58:MK5(マジで固まる5秒前)②#
「さぁ、行動の時だ! 行くぞ、アルメリア、フリュウ!」
俺の威勢の良い声で二人を鼓舞しろ。
ここから先は、生きるか死ぬかだ!
「うん!」
「は、はい! ノーマさん! せり上がり隆起しろ、土壁! 透き通る氷膜、氷壁!」
メデューサの周囲に土壁と氷壁が徐々に産まれ、八角形を形成していく。
それに合わせて俺達は動く。
動きながら考えるのは、Aランク相当の魔物との遭遇という、碌でもない中の、不幸中の幸いについて。
アルメリアとフリュウだけなら石化していただろうし、俺だけでも石化していた不運を免れた。
そして、幸運はメデューサの頑丈さがCランク相当だと言う事だ。
これなら問題なく二人の攻撃は通るし、俺も部分的になら通せる。
メデューサの目線は、遂に貴賓席側から外れる。
それでも氷壁には向けられておらず、氷壁の隙間をぐるぐると見ているようだ。
氷壁には意図的に焦点を合わせていないようだな……流石に、自分を映すモノは避けるか。
それが分かっただけでも御の字だっ……!
「アァアアアッ!!!」
メデューサの悲鳴のような声が響く。
パリンッ、と割れる音が続いて鳴る。
メデューサの呻き声で石化付与魔術が行使され、次々と氷壁が崩される。
そのまま、後ろの土壁は覆うように徐々に石に変えられ、髪の蛇も辺りを視認しながら忙しなく動き続けている。
割れる度にフリュウも氷壁を産み出し、メデューサの意識を俺達から逸らしてくれる。
「フリュウ、頼むぞ……アルメリア、まだか……」
思わず焦りそうになり、口からこぼれる。
だが、二人は十分によくやっている……
氷壁に気を取られている内に、俺が移動する方が早いか。
彼女の位置と反対になるように動いていく。
アルメリアとフリュウ、そして俺の位置を合わせ、メデューサを三角の中心になるようにする。
後は、タイミングだ……
口の中に魔力回復剤を多めに含み、準備をする。
即効性はなくても、微々(びび)たるものでも……魔力回復剤を行う価値はある。
氷壁を狙ったタイミングで意識が外れれば……
何度もフリュウに負担をかけているが、焦らずにその時を待った。
メデューサが、新たに産み出された氷壁を狙って魔術を放つ。
蛇も俺とアルメリア以外に向いたっ!!
今だっ!!
身体強化を全力で施し、そのまま一気に土壁の後ろから飛び出て行く。
凍った剣の腹を反射するであろう位置で掲げて、走り続ける。
己を捨て駒として。
「アルメリアあぁあああっ!!! フリュウうぅうううっ!!! 行けえぇえええっ!!!」
二人に、メデューサに、声を出して飛び出る。メデューサは俺を見ている。
見られているだけで重みを感じる。
コカトリスなんて比にならない様な魔力の質だ。メデューサに石化される経験なんて、中々味わえないぞ?
魔力量の差が効果がでる時間なら、俺の制限時間は少ない。
ははは、無事に生存出来たら、俺の武勇伝に加わるな。
足が重くなる。
手が重くなる。
体の末端から、重く……なる……
それでも今だけ! 今だけ動けば良い!
魔力を流せ! 無理にでも、流せ!!
体の石化で負荷がかかり、魔力欠乏になりそうになるところで、魔力回復剤をかみ砕き飲み込む。
薬剤の乱用はその後に副作用が出る可能性が高い。
だがっ!! 内部が石化する前に――
「届ぇええええっ!!!」
更に一歩。その先に、至るために。
生き残る事を、夢を――諦めたくねぇんだっ!
剣に魔力を乗せ、先に進む。
フリュウがメデューサの足を凍結させる。
メデューサの目に、剣を伸ばす。
「アァアアアア!!?」
メデューサの声で飛ばされた魔術によって、傷を負いながら、石化していく。
肘の先まで石化し始め、固定化された。
だが、もう突き立てるだけだ。
膝が石化し始め、固定化された。
だが、もう勢いに任せ、倒れこむように、メデューサの目に突き刺すだけだ。
身体強化に回した魔力を剣先――刺突に乗せる。
石化した手と腕には感触が伝わらないながらも、メデューサの目から血が流れる。
悲鳴を上げ、痛がる素振りを見せ、髪――蛇を振り乱す。
『窮鼠猫を嚙む』って言葉、知ってるかぁ!?
知る訳ねぇよなぁ!? 魔物だからなぁ!
今みてぇな状況だ!
視線が外れ、石化の進行は止まる。
だが俺の体は動かせなくなり、音も聞こえなくなった。
体の中心部までは石化しなかったが、進行しすぎた様だ。
これは……治癒術師が来てくれるか、運んでもらわないと、いけないな……
出来なきゃ、石が定着して、手足の内部が戻らなくなる。
そんな中でも、目からの情報で思考し続けていると、遂に二の剣――アルメリアが勢い良く近付き、メデューサの首に斬りかかった。
そして……
メデューサの首は、綺麗に狩り取られ、頭が宙を舞った。
身体強化し続けていた目で、頭を追っていく。
メデューサの顔が鮮明に見え、改めてAランク相当の討伐を成し遂げた事を実感する。
『石化の魔眼』には、二度と会いたくねぇな。
こんな速度で石化しちまったら、トラウマ物だぜ……まったく……
ん……? 今、何か……見間違いか?
宙を飛ぶメデューサの頭の先――貴賓席近くに何かが見えた気がした。
そう見えただけのようにも感じる、小さな違和感。
だが、もう一度確認しても何もありはしなかった。
はぁ、魔力の使い過ぎと石化による疲労感か……?
手足はもろに石化してるし、仕方ねぇか……
もう俺の魔力もすっからかん、強化も切れる……
そうごちながら、改めて地面へ落ちていく討伐の証を確認し終え、俺は石化と魔力欠乏による疲れと辛さで目を閉じる。
二人には少しばかりの罪悪感を覚えながらも、音もしない暗い底へと俺は沈んでいった。




