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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
5章 気まぐれな花は見る者を翻弄する

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56:落ちた先は大抵、碌(ろく)でも無い事ばかり

 俺達は暗い通路を歩き続けていた。

 この先に出口があるのだと信じて……


 一本道を道なりに進み、何度か左右に方向転換していくと……奥から光がれてきていた。


「ん……? あの奥の突き当りから光が漏れているな。そろそろ地下通路も終わりか……? 警戒けいかいしながら進むぞ」


「うん……慎重しんちょうに、だね……」


「は、はい」


 二人の返事を確認し、明るい光が差し込む通路へ近付く。

 角からのぞき見れば、通路の奥は開けた場所――空間があるようだ。


 もし、運が良ければ出口へつながる通路――階段へそのまま行けるかもしれない。

 だが、ダンジョン地下に落とされた事を考えれば、この開けた先には……


「ノーマ?」


 アルメリアが心配そうに俺の顔を見ていた。


 上位の魔物が出る可能性を考えたら、こいつらだけでも先に逃がしてやる必要がある……

 だが、ここまで一本道で迂回路うかいろもない。


 もしも、あの空間に仕掛しかわながあった場合は、閉じ込められての強制戦闘。

 倒せる魔物であれば、3人で連携して戦うのが無難ぶなんだが……


 無理な場合は、罠の解除の時間をかせぐ必要がある。

 おとり役――俺が引き付けて逃がすしかないな。


「二人とも、あの場所に行ったら俺の指示にしっかりと従え。大抵、ダンジョンの罠で落ちた場所や移動した先には、ろくでも無い事が待っているからな。まぁ、冒険者の登録時に軽くは説明受けて知っているだろうが、ここはCランクダンジョンだからな。本当に碌でも無いだろうが、切り抜けるぞ」


「「う、うぅう……」」


 二人ともうめくようにしか言葉が出ていない。


 まぁ、事実だからな。今から覚悟を決めるしか無い。

 その為にも、安全な位置でずは休憩きゅうけいだな。


 さいわい、ポーチのたぐいは各々(おのおの)で軽く持っているからな。二人とも飲食と体力・魔力回復剤でも服用ふくようすれば、満足に動けるだろう。


「少し、ここで休憩を取るぞ。その間に減っている体力と気力を回復させとけ。そして覚悟も決めておくんだぞ」


「「は、はい!」」


 俺は二人から少し離れた位置であぐらをかいて座る。


 呼吸をととのえ目を閉じて………体の隅々(すみずみ)にまで魔力をわせ、動かしていく。


 ふぅ……こりゃぁ、ダンジョンを無事に脱出したら休養きゅうようが必要だな。

 魔力の流れに違和感いわかんを感じる位置が首、肩、腰。足も大分痛みを感じて来ている。年老としおいて関節痛かんせつつうに悩まされているじいさんみたいな気分だ。ははは。


 ははは……


 体力・魔力回復剤を口にふくみながら、この先に出るだろう魔物を予想していく。


 可能性があるとすれば、ボスエリアで予想したバジリスクか?

 バジリスクの亜種あしゅかもしれない。


 それか最悪の想定、碌でも無い事態であれば……Bランク相当の魔物。

 ここが罠に落ちた先にあると噂される、裏ボスエリアならあり得る。


 そうなってしまえば……さっき考えたように、囮役として時間を稼いでやろう……


 そこまで考え終わると、少しだけ目をつむり、調子を整えにかかる。


 俺の意識は、自己の精神に深くしずみはじめ、周囲の事から隔絶かくぜつされてい――


 ……ん?

 …………なんだ? 俺の体に魔力……?


 体に魔力が走る感覚に、始めて5分ほどの瞑想めいそうをやめ、目を開ける。


 俺の横にフリュウが女の子座りをしながら、俺の肩の辺りに自身の手を近付け、魔力を送っていた。


 魔力によって自然治癒しぜんちゆうながす効果はあるが、治癒術ちゆじゅつと異なり根本的こんぽんてき治療にはならない。辞めさせておかないとな。


「フリュウ、魔力が勿体もったいないぞ。俺に使わずに取っておけ」


「い、今、一番可能性があるのは、ノーマさんが少しでも万全な状態で戦闘をする事だと思います……この先以降も私達だけでは切り抜けられるかは、分からないですし」


 二人だけで脱出だっしゅつ……確かに何とも言えないな。

 道中どうちゅうの魔物が1体であれば、時間はかかるができるはず。2体、3体だったら……逃げきれれば、だろうな。


 だが、フリュウは治癒術士ちゆじゅつしではない。気持ちは嬉しいが、しっかりと伝えるしかないな。


「フリュウ、これ以上は治癒術でないと無理だ。君の魔力だけで治る状態ではないし、応急処置おうきゅうしょち以上の効果はないから止めるんだ。それと、もうそろそろしたら、動く。今使った分の魔力は問題ないか?」


「……はい。さっきの魔力量であれば、自然回復で問題ないです。魔術の行使ではないですから……」


 俺の言葉に悔しそうな顔を浮かべる。

 まぁ、突き放すようで気分は良くないが、魔力の無駄むだは少ない方が良い。


 あの空間で何が待ち受けるか分からない以上、な。


 そうしてしばらくの間、体を休め……

 アルメリアも仮眠から起きたようだ。


 全員、体を起こし、ストレッチをする。

 体を休め、気を引き締め、万全に動けるように……


「行くぞ。何があっても慌てるな。まずい状況の時は俺が言った通りに行動しろ。良いな?」


「「はい!」」


 奥の通路へ歩き出す。

 開けた空間は闘技場のようであり、部分的に貴賓席きひんせきのような場所ももうけられていた。


「なんだろう……闘技場? 誰も、なにも居ないけど……」


 後ろのアルメリアが不思議ふしぎそうな声音で言う。


「恐らく、この通路は挑戦者用の通路なんだろうな。舞台に一歩入れば、ダンジョンの仕掛けが発動するはずだ。行くぞ?」


「「はい!」」


 一歩踏み出し、闘技場へ。

 前方にも似た形状の通路が見える。多分、あそこから外に出られるのだろう。


 このまま何事も起きないでくれたら、良いんだけどなぁ……


 3人が通路を抜け、場内――舞台に向かうと……

 ゴゴゴッ、と音が響きだす。


 その音と同時に、前後にある通路には落下の罠を踏んだ時と同じように、壁があらわれてふうじ込められた。


「通路がっ……!」


「アルメリア、慌てるんじゃないぞ。ここから本命ほんめいの何かが来るはずだからな」


 さぁ、何が出る……

 この道はじゃの道か、おにの道か。それとも、くまってか?


 この闘技場トラップは観客など誰も居ないにもかかわらず、演出にっているようだ。


 舞台中央の床がスライドした。

 ズズズッ、と重低音じゅうていおんが響きながら振動を感じる。


 来るか。何が出てくる? バジリスクか? それとも、もうちょい厄介やっかいなところでカトブレパスか?


 目へ身体強化をほどこし、何かがゆっくりと送り出されているだろう床をじっと見る。


 魔物の頭頂部とうちょうぶと毛が見え――へび!? まずいっ!!?


 急いで後ろを向き、二人の前で体を広げ、視界をふさぐ。


「二人とも、決して目を見るな!! Aランク相当、メデューサだ!! フリュウ、壁を作れ!!」


「は、は、はい!! せ、せり上がり隆起りゅうきしろ! 土壁!」


 俺の言葉にフリュウは平常心へいじょうしんでは無いながらも、しっかりと土魔術を行使して壁を作り出す。


「な、何が、居たの……ノーマ……?」


「う、うんうん。私も分かりませんでした……そんなに、危険なのですか?」


 二人は流石に気付けなかったようだな。


「あぁ……あいつは、『石化の魔眼まがん』だけでAランク入りしている、希少きしょうでとても厄介やっかいな化け物だ……その上、はなたれる魔術にも石化だ……Cランクダンジョンにいるとは、な」


 まずい……ここは裏ボスエリアと見て良いだろう。

 裏ボスへのアクセスが、罠と分かった上で踏み、落下からも生き残らなければ到達とうたつできない。

 だからこそ、今まで未踏破とは言え、冒険者達から報告がされなかったのだろう。


 いや、もしかすると……考えたくもないが――


 ゴゴンッ!!


 辺りに音が響き、続いて闘技場全体が揺れているような大きな振動がおそう。


 あぁ、考えたくなかった事態が、目の前に広がってやがる……

 くそ、そりゃぁ、そうだよなぁ。

 ランク詐欺もここまでくれば、なぁっ……! くそっ、どうしてこうもろくでも無いんだ!


 観客席には、先ほどまでは無かったモノが現れている。


 それは……

 これまでメデューサに敗北した多数の冒険者――犠牲者ぎせいしゃ石像せきぞうだった。

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― 新着の感想 ―
メデューサはかなりの強敵なんですね。 裏ボスな感じだし、今の三人だと心許ないなぁ〜。 (´ε`) 援軍を信じて待つ展開か? それともノーマくんが、金髪のスーパーノーマくん3に覚醒して眉毛すらなくなっ…
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