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5:ギルドからの通達

 俺は今、クラン長室に届いた通知を見ている。


 どうやら、『開花』のパーティーランクを更新する、という打診(だしん)のようだ。

 その件でギルドに出向き話をしようと書かれている。


 もう、何度目になるだろう。

 だが、そろそろ引き伸ばしも難しい段階にも思う。

 覚悟は決めなくてはならない。


 せめて彼女達が戻るまでに、笑顔で出迎えられるように……


(つい)に、か……」


 いつかは来る可能性はもちろん考えていた。

 まともにパーティーで活動しなくなっていた、出来なくなっていた俺は『開花』ではなく、個人の『ノーマ』として冒険者をやっていたからだ。

 行けるところもせいぜいD級ダンジョン。一人での踏破は無理だ。


 要するに、『開花』のリーダーとして相応(ふさわ)しくないのだという判断を下されたのだろう。


「はぁ……勝手に決める事はできない、か……ギルド長に彼女達が遠征(えんせい)から戻るまでの期間だけは保留にさせてもらおうか……」


 通知を見て気だるい体をイスから起こす。


 これから向かうとして、ローズにその間の作業は一任しておこうか。


 クラン長室を出てローズに声をかける。


「ローズ、これからギルドに出向くから、あとお願いして良いかな? すぐに戻ってこられるかは分からないから、ローズの判断で承認か保留か判断しておいて」


「ギルドですか? 先ほどの通知の件でしょうが、何が書かれていたのですか? 定期的に届いてもおりましたが、中身は教えてくださらなかったですし……」


 俺の言葉にローズが首を(かし)げて言う。


「俺の冒険者ランクの件だよ。どうにも上が納得しないらしい。だから、パーティーリーダーの追放かな」


 少しばかり情けない顔でローズに言う。


「そんな!? ノーマさんが『開花』のパーティーリーダーだからこそ! 『百花繚乱』も同じようにここまで来れたのではないのですか!? 実績としては相当な」


 ローズは今までの通知の内容も理解したのだろう。(さと)い女性だ。だからこそ、隠し続けてきた。

 ローズの言葉を(さえぎ)り言う。


「ローズ、今の俺を評価したらD級冒険者だ。クラン長やパーティーリーダーでは評価してくれるか分からないよ」


 俺の言葉でローズが(くちびる)()みしめ、グッと押し黙る。


「それじゃ、後は頼んだよ? 行ってくるね」


「行ってらっしゃい……ノーマさん……」


 背中越しに聞こえる声は、消え入りそうで悲しそうな声音をしていた。



…………



 (しばら)く歩きギルドに到着した。

 ある受付嬢に近寄る。


「やぁ、暫くぶりですね。アンナさん」


「ノーマさん! お久しぶりですね! 最近は昔ほどダンジョンも行かないですし、受けても常時依頼ですから、受付にも来ないし……」


「そうだね。またお世話になる時はアンナさんに頼むつもりだからさ!」


「お願いしますよ? それで今日のご用件は?」


「ギルド長のビッグスさん……いる、かな……?」


 少しだけ、この後の話を考えてしまい、言葉が途切れ途切れになりかけてしまう。

 その様子をみてアンナも何かを察したのか、少し顔を(くも)らせ、俺を見ていった。


「はい……、暫くお待ちいただけますか……? 確認してきますので……」


「お願いします。ははは、気にしないで下さい」


 その言葉を伝えると、ばっと顔を背けてアンナさんは上の階へ向かって行ってしまった。


 虚勢(きょせい)を張ったのは失敗だっただろうか……

 だが、仕方のない事だ。無能者の俺では、変えようのない現実が遂に追いついてきただけなのだから。


 暫くするとアンナさんが戻ってきて告げた。


「ギルド長室でお待ちですので、向かってください。ノーマさん……また、依頼持ってきてくださいね……?」


「えぇ、冒険者をやめるつもりはありませんから、いつか」


 そう告げて、2階に続く階段を上がっていく。

 階段を一歩上がる度に、これまでの冒険を思い出す。


 最初は俺等も簡単な依頼をこなしていった。薬草採取、スライム、ゴブリン、コボルト、スケルトン。

 その内にオーク、オーガ等の中型とも戦い……

 この時には、俺は成長が止まった感覚を覚えていたな……


 それでも生き残るため、死なないで彼女達に付いて行こうと、中衛から後方に、観察して支援、指揮とできるだろう事はやってきた。


 だが、そんな歴史を見てきた『開花』ともお別れか。


 俺は良くやった、と胸を張るべきだ。

 まがりなりにも個人D級でC級ダンジョンまでは一緒に付いて行けた。守られて進んでいたが、C級を経験したんだ。


 無能者でも、ここまで行けたのだ……胸を張れ!


 目に力を入れ、こみ上げるものを耐えて階段を上った先の奥の部屋――ギルド長室の扉をノックした。


「ノーマ・レヴィシアです。手紙の件で(うかが)いました!」


「入れ」


 室内から低音の()いた声が短く告げた。


「失礼します。お久しぶりです、ビッグスさん。彼女達からB級昇格が出て以来でしょうか?」


「何度も手紙は出していただろうが。 流石に今回も手紙だけで済ますのは、な……」


 俺を見る目が申し訳なさそうであるが、今回ばかりはもう駄目だ、と告げているようでもあった。

 今はギルド長のビッグスだけで、副ギルド長のエリスがいないから、なおさら空気が重く感じる。


「そうですか。再三(さいさん)、ビッグスさんが保留として突き返してくれていたお陰で、俺も3年もの間、心穏(こころおだ)やかで居られました。感謝しています」


「お前は良く頑張ってきた。それに、彼女達の精神的支柱でもあった。そして今の『百花繚乱』もお前が盤石(ばんじゃく)なものにした。功績(こうせき)としても一流だ。だから、本当なら俺もお前を苦しめたくねぇ。こんな事は言いたくないんだ……許せ」


 ビッグスが俺を力強く見て宣言する。


「今日限りを以て、お前をCランク冒険者とする!!!」


「……は!!? パーティーからの追放じゃないんですか!?」


「何を言ってるんだ、お前は? 理事会からせっつかれたんだ。『開花』はもう十分パーティーのランク更新を待った、これ以上Bランクパーティー更新を引き延ばせば強制的に冒険者証を剝奪(はくだつ)するぞ、と」


「いや、え!? それ、俺の追放処分じゃなかったの!?」


「はぁ!? お前は何を言っているんだ!? 俺は再三伝えてきただろうが! ノーマ、お前の功績は立派なもんだ……胸を張れ……って! お前にも一部で呼ばれる異名はあるだろ、花園の批評家(レビュアー)


 頭をかきながら言うビッグス。


「じゃ、じゃぁ! さっきの許せって何ですか!!」


「お前が散々俺に言ってきたんだろうが! C級ですら死にそうだ、D級も危ういからもう無理だ、と! だから散々断ってやったんだぞ!! ちったぁ感謝しろ!」


「え、じゃぁ、俺、これから最低ダンジョンランクはD級行かないとだめなの!?」


「そういってるだろ!! おまえ自身のランクは今この時からC級だ! 気付かないあほな冒険者はお前を低く評価して無能者って言ってるが、お前の功績を上げたらキリがねぇんだよ! 才能はねぇからあぶねぇかもしれないが、お前ならどうにでもできんだろ! さっさとC級にあがれや!」


 こうして、『開花』リーダーを辞めるのかと思っていたら、ランク昇格の件だった。


 (うそ)だろ、おい!?

 C級だよ!?


 夢、(あきら)めてたつもりなんだけど!?


 明日からD級ダンジョンかぁ、と思いながらC級になった喜びで足取り軽くギルドを後にしてお気に入りの酒場、琥珀(こはく)(しずく)に向かった。

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― 新着の感想 ―
おお、ランクアップおめでとう! 他の貢献が認められたのは純粋に良かったですね〜。
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