61:咲かせる者に嫉妬(しっと)して
その日、王都ではある話題で持ちきりだった。
「聞いたか……無能者がAランクの魔物を倒したって」
「ねぇ、聞いた? 希少種の人型を倒したの、無能者なんですって!」
「無開花者がCランクダンジョンで生きてるだけでも凄いってのに、一体全体どうやって……」
「それも、今まで寄生虫だなんだと馬鹿にされてた、『百花繚乱』のクラン長で――」
クラン合同による『古びた石壁』の踏破。
参加は王都二大クラン『月下の乙女』、『雄々しき月光』、そして若手中心の新進気鋭『百花繚乱』。
だが、話題は踏破の事よりも、ノーマばかりに着目される。
酒場――銀の杯でも同じ状況であった。
ダンジョン踏破の祝いに、しばらくはワイワイと気にせず、気分よく飲んでいた『金の樹』メンバーは、徐々に不満を募らせていった。
そして、遂に不満が爆発した。
「あぁああ! くそっ!! なんで俺ら『雄々しき月光』のパーティー、『金の樹』の話題が上がらない!」
『金の樹』リーダー、ジェイドの怒り声に、周りの客は迷惑そうに見やりながら、再び話題に戻っていく。
「そうっす! 俺ら、特にジェイドさんだってボスエリアの活躍が凄かったっす! 可笑しいっす!」
同席するホーが同調するように声を上げると、サンフも続けて声を上げる。
「その通りっしょ! 流石に、無能者ノーマばかりが話題なのは、陰謀っしょ! なぁ、ハルー! お前もそう思うっしょ!?」
サンフに声を掛けられ、挙動不審に反応するハルーも口を開く。
「へ、へへ、やっぱりそう思うよね。ぼ、僕もそう思うなぁ。じ、実際、無能者が居合わせただけで、倒したって確証……な、ないよね?」
「その通りだ。我やジェイドの様に、力ある者なら理解できる。だが、奴は盆暗だ。どうせ、後ろで踏ん反り返って戦った体で話を盛ったに違いない」
ハルーの言葉に頷きながら、スィーセも言った。
パーティーメンバーの言葉に、ジェイドは腕を組み目を閉じて、頷きながら聞き入る。
そして、しばらく神妙な顔をした後に、目と口を開いた。
「やはり可笑しいと思うか。これはきっと、奴による情報統制に違いない……頭は少し回るようだからな。そして、愚かな群衆はそれと気付かず踊らされ、話題性に乗っかってしまっているんだ!」
真面目な顔で言い切り、メンバーを眺めるジェイド。
大声で言い切ったジェイドの発言に、周囲の客の視線は、頭の可笑しい人を見る目に変わっていった。
だが、『金の樹』メンバーは気付かずに話を続ける。
「流石の読みっす! でも、このままじゃ良くないっす!」
「っしょ! この状況を変えるべきっしょ!」
「う、うん。こんな噂、あからさますぎるからね。ぼ、僕ですら気付けちゃうよ」
「うむ。美しい我と、リーダーのジェイドこそが注目されるべきだ。今の状況は不快でならない」
口々にジェイドへ同調し、ノーマへの嫉妬と憎悪が『金の樹』の中で肥大化していく。
そこでジェイドは現状打破の方法を閃き、告げる。
「この状況は、奴がCランクダンジョンの裏ボスを倒したからこそ、だ。それなら、俺達はBランクダンジョンに潜って、単独踏破しようじゃないか! 話題を塗り替えるんだ! あんな奴ができて、俺達に出来ないなんて事があるか!?」
その言葉を聞いたメンバーは、盛り上がり、力強く声を出す。
「ないっす! 俺ら、ジェイドさんこそ、若手筆頭! そして強者っす!」
「っしょ! 無能者の作られた話題よりも、実力を示して自然と噂されるっしょ! ジェイドさんと一緒ならできるっしょ!」
「ぼ、僕も、ジェイドさんとなら、輝ける……が、頑張るよ」
「ははは! そうだ! 美しい我。そこにジェイドが居れば……不可能など、ない!」
メンバーの言葉に気を良くして、ジェイドも更に声を張り上げる。
「そうだ! 俺についてこい! 不可能なんてない! 俺こそ若手筆頭Cランク冒険者、ジェイド・マニーツリーだ! 『金の樹』こそ、王都の黄金の栄光を背負う存在――その名が語られぬのは、世界が盲目なだけだ」
その声で店内の話し声を上書きし、ジェイドの高笑いだけが気分良さげに響き渡っていった。
彼らのテーブルを、他の客は冷めた目で見ている事には気付かずに……
酒を飲み干し、酔いによって、更に気の強くなった彼ら『金の樹』は立ち上がると、ドシドシと店を後にする。
そのままの足で冒険者ギルドへ向かい、依頼を眺めだす。
そして、あるダンジョンの踏破とボス素材回収の依頼票を見つけると、受付窓口に近付き……
力強く、バンッ、と出して言う。
「俺達『金の樹』は、単独でBランクダンジョン『陽を遮る緑葉』に挑む!」
窓口の受付嬢は慌てながら確認をする。
「あ、あの、こちらの踏破と素材回収依頼ですが、Bランクですよ! よ、よろしいのですか? 『金の樹』はCランクですが……」
「構わない! 俺達の実力、経験はCランクではない! あんな奴がAランクの魔物を倒せるというのであれば、俺達は単独で上のダンジョンを踏破できる!」
受付嬢は、あんな奴、が誰か分からないながらも、『金の樹』の意思を確認したと書類に記載し、説明を始める。
「それでは……今回の依頼について説明させて頂きますね。依頼主はギルド理事会の関係商会になります。その為、未達成の場合には――」
「未達成などありえない! 俺がいれば問題なく踏破し、依頼を達成できる! それと、明日からすぐに向かう。では、吉報を待っていてくれ! ははははは!」
ジェイドは受付嬢の言葉を遮ってそう言うと、身を翻す。
「ジェ、ジェイドさん!? 説明を、説明を聞かれた方がっ!!」
そのまま、メンバーと共にギルドを出ていってしまった。
「え、えぇ~……上位ランクの依頼票は未達成だと、相当重い処罰があるんですよぉ……」
受付嬢の言葉は、伝えるべき相手を失い、ギルドの騒がしさに消えていった。




