59:石像になりかけた男を眺める者たち
アルメリアは可愛らしい少女の声を雄々しく上げながら、メデューサの首へ斬りかかろうと前へ進み続ける。
「やぁああああっ!!」
メデューサは片目をノーマの剣で突き刺され、悲鳴の声を上げている為にアルメリアへ意識が向いていない。
そして、フリュウの凍結によって、その場から動いて逃げる事も出来なかった。
「はぁあああああっ!!!」
メデューサの首へ向けて、アルメリアの剣が動いていく。
その剣に渾身の魔力量を乗せて、薙ぎ払う。
シャンッ、と音が響く。
切れ味の増した剣がメデューサの首を抵抗なく通り過ぎたため、澄んだような音を出した。
「はぁ、はぁ……」
アルメリアは荒い呼吸を吐き出しながら、己で放った斬撃に放心するように、剣を振り終えた姿勢で立ち尽くす。
メデューサの首が支えを失い落ちていく。
遅れて首から下も力を失い、膝から崩れ落ちていく。
その様子を見て、ようやく体の緊張が解けたのか、アルメリアは剣を鞘に戻し、ノーマに声をかけようとした。
「ノーマ! やったよ! ……ノー、マ?」
アルメリアは喜んではしゃいだ声から一転、ノーマの姿を見て不安そうに言葉が途切れる。
「え……ノーマ? ねぇ!? ノーマ!!?」
「ア、アルメリアちゃん! 落ち着いて!」
「なんで!? フリュウ!? 氷で! どうして!?」
気が動転しているために、言葉が上手く出てこないアルメリアにフリュウが静かに告げる。
「も、元からノーマさんは理解して……メデューサの注意を引き付けてたと思う……多分、剣に氷をまとわせたのも気休め程度だったはず……」
「なんで止めてくれなかったの!?」
「わ、私達が二人で生き残る方法が他になかったからだよ! 私だって! 石化していくノーマさんを横から見たくなんてなかった!! でも……私達を無傷で送り出すにはって……ノーマさんは死ぬかもしれない可能性に無謀でも賭けたの!」
アルメリアの無神経に聞こえる声に、フリュウも耐え切れず、泣き出すようにして声を荒げる。
その様を見て、アルメリアは口から更に出そうになっていた言葉が止まる。
言葉を失い、口を開いたまま固まったアルメリアへフリュウが告げる。
「こ、このまま、ここに居たらダメだよ……先に進んで、『百花繚乱』に合流するか、他クランに助けを求めないと……」
石化が大分進行したままのノーマを置いていく決断を迫られ、言葉が出せないアルメリアにフリュウが更に告げる。
「アルメリアちゃん! このままじゃノーマさん、本当に死んじゃうの! 早く行かないとダメ! 私達も助からない可能性が高くなっちゃう!」
フリュウは考え続けていた。
(『踏みしめる大地』と『陽光注ぐ草原』は罠にはまった事を知っているが、他クランは知らない……急がないと、もしかするとダンジョンを出ちゃうかも! 治癒術師が他クランに居るかは分からないけど、少なくともノーマさんを運ぶ手助けはしてもらえる、はず……)
「アルメリアちゃん! ノーマさんは置いていくよ! 今は一刻を争うの!」
そう言って歩き出したフリュウ。
アルメリアはもう一度、手足が石化し目を閉じたノーマへ振り返り、悲痛な顔でフリュウの後ろを付いていった。
………………
石化したノーマ以外、誰も居なくなった闘技場で上から見下ろす3人の女性。
フード姿の女性――ゲツエイがノーマの姿を見ながら、エリアベートに話しかける。
「よろしいのですか?」
「ん~? なにが?」
ノーマの半分石像紛いの姿を眺めながら、楽しそうに言うエリアベート。
「あのまま放置しておいて、と言う事です」
「えぇ、平気よ。だって彼のクラン員は、もうすぐここに来るわ。可愛い女の子が治癒術師だから、助かるわよ」
「そうですか。それなら彼にはそのまま石化していてもらいましょう」
ゲツエイが頷きながら言った後に、頭巾で目から下を覆った女性――サクヤも声を出す。
「しかし、エリアベート様も悪い御人。分岐路でノーマさんが直進以外、どちらを選んでも覗き見できるようにするなんて。事前に上位ランク団員で、隅々まで踏破していたダンジョンを選んだ理由は、この為ですか」
「ふふっ、だって折角の合同迷宮探索よ? 楽しまなきゃ勿体ないじゃない。ノーマが参加しなかったら、本当に未踏破ダンジョンとして選ぶつもりだった訳だもの? そうなっても『月下の乙女』の訓練になるし、損はしないし」
そう言った後にエリアベートは少し前の事を思い出し笑い出す。
「うふふっ、彼ったら私の顔色を見て、グリズリーに道を変えさせたのよ? まさか、この為に直進したかったなんて知ったら、怒りだしそうね。あはははは」
エリアベートの笑い声が貴賓席に響く。
だが、その笑い声は闘技場には届かない。
「でも良かったのですか? 『月下の乙女』で秘匿していた裏ダンジョンが露呈してしまいますけれど」
「えぇ、もう十分にここで訓練させてもらったでしょう? それに、これ以上の秘匿はどうせ厳しかったわ。Cランクダンジョンの割に、冒険者の未帰還者が多かったもの。ギルドもそろそろ気付いたでしょうね」
3人が朗らかに話し合っていると、闘技場に複数の声が聞こえ始める。
『百花繚乱』のクラン員達がノーマの下に駆け寄っていく姿だった。
「さぁ、私達も撤収の時間のようね。ゆっくり、のんびりと帰りましょうか」
そういうと3人は貴賓席から立つと、薄暗い通路へ歩いていき、消えていった。
………………




