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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
6章 実を付けぬ金樹(ざまぁ)

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64:大樹に成れなかった金の樹#

「ジェイドさん……流石にきびしいっす……今は、どうにかして逃げ――」


「なに弱気よわきになってんだ。丁度良いじゃないか! 俺達はダンジョン踏破を目指して『さえぎ緑葉りょくよう』に入った。そして今、チャンスが目の前に来たんだぞ!」


 ジェイドの目には、ボスエリアが天からのおぼししの様に思えてならなかった。


「ジェイド、ボスエリアに向かうのは賛成だ。我らが狙っていた、踏破が目の前の状況。みすみす逃す手はあるまい」


 ジェイドに少し思う所はありながらも、スィーセも賛同さんどうする。


「ちょ!? スィーセ、何言ってるっしょ!? 流石に、疲労ひろう物資ぶっしも厳しいっしょ!?」


「そうっす!」


 魔物による誘導ゆうどうを危険視したホーとサンフは反対の声を上げる。


「なら、お前らだけでダンジョンを帰れ。付いて来れない奴は勝手にすると良い。そうだろう、ジェイド?」


 その言葉に、ジェイドは少しの間、目を閉じ黙り込んだ後、口を開く。


「残念だが、仕方ない。付いて来られないというのなら、ここで別れるしかないだろう。俺達が踏破しても、お前たちの名前は記録されない事は覚悟しておけよ」


 ジェイドがそう言うと、ハルーはおずおずと手を上げる。


「ぼ、僕は魔力は、まだ残ってるから……ジェイドさんに、ついていくよ……ジェイドさんの役に、立つために」


「そうか! ハルーが一緒なら助かる。魔術師がいれば戦術が広がるからな! ……で? 二人はどうするんだ?」


 ハルーの言葉に声をはずませ喜んだジェイドだったが、ホーとサンフには冷たい声を向けた。


「……サンフ、行くしかねぇっしょ。今、バラバラになったら、それこそ……」


「っす……全員でまとまって行動するべきっすね」


 二人はお互いに小さくつぶやいて意思を確認しあう。

 危険な戦闘行為だと理解していても、2人で道を引き返す事もまた、危険である事を理解していたからだ。


「俺達も行くっす。ジェイドさんがいれば、ボスだって楽勝っす!」


 虚勢きょせいを張ったサンフの言葉に、ホーは辛いモノを見聞きした様に顔をそむける。


「そうか! 二人も来てくれるのか! これで『金の樹』として踏破が出来るな。安心しろ。俺が――いや、俺達がやれば、何も恐れるものはない。信じろ!」


 ジェイドは気付かず、先ほどまでの雰囲気ふんいきはなりを潜め、二人に嬉しそうな声をかけた。


 その言葉で、更に二人を不安にさせた事にも気付かず……


「ジェイドさん……ボスはエルダートレントっす。ボスエリアに大樹が一本。特徴的に間違いないっす……」


 木々がけるようにしげり、空間がぽっかりと広がった、空き地。

 不自然すぎるほどに静かな空間に、一本の大樹たいじゅそびえ立つ。


「さぁ、入るぞ! 俺達の栄光は、目の前の大樹によってもたらされる!」


「うむ! 我の美しさが王都に広まる為のいしずえになってもらう」


 意気揚々(いきようよう)と入っていくジェイドに続いて、スィーセも入る。


「う、うぅ……ホー、やるっすよ……」


「あぁ……無事に生還するっしょ……」


 サンフとホーはおっかなそうな、恐怖に飲まれそうな声音だった。


「ジェイドさんの為、ジェイドさんの為……ジェイドさんの……」


 ハルーはぶつぶつと呟いており、ボスエリアの恐怖は感じていなかった。


「やるぞ……ハルー、炎撃で様子を見ろ! スィーセ、前衛で注意を引け! ホー、俺のバックアップだ! サンフ、弱点を見つけろよ! 行くぞ!」


 ジェイドの声に、各々が動き始める。

 乗り気ではないサンフも、ホーも、今を耐えれば、今を乗り切れば、と恐怖心を押し込み、必死に行動を始めた。


 まだ動きの見えないエルダートレントを前に、サンフは警戒けいかいしながらも弱点――狙うべき場所を探す。


 ハルーは様子見で魔力をひかえめに練って放つ。


「や、焼き穿うがて! 炎撃!」


 炎の玉がエルダートレントのみきに向かって放たれた。

 そして、直撃すると爆発し、煙に包まれる。


 煙が晴れると、幹には傷一つ付いていなかった。枝葉も煤けていたが、燃えていない。


「ちっ! 様子見じゃ攻撃が入らねぇか! 仕方ねぇ! 俺の攻撃を食らいやがれっ!!  鏡花水月流きょうかすいげつりゅう鏡割かがみわり!!」


 ジェイドが身体強化を行って、体幹をぶれない様にし、魔力を通した大剣を振り回す。

 そのまま、遠心力を利用しての横なぎをする。


 ドスンッ!!、と音が響き、大樹が揺れ、葉が落ちる。


 だが、大剣は固い樹皮じゅひに阻まれ通っていなかった。


「ちぃっ!? どんだけの固さだ! くそっ!!!」


「我の一撃を受けてみろ!! 斬鬼ざんきまさかり!! はぁああっ!!」


 ジェイドの攻撃に合わせてスィーセもハルバートによる一撃を繰り出す。


 ハルバートが唸りを上げ、表皮を裂く。

 一瞬、エルダートレントの幹から木屑が舞い上がる。


 しかし、樹皮を削るのみで、やはりやいばが通らない。


「ぬぅうっ!!?」


「行くっしょ! 魔刃まじん!!」


 ホーが魔力を乗せたショートソードで力強く斬りかかった。


 キンッ!!、と音を立て、樹皮に容易く弾かれてしまう。


「……まずいっしょ。魔力を乗せたのに、弾かれただけっしょ……!」


 エルダートレントは、鬱陶うっとうしそうに前衛を払いのけようと、枝と根を振る。

 その緩慢かんまんな攻撃を、前衛は一度後退してやり過ごす。


 そのタイミングでハルーが声を上げる。


「ジェ、ジェイドさん! 魔力の準備できました! 撃てます!」


「サンフっ! どこを狙うべきだっ!?」


 ジェイドの声に、サンフは今までの攻撃をかんがみて、重い口を開く。


「……ジェイドさん、無理っす。ハルーの練った魔力でも、どこを狙っても通らな――」


「ハルー! 奴の幹と枝の付け根だ!! そこを狙って一気に燃やしてやれ!!」


 ジェイドはサンフの言葉を無視して、ハルーに指示を出してしまう。


「う、うん!! 燃え移れ烈火れっか! 火焔かえん連撃!」


 ハルーは練りに練った魔力で複数の火焔を産み出し、幹と枝の付け根を狙っていく。


 しかし、練りに練った魔力と魔術の炎は燃え広がらず、樹皮を焦がすだけに留まってしまう。


「う、嘘でしょ……ぼ、僕の魔術が……」


 多数の炎でエルダートレントが初めて、大きく枝を揺らし始める。

 そして枝と根が今までとは打って変わり、『金の樹』を串刺しにしようと勢いよく襲う。


「ジェイドさん! もう無理っす! どれも攻撃が通ってないっす! 撤退――」


「まだだぁあっ!! スィーセ!! 俺を守れ! 魔力を全力で練るっ!! はぁあああ!!!」


「うむ! 任せろ!! 金剛こんごう!!」


 スィーセが魔力で肉体とよろいを強化し、ジェイドの前に立ち、枝と根のやりを受け流す。


「ぬぅううっ!!」


 逸れた槍が鞭のようにしなり、後方に控えていたホーとハルーに向かう。


「うぐっ!?」


 なんとかハルーを守ろうと、ホーが小盾こだてで入るが、衝撃で飛ばされてしまう。


「げほっ……」


 無防備なまま、ハルーは腹と足にしなった枝と根を受け、うずくまってしまう。


「ハルー! ちくしょう……受けきれなかったっしょ!」


 ホーは少ない体力回復剤をハルーに手渡すと、再度ハルーの前で構えて守りに入る。


「ジェイド! まだか!? 我も、この数を受け続けていては、流石に持ちこたえられないぞ!」


 スィーセも必死に踏ん張り、吹き飛ばされないように魔力を流し続けていた。


「もう、少しだ……もう少し……良いぞっ! 行くぞ! 俺の、渾身の、一撃! 鏡花水月流、天昇宝樹てんしょうほうじゅ!!!」


 ジェイドの背後に魔力によって樹が投影され、密度の濃さで具現化される。

 枝に、葉に、果実に、根に。

 金、銀、瑠璃、と様々な宝のった、持ち主を攻守の面で支える樹。


 まばゆい光を放ちながら、財宝が身を守り、金と銀が巨大な槍の様に射出される。

 そして、エルダートレントの『槍』を相殺し、幹に刺さっていった。


「はぁ、はぁ……まだだ……これで終わりじゃねぇぞ!! はぁああっ!!! 鏡花水月流、月穿つきうがち!!」


 大剣にわせた魔力が、するどい波の様に凸凹でこぼこになり、前後に動く。

 ノコギリ状になった、大剣それで、エルダートレントを斬りつける。


 ギャギャギャギャッ、とすさまじい音がひびく。大剣は樹皮をけずり、じわじわと刃先はさきしずんでいく。


「やったか!? ジェイドっ!」


 スィーセはエルダートレントに攻撃が通った事実に、喜んで聞き返した。


 だが、ジェイドは何も答えない。


 今なお、ジェイドの天昇宝樹てんしょうほうじゅはエルダートレントの攻撃から己とメンバーを守る。周囲では枝と根のぶつかり合いが行われていた。


 大剣からも依然として音が鳴り響き、樹皮の先を目指そうと削り続けるが、刃は十センチ程の深さから進んでいなかった。


 何とか大剣を幹から抜き、メンバーの下に急いで下がる。

 そして、遂にジェイドの魔力が維持しきれずに切れてしまうと、答えを口に出した。


「む……無理だ……俺達に、こいつは……倒せない……」


 誰もが今更聞きたくなかった、情けない言葉だった。


 そして……

 エルダートレントが、削られた幹をゆっくりと枝ででた。

 次の瞬間──けた樹皮は、うねるようにうごめき、何事もなかったかのようにふさがった。


 その瞬間、『金の樹』を絶望が支配した。

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― 新着の感想 ―
魔法が効かないし、ジェイドの切り札でも倒せない。 これ、無理ゲーやん! なら、リセットボタンを「ポチッとな」しないとね! (´ε`) って、普通に大ピンチですよ。 ジェイド、どげんすると? どうする…
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