60:偉業と異形の男は、やっぱり仕事終わりにコーヒーを飲む
「はぁ……まだ手足の痺れた感覚が残ってるよ……」
ダンジョン踏破を『雄々しき月光』が無事に終わらせ、馬車に乗って王都に戻る途中。
手足の痺れに、つい愚痴が出てしまう。
その言葉を聞いて隣から声が上がる。
「ノーマくんが無茶をしたのが悪いんです。アタシ達が間に合わなかったらどうするつもりだったんですか!」
帰りは『陽光注ぐ草原』と一緒の馬車に乗っている事もあって、俺の愚痴にサニアがぷんぷんと怒りだす。
しまった……散々、ダンジョンでも言われて落ち着いたと思ったのに……
小言が再燃してしまった……
「は、ははは……ま、まぁ、生き残るつもりではあったし、お前らなら絶対に来てくれるって思ってたからさ……」
「でも、間に合わなかったらどうするつもりだったんですか! もう少し石化の時間が長ければ、アニサの治癒術でも――」
「わ、悪かったって! は、はは、ははは……はぁ……」
サニアのお叱りを遮って言い、馬車の外を見る。
すると、アニサが静かに話しかけてきた。
「ノーマさん。サニア姉さんは感情的になってますけど、事実ですよ。死なないとしても手足に障害が残っても可笑しくなかったんです。しっかりと反省してくださいね」
うぐっ……アニサに冷静に言われると、流石に申し訳ない気持ちがぶり返してくるな……
「二人も……凄い心配していたんですよ。当然、私達も。クラン長としての責務も分かりますが、もう少し自分を大事にしてください」
アニサは馬車の奥で疲れてぐっすりと眠る、アルメリアとフリュウを優しい眼差しで見つめて言う。
「そうだよ! ノーマくんはもっと自分を大事にするべきだよ!」
アニサの言葉にサニアが同意すると、ルーイとキューイが笑いだす。
「にしし、ノーマちゃんのこれは、生き方だから無理だろうなー。きっと変わらないなー」
「にゃー。このままだと思うにゃー。そんでまたサニアやアニサに怒られるにゃー」
散々な言葉を投げかけられた。
二人とも、もう少しまともな援護射撃をしてくれても良いんだぞ?
そんな火に油を注ぐ様な言葉じゃなくてな。
そのまま、俺のどこが悪い、どこが良いと批評大会が始まる。
普段はクラン員を批評する側の俺が延々と批評される側に回るという、貴重な一幕を経験しながら王都へと向かっていった。
王都へ到着すると、エリアベートが笑顔を張り付けて近付いて来た。
「ノーマ、今回は色々と災難だったけれど、改めて、Åランク討伐おめでとうと言っておくわね。メデューサの討伐証明は、発起人の私から提出して伝えておくわ。今回の件で後日呼び出しはあるかも知れないけど、今日はしっかりと休んで。それじゃぁ、またね」
優雅に話すと、颯爽と去っていく。
「がっはっは! ノーマ、今回は楽しかった! だが、俺も戦ってみたかった! 希少種は、いつダンジョンで復活するかも不確かだからな! 羨ましい限りだぜ! またいつかな!」
快活にそう告げてくるグリズリー。
そうは言うがな。俺は正直、もう出会いたくない。
あんな、生きるか死ぬかの石像一歩手前なんて、武勇伝の前にトラウマさ。
まぁ、こいつなら笑いながら魔力量でぶち破りそうなイメージがあるがな。
「ははは……まぁ、グリズリーならそうだよな……俺はもう遠慮願いたいよ。お疲れ様」
そう言う俺の肩をバンバンと叩いて満足したのか、ドシドシと歩いて行った。
さぁて、俺もクランに戻るとしますか……
疲れてはいるが、クラン長室で今回の一件とその間の書類仕事をまとめるとしますかね……
クラン員にクランへ先に戻る事を告げて『百花繚乱』クランへと向かった。
建物の扉を開け、やっと帰ってきた実感を覚える。
今回も大変だったな。
ここの所、クランの外での事に顔を出しすぎた気がする。
少しは休みを入れても罰は当たらないだろう……
近い内にまとまった休日を入れる事を決意して、クラン長室を目指し階段を上がる。
「ノーマさん、お帰りなさい。C級ダンジョンの踏破と言う事でしたが、無事に戻られて安心しました」
ローズがクラン長室前の区画で俺に気付き、声をかけてくる。
はは、無事、だったかは分からないけれど、戻って来られたさ。
まぁ、詳しくは後で言えば良いよな。
取り合えずは、まずはコーヒーを入れて一息つきたい。
「ただいま、ローズ。まぁ、何とも言えないけど、五体満足で帰還できたし無事だね。後で報告書にまとめて提出するよ。少しの間、クラン長室で一息ついて、溜まってる書類を片づけるつもりだから、後で持ってきてよ」
そう言ってクラン長室の扉を開け、中へ入る。
ふぅ……
さぁて、コーヒーでも挽いて飲みますかね……
部屋の隅にあるコーヒー専用の場所で、ゴリッゴリッ、とコーヒー豆を挽いていく。
しばらく、挽いている時の振動、挽きたてのほわぁっとした安らぐ香りを楽しむ。
この時間だよ、この時間……こういうので良いんだよ、こういうので……
癒しの時間とは、一人で静かな空間に、厳かで、心安らぐ香りとともに豊かな――
「おっかえりー! ノーマ君! 次こそはアタシ達と一緒だかんねー!」
「ノーマ! 帰ってきたならオレ達に顔見せろっての! 皆で訓練場にいたんだぞ! んで、『開花』でどこのダンジョン行くんだ?」
「ノー兄、そろそろ私達とも一緒にダンジョン行きましょう」
「ノーマさんが一緒に来るのであれば、ワタシがしっかりと護衛を致しますよ」
「あはは、お兄さん、お帰りなさい! 数日間、あたし達と会えなかったけど、寂しくなかったですかぁ~?」
「よ、良かったぁ……お兄さん居なくて、心配で、寂しくて……」
一気に騒がしくなったクラン長室。
それを横目に……
俺は何も言わず、静かにコーヒーを挽き続けた。
そして、しばらくして幼馴染達からの怒りの声によって、癒しの時間はいつもの仲良し7人組――『開花』の集まりへと変わっていった。
ダンジョンで恋しく思っていた事に、気恥ずかしさを感じながら、この空気で一気に疲れは吹き飛ぶ。
あぁ、また皆と無事に会えた……
彼女達の様々な感情混じった顔を見ながら、顔を緩めて告げる。
「ただいま。俺の花――『開花』、俺の花園――『百花繚乱』」
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