てて言う。


 まぁ、アンナが巻き込まれなくて何よりではあるが、担当の受付は本当にお疲れ様、って感じだな……


「ははは、分かりました。それじゃ、失礼します」


「はーい! また、寄ってくださいね~!」


 アンナに別れを告げ、ギルドを出る。


「お、おい! 待て!」


 ……俺に声をかけ、てはないか。

 ギルドに居た人間で知り合いは居なかったはずだしな。


 そのまま歩き続けると、後ろから肩を掴まれる。


「待ってって、言ってんだろうがっ!! 聞こえねぇのか!!」


 怒声を上げながら俺の肩をつかみ、さわぐ男。


 よろいが土に汚れ、傷も付いている。

 元々は綺麗きれいな金色だか、黄金色だったのだろうが、ボロボロだな。


 ……で? こいつはなんで俺に声をかけたんだ?


「いきなり肩を掴んで、大声で騒ぐなよ。こっちはそんな事をされる覚えはないんだが?」


「うるせぇ! お前になくても、こっちにはあんだよ! 自演で噂なんか流しやがって!」


 まくし立てて喋り続ける男。

 うるさい事この上ないな。


「噂を俺が? なんでそんな無駄な事を俺がしなきゃいけないんだ?」


「ふざけんな! 武闘祭に始まり、『古びた石壁』での事も吹聴ふいちょうしてんだろうが! そうでなきゃ、『金の樹』の俺が一緒に居て話題に上がらねぇなんて可笑しいだろうが!」


「……そもそも、お前は誰だ? 『金の樹』? そんなパーティー、合同依頼に居たか……?」


「あ……? なに言ってんだ、お前……! この俺――ジェイドと顔を合わせただろうが! 忘れたってのか!?」


「……実際に忘れたようだな。だが……この状況を考えると、記憶に残さなくて正解だったようだな」


「な、なに言ってんだ……? 俺は若手筆頭のCランク冒険者、ジェイドだぞ……? 『金の樹』リーダーで――」


「知らないし、知りたくもない。俺が忘れたという事はそれらを加味しても『徒花あだばな』だったって事だ。それと、こっちはやましい事なんてしてない。それで納得するかしないかは好きにしろ。じゃぁな」


 はぁ、全く……ギルドで騒いでたのは、こいつだな。

 『金の樹』のジェイドねぇ……


 『古びた石壁』でろくでもない事態と思ったが、王都に戻っても碌でもない事が起きたな。

 笑えないな。


 ジェイドとやらを置き去りにして、再び歩く――


「このっ、ふざけんじゃねぇ!! 『アブラムシ』の寄生虫が!! てめぇでは力もねぇくせに、『六花』や開花者に引っ付くだけの無能者がっ!!!」


 後ろから大声で聞こえた罵声ばせいを無視して歩き続ける。


 あれがCランクかぁ……総合評価で曲がりなりにも上位ランクになったのなら、もう少し……

 いや、もう良い。忘れる事にしよう。


 才能開花の徒花に付き合い続ける意味はない。


 尚も通りで怒鳴り続ける男を置き去りに、クランへの道を静かに進み続けた。

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― 新着の感想 ―
ビッグスって、何だか妙にノーマくんだけに優しいよね。 ま、まさか……? ひょっとして……? ソッチ寄りのお人? そっかそっか。衆の道を極めし者だったのか〜! (*´ω`*) お、ダ…
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