52:熊はツメ、花はトゲ、人はアシ。
ダンジョン最寄り――北東の『イシノウ村』に問題なく、何事も起きずにお昼過ぎに到着した。
ここまでは順調だな。この後は村から移動して野営地の決定だな。
「よし。ここからは徒歩でダンジョン近くの地点に野営地を設営しよう。ここから1~2時間は森の中を歩けば到達だ」
俺の言葉にグリズリーが大声で笑う。
「がははは! 何を言っている、1~2時間もかかる訳なかろう! 身体強化で突っ切れば30分もかかるまい!」
……グリズリー、君さぁ……
俺が無能者だって忘れてない?
才能持ちだったら出来るだろうけどさぁ……
俺が身体強化を常時発動させて、更に今は荷物もある中で負荷なんてかけたら……10分持つのか怪しいレベルだ。
魔力回復剤だって万能じゃねぇんだ。回復量は増えても即時回復ではなく、徐々に、だ。俺みたいな魔力量だと、全体量が少ないせいで回復だって遅いんだからな……?
これは早めに伝えておかないとな……
「なぁ、グリズ――」
「あら? グリズリーさんは30分弱もかかるの? 私たちの荷物を持っても、10分程度でダンジョン傍まで行けると思っていましたけれど?」
俺の言葉は遮られ、代わりにエリアベートの挑発がグリズリーに投げかけられた。
おいおいおい、なんだろうなぁ、この空気。
さっきまでの馬車での、のほほん、はどこに消えちまったんだよ……
でも良いぞ、もっとやれ! 俺の荷物も持って行って、先に設営してくれ!
「あぁん……? それはもちろん、俺がAランク冒険者だって事を分かって言ってんだよなぁ?」
「えぇ、そうよ? でも、こう言ってはなんだけど……私と同程度のAランクなら、15分程度で到達できるんじゃないかしら……? ふふふっ」
おぉ、おぉ……エリアベートが更に笑みを張り付けて……
グリズリーも額にしわを寄せて、目を見開き……おっかねぇ~。Aランク同士の魔力の発露ってのを目の前で体験する事になるとはなぁ。
だが、ここで引いたら俺が楽をできなくなる。
俺も耐えきるから、エリアベートもグリズリーの意見を押し込んでくれ!
「……はんっ! 良いじゃねぇか……なら見せてやるよ、嬢ちゃん。Aランク冒険者の実力ってやつをよぉ……どうも世間では、Bランク寄りのAランクだとか言われる事もあるみてぇだしなぁ……!」
「あら? 事実ではないの? 貴方の今出している魔力量……ふふっ、誇張されてるのかしら……?」
「そこまでコケにされたら、やってやらぁああ! お前らっ! 俺に荷物を全部よこせっ!! 移動は俺の後ろを付いて来い! 邪魔な物はなぎ倒して、直進してやる!」
「では私たちが後ろから、しっかりと、見てあげましょうか。さぁ、皆さん、グリズリーさんの雄姿を見て差し上げましょう?」
グリズリーとエリアベートの言葉で、皆、荷物をどうにかグリズリーに括りつけていく。
エリアベートは先程までの笑顔とは違う、したり顔で俺に流し目をしてくる。
あ~……こりゃぁ、分かっててやってんなぁ……まぁ、そうだよな。無意味に挑発なんて事、する訳ないもんな。
ない、よな?
後でしっかりと仲直りしておいてくれよ?
「俺たち『百花繚乱』は、後ろからのんびり行かせてもらうよ……先に向かっていてくれ」
「勝手にしろっ! こっちは先に向かうっ! 行くぞ、付いてこい嬢ちゃん!! 付いて来れんならなぁ!!」
「荷物があったからって言い訳は無しですよ? さぁ、いつでもどうぞ」
エリアベートが言うが早いか、ドンッと音がすると土埃が舞う。
もう既に、前方の森に突っ込んで行ったんだろう。その先は森林破壊がされていた。
森林破壊は楽しいかい? グリズリー君……
しかし、落ち着いて下を見れば、踏み込んだ地面が思いっきり抉れてやがる……それに踵側に轍のような跡まで残ってるぞ……
ひぇぇ、これがAランク冒険者かぁ……まさしく、英雄――人外に近い者たちだ。
「あらあら、こんなに土埃が……落ち着きがないわね、まったく。さぁ、私たちも行きましょうか。では、ノーマ。向こうで待っているわね」
エリアベートも土埃を払いながらそういうと、タンッと音がしそうな軽やかな感じに、その場で跳ねて――
ほとんど飛ぶように移動したみたいだな。即座に見えなくなった。
強化無しの素の状態じゃ、Aランク冒険者の全力での身体強化は目で追えないな。
あぁ、怖い怖い。
その後ろを全力で追いかける『月下の乙女』と『雄々しき月光』のクラン員たち。
大変だろうが、頑張れ。
できれば設営もしておいてくれて良いからな?
「じゃぁ、俺たちはゆっくり行こうか。アルメリア、フリュウも最終確認は済ましておけよ~」
そうのんびりと言って、のんびりと歩くのであった。
時々魔力による身体強化を使いながら歩き、到着すれば既に夕方頃。
日が沈む前と言う事もあり、既に到着地である空地では野営の準備が整っていた。
グリズリーとエリアベートがこちらに来る。
「ノーマ、大分時間がかかったな。悪い、つい無能者だって事を忘れてた! エリアベートに到着してから散々言われてな。がはは!」
あっけらかんと俺に向かって言うグリズリー。
後ろの『百花繚乱』の団員たちから、少しムッとした気配を感じたが……気にしないで良いからな。
俺も気にしちゃいない。グリズリーはこういう奴なんだ。
それにディアナ王国の才能持ちからしたら、無開花者――無能者の呼び方なんて意識する機会など、殆どないだろう。
「悪いな。アンタには理解できないだろうが……無能者は身体強化を全力で使うと、10分程度しか保たないもんでな。荷物から野営の世話までしてもらって、面倒をかけた」
「ノーマの事を考えずに突っ走ろうとするからよ。ノーマは気にしないで良いわ。自業自得だもの」
エリアベートは、尚もちくちくとグリズリーに言葉を突き刺す。
「がはは、ノーマは気にすんな! お前の事を考えなかったのも、嬢ちゃんに乗せられたのも俺が悪い! 少し考えれば分かっただろうがな。意地を利用されて突っ込んじまった。なっはっは!」
熱しやすく冷めやすい。しかし豪胆。
流石に、今回の件は引くに引けなかったんだろうが、理由を察すれば許すだけの度量もある、と。
良い奴ではあるんだけどな。所々で考えなしというか、ノリと勢いというべきか。そこが玉に瑕って感じだな。
まぁ、合同依頼を前にギスギスしていないようで良かったよ。
「遺恨はなさそうで安心したよ。明日から実際にダンジョンの踏破に移る訳だが……馬車移動でも、その辺りの話はまだしていなかったな。どうするんだ?」
俺の言葉に、グリズリーはにかっと笑顔を向ける。
「んなもん、後だ後! まずは飯を食うぞ! それからだ!」
グリズリーに肩を組まれて、焚火をしている場所に連れて行かれる。
「そうね、まずは食事休憩よ。疲れた体で鞭を打って考え事をしても、大変でしょう?」
焚火を中心にクラン毎で固まってはいるが、食事を振る舞われ食べ始める。
食事をしながら、脳内では明日の事を同時に考えていく。
明日はどのように訓練させていこうかなっと。
できれば、大きな成長を狙いたいけどな~……




