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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
4章 無能者のディアナ王国武闘祭

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45:伯爵令嬢、兼、Aランク冒険者の見極め#

 今まさにノーマとカリストのエキシビションが行われている闘技場。


「彼、とても面白いわね」


 貴賓席きひんせきに座る白いドレスに輝く金髪の女性が、あわただしく目まぐるしい攻防をながめながらつぶやく。


「あれで無能者なのでしょう? どうして今まで聞いた事がないのかしら?」


「エリアベート様があの男に興味を持たれたことがないからですよ。以前、『百花繚乱ライオットオブカラー』についてお伝えした時も話半分で流されたではありませんか。お気持ちは分かりますけれど」


 メガネをかけ白混じりの赤い髪に黒いドレスを着込んだ女性がひたいに手を当てながら答える。


「あら? そうだったかしら……でも、仕方ないじゃない。前提知識ぜんていちしき貴女あなたの言うように無能者で取り留めのない男。そんな男に、興味を持つ方が困難こんなんでしょう? でも、カスミ。よく見てみなさい、あの男の実際の戦い方を。あれは後天的こうてんてきに、みずからで作り上げたモノよ」


 エリアベートの言葉にメガネの女性――カスミはノーマに目線を向ける。


特筆とくひつするほどには見えませんけれど……ノーマ(あれ)はすごいのですか? 私には逃げ回り、時々剣をまじえているだけにも見えますが……身体強化をかけていれば無能者でもギリギリ見えるだけではないかと。魔力使用は良く見えませんが、無能者の保有魔力を考えれば、そういうものなのでは?」


「えぇ、そうね。使っているのは身体強化で凡庸ぼんようよ。けれど、後半が微妙びみょうことなるのよ。貴女あなたもしっかりと見れば分かるんじゃないかしら? あの男の目――頭部に見える魔力が」


「目……頭部……?」


「あの男は才能開花さいのうかいかしていない。それでも騎士団長の動きに追いつけている事がそもそも凄いけれど、それは表面上で見える部分ね。それでも気付かない者は嘲笑ちょうしょうするでしょう。けれど、無能者とあなどらずに魔力の流れの機微きびまで見えている者は気付くんじゃないかしら? その異常さを。あれはどうやって手に入れたのかしら? 動体視力どうたいしりょくと思考の高速処理……? 2つで1つ? 興味深いわね」


「……私には未だに感知できません。エリアベート様にはどう見えているのですか?」


「それこそ、一瞬いっしゅんだけよ。一瞬だけの魔力の流れ……そして、魔力量は極少量ごくしょうりょう。どうしたら、あんな少なくて発動するのかしらね……理事会のナイラの技術と似ているけれど、無能者のみ特有とくゆうなのかしら……まぁ、それよりも動体視力と思考の方が面白いわね」


 エリアベートは目を細める。

 視線の先にはなおも受け流し、時々逃げるを繰り返すノーマ。


 しばらくの間エリアベートは、ノーマの魔力の流れを見逃さないように、集中して見続けていく。


「エリアベート様、気になるのも分かりますが、そろそろ本戦の御準備もございますので……」


 エリアベートがノーマの姿をながめ続けているとカスミから声がかかる。


「……まだ良いわよ。どうせ、第1回戦は良く分からない雑魚ざこなんでしょう? 準備も必要ないわ」


 目はノーマに向けたままエリアベートは話す。


「一応、『雄々しき月光』若手の中では活躍しているそうですから、雑魚ではないと思いますが……ランクはCですね」


「じゃぁ、雑魚ね。だって私、ランクAよ? 同じランクA以外、雑魚かゴミ。あら、そんな事を言っていたら終わってしまったわ……もっと見たかったわね」


「『百花繚乱』ノーマの勝利ですね。しかし、たおれて気絶きぜつしたようです。魔力切れ……でしょうか?」


「まぁ、肩の傷も痛々(いたいた)しいし。どちらもじゃないかしら。じゃぁ、出場通路へ向かいましょう。すぐに終わらせてあげるから、待っていて」


「分かりました」


 2人はそのまま貴賓席きひんせきを後にし、出場通路へ向かっていく。


 そのまますぐに案内を受け、エリアベートは舞台へ上がった。

 中央に向かい、対戦相手へ優雅に挨拶あいさつをしようとし――


「俺はジェイドだ。ジェイド・マニーツリー。美しいその御姿おすがたを直接、目にできるとは光栄こうえいいたり。この俺、若手筆頭の――ちょ、待てよ!」


 軽々しく、小五月蠅こうるさく、そしてナンパな声を掛けてきたハエ――ジェイドを無視して立ち位置に戻るエリアベート。


(はぁ、さっさと終わらせましょう。まったく、どうしてこう、楽しい事の後って落差らくさが激しいのかしらね……)


 鐘の音がなり、ジェイドが全力で突っ込む。


いくらAランクとは言え、俺を無視した事を後悔するが良い! この俺、若手筆頭、ジェイド・マニーツリーを無視した事を! 初手から全力で行かせてもらう! 鏡花水月きょうかすいげつりゅう天墜銭樹てんついせんじゅ!」


 ジェイドは大量の魔力を体にわせ、金・銀・銅の葉がしげ樹木じゅもくを逆さに投影とうえいする。


「舐めるなよ! これが俺の、真の、力だぁあああっ!!!」


 えながら、大剣を突き刺すように飛び出ていくジェイド。


 投影された枝――魔力もエリアベートへと一斉におそいかかる。

 風に魔力がれ、の葉がい、舞台を、視界をおおっていく。


「残念ね。私と戦わなければ、トップ10(てん)には入れたかもしれないわよ」


 エリアベートはそう告げると、魔力をまとっただけの右腕で大剣を払う。


「はぁっ!?」


 たったそれだけ。

 それだけで投影された技は霧散し、大剣は大きくはじかれ、無防備な姿をさらす事となったジェイド。現状を理解できずにほうけたような声を上げる。


「では、ごきげんよう」


 エリアベートはジェイドに向けて笑顔で言うと、人差し指を向ける。

 指とジェイドの顔の間には、小さな血の色をした球が現れていた。


「バンッ」


 エリアベートの声で血の球が放たれるとジェイドへとぶつかった。

 遠目には何も分からない状況に困惑こんわくする観客達をよそに、ジェイドは物凄ものすごいきおいで吹き飛んでいき、舞台を超えて飛ばされる。


「ぐげぁっ……」


 かべへと激突げきとつし、つぶれたカエルのような声を出し気絶したジェイドは、無様ぶざまにうつせで地面に倒れ込む。


「しょ、勝者、エリアベート!」


「はぁ……ちっとも、まったく、面白くないわ……」


 ノーマの試合を見ていた時とは正反対に、さびしそうに舞台を後にする。


「……そうだわ。カスミ! 付いてきなさい!」


 出場者通路に入った時には、既に三日月のような笑顔がエリザベートの顔には張り付いていた。

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― 新着の感想 ―
え? ジェイドって、あのジェイド? 生きていたんだ〜、良かった〜! (*ノ・ω・)ノ♫ と、思ったら…… ジェイドーーーーー! 。:゜(;´∩`;)゜:。 あ、どもども、式場に迷っちゃって……
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