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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
5章 気まぐれな花は見る者を翻弄する

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53:『古びた石壁』での戦闘経験#

 食事休憩後に俺らクラン長は顔を突き合わせて話し合いを始め、さっくりと決めていった。


 前衛は『百花繚乱ライオットオブカラー』――俺たちが初めの数戦を担当し、批評レビューを見せる。

 他パーティーは各クラン長が率いながら、後ろでその様子を見て、自分たちの改善点等を確認していく。

 『百花繚乱』が数戦後、各クランで別れダンジョン踏破を開始。この時にクラン長はクラン員の安全を確保しながら、基本後ろから攻略時のアドバイスを適時していく。


 こんな感じで決定して、その日は就寝しゅうしんし、翌日。


 ダンジョンの為の道具を再確認し終わり、グレイとサニアに声をかける。


「おはよう、グレイ、サニア。緊張はしていないか?」


「あぁ、問題はねぇ。ぐっすり休ませてもらってるしな。それにCランクダンジョンで石化系。ある程度、成長していれば問題ねぇはずだ。連携に意識を向けて無茶はしねぇよ」


 真面目な顔でしっかりと改善点を自分なりに言うグレイ。


「こっちも、問題なーし! アルメリアちゃんとフリュウちゃんも問題なさげだよ!」


 元気よく、これからのダンジョン踏破が楽しみな感じで答えるサニア。


「今回はクラン長が居ながらの比較的安全なダンジョン踏破だ。だが、途中からどうしても2パーティーでの行動ができなくなる場面もあるだろう。その時に俺は『陽光注ぐ草原』に付いていく。アルメリアとフリュウが居るからな。グレイ、不測の事態にはしっかりと落ち着いてくれ」


「分かってる。俺らの心配はしなくて良い。ローリーの動きを補佐しながら行けば、不測ふそくの事態も十分に対処たいしょできるはずだからな」


「そうだな。しかし、ダンジョンに入る前から決められているなんてな。あのグレイが……うんうん……」


「シミジミすんじゃねぇよ……これくらい、前からやってるっての……」


 しばらく俺はクラン員と会話して待機していると、各クランも準備が終わったようだ。


 待機する俺らの前にエリアベートが出てくると開始の宣言をする。


「それでは、安全なダンジョン踏破――ピクニックを始めましょうか」


 ダンジョン『古びた石壁』の入り口を潜り、中へ入っていく。

 そこから先、俺たち冒険者は迅速に行動していく。


 そして、俺は一戦一戦の批評を都度つど行っていく事にてっする為、意思を強く持つ。

 どんな行動でも、こいつらの為になるのであれば、やらなくてはいけない。


 歩いた先の突き当りで魔物を見つける。


 グレイも横から、ニワトリとヘビの尻尾を持つ魔物――コカトリスが通路の先にいる事を確認し、小さく声を上げて知らせる。


「この先にコカトリス2体だ。俺たちが1体、サニアたちが1体で行くぞ」


「は~い」


「アルメリア、フリュウ。コカトリスの戦闘時は頭頂部の鶏冠とさかに目が行くようにしておけ。初めの内に目の付近を見ていると、徐々に石化をかけられるぞ」


 俺の言葉に頷き、ごくっと喉を鳴らす二人。

 一応、安心させてやるか。


「石化と言っても即座そくざにじゃない。だが、長く見続け、動きが阻害そがいされる結果につながる初心者は多い。それと石化をかけられている時は微妙に体の動きが悪い。その感覚があったら、一度、軽く魔力を体にわせろ。大抵たいていは、それで魔力効果を洗い流してくれる。部分石化になった場合は……いや、見せるのが早いか」


「え……? 見せる?」


 アルメリアが不思議そうに首をかしげる。フリュウは気付いたようだな。


「グレイ、サニア。良いか?」


 俺の言葉に、待機していたグレイとサニアが頷いたのを確認し、通りに出る。


 コカトリス2体が俺に気付き、目を向ける。俺もコカトリスに目線を合わせる。

 その瞬間に倦怠感けんたいかんに似た物がおそう。


 はぁ、この石化の感覚はなれねぇなぁ……じわじわと体が重くなっていく感覚。

 そして気付けば、体の末端まったんである手足に魔力が付着する感覚とともに、石化していく。


 魔力が少ないと、やっぱり早いか……手首まで行っちまったな。

 久々で調整を少しミスったが、これならまだ、俺だけの魔力でも崩せる。


「アルメリア、フリュウ。魔力の流れを見ておけ! グレイ、サニア、俺を守れ!」


「「は、はい!」」


「おうよ! お前ら行くぞ!」


「分かった、ノーマくん! アルメリアちゃんとフリュウちゃんはノーマくんを見てて!」


 2パーティーが戦闘を開始する。これでカバーは問題ないな。

 俺は安心して石化を対処できる。


 魔力をろ。末端に強固きょうこに回せ。少ない魔力で石化した表層ひょうそうくだけ。今は、コカトリスの目は見ていないから石化も止まっている。

 だが、戦闘中に無防備むぼうびさらし続ける危険性きけんせいはかり知れない。


 手足に魔力を集め、回転させろ。けずる為に……コカトリスの魔力と、俺の手足の間を……


 次第に手足の表面がひび割れ、くずれていく。


 もう、動けるな。魔力は必要ない。


 手足を確認するように動かし、パラパラと崩す。石化の魔力痕跡まりょくこんせきを振りはらう。


「見ていたな、アルメリア、フリュウ。俺は少ない魔力だから丁寧ていねいにやっているが、お前らなら魔力を石化した部分と皮膚ひふの間に少し多めに流し込めば良いはずだ。余程よほど、強力でない限りは石化も崩れる。ここで見ているから、やってみろ」


「う、うん!」


「は……はい!」


 二人は戦闘をしているグレイ達を他所よそに、後方からコカトリスの目を見る。


 魔力の流れ的に、石化が進んでいるが……大分遅いな。

 こいつらが石化する前にコカトリスが倒されちまうか。


「アルメリア、フリュウ。ある程度の感覚が掴めたら魔力を流せ。石化が大分遅いからな。大抵たいていは微妙な感覚を覚えても、お前らなら防げちまうだろうさ」


 そう言うと後ろを向き声をかける。


「すみませんね。待たせてしまって」


「いや、良い。しかしノーマ、お前は普段からあんな無茶な事を実践じっせんしているのか? 無能者でコカトリスなんて見たら、下手すりゃ――」


 グリズリーは目を見開きながら問いかける。


 言いたい事は分かっているさ。石化すれば、俺の場合は表面だけで済まないっていうんだろ?

 流石に無茶と無謀むぼうき違えないようにはしているさ。


「流石に安全を確保している状況、かつ、ある程度までしか無茶はしませんって。あのまま見続けていたら内部まで石化していても可笑おかしくないですしね」


 俺の言葉に口を開き、驚いた顔をしたグリズリーだったが、途端とたんに笑い出す。


「なっはっは! 大分、お前の言う無茶は、一般的な無能者の無茶と違うようだな! おもしれぇ訓練方法だ! 度胸試どきょうだめしにでも使えそうだな!」


 あほ! 度胸試しでやったら冒険者なんて、全身の表層が石化する奴が出ても、可笑しくないだろうが!

 そんな事にコカトリスを利用なんてするなよな!?


「度胸試しはやめておいた方が良いだろ……まぁ、才能持ちの冒険者であれば、こんな簡単に石化しないだろうし、もっと安全だとは思うけどな。今回は魔力の流れを見せるための必要な工程こうていさ」


「ふふっ、ノーマが飛び出るから何かと思えば。エキセントリックな訓練指導ね」


「石化の実体験、恐怖への対応。これらが冒険者にとって大事ですから。最悪、表層が石化したら、周りの冒険者に魔力を流してもらうしかないですけどね。こればかりは……やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ってね」


 しかし、俺自身の欠点がもろに出たな。


 加齢かれいによる魔力量の成長――加齢成長かれいせいちょう。魔物やダンジョンによる魔素の吸収と魔力行使による練度上昇での成長――精錬成長せいれんせいちょう

 この二つがほぼ止まっているのは3年前にも思ったが……伸びしろは、もうないのかねぇ……


 まったく、小手先こてさきばかり上手くなっちまうぜ。


 そんな事を考えている間に、コカトリス2体は無事に討伐とうばつされた。


「それでは、更に先に進みましょう。出来れば別種べっしゅのモンスターが出てくれると嬉しいけどな」


 そう言って先を進む。


 進んでいく中で、ダンジョンの途中途中、様々な魔物と遭遇そうぐうしていった。


 ガーゴイル。


「ガーゴイルは体を覆う石が固く、直線で勢いが付くと動きも早い! だが関節部かんせつぶ可動域かどういきの確保でもろくなっている。しっかりと小刻こきざみに動いて狙え!」


 ゴーレム。


「ゴーレムは魔力コアが胸や背中に配置されている。動作はとろいが、無理に剣を突き立てると抜けないからな! こいつらは可動域が生物と違ってグルグル動いて攻撃を食らうぞ! 安全にやるなら魔術だ。ふところに入るなら一度間合いをはかってから詰めろ!」


 会う魔物との戦闘における批評をおこなっていく。


 知識を用いて各魔物との戦闘方法を伝え、眺める。戦闘後は皆を批評し、導いていく。

 それが、俺の役割だ。

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― 新着の感想 ―
石化訓練法が斬新過ぎます。 なんだろう。少し前から思ってましたけれど、ノーマくんって、そこはかとなくドMですよねぇ〜。 (*´ω`*) ゲロインズも今のところはレインボーを咲かせていないし、順調なの…
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