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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
4章 無能者のディアナ王国武闘祭

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44:騎士団長カリストとの試合②#

 ゴーン――! 音が鳴った!


 その直後からカリストは俺を中心にして、ダダダッと走り出し、徐々に間合いをせばめてはかり始めた。


 この動きはアリアに似ているかもな。だが、どこかで意識が明確にガウルと似通う時が来る。

 それを見逃さないか、あるいは作るかだ……


「はぁああっ!!」


 カリストは身体強化を既にかけている。相当な動きの速さで詰め寄ると掛け声とともに斬りかかってきた。


 やっぱ、戦闘中に常時身体強化かけられるってのは、つえぇよな!

 だが、この程度の強化具合ならまだつばり合いで済んじまうなっ!!


あめえよ!! んな、見え見えなもんで斬りかかるんじゃねぇっ!」


 本気でやり合うんだろっ! カリスト、見せてみろ! お前の殺気さっきってやつを!

 そんなもんじゃねぇだろ!! もっと、限界まで!!!


 決め手にかけるカリストの斬撃ざんげきを何度も受け流していく。


 そのカリストの煮えきらない攻撃を、右手で握ったショートソードで思い切り振り払う。

 鍔迫り合いを押し返す形で距離を取ると、俺から動き出していく。


 今度はこっちからき付けてやるさ!

 その程度じゃ、満足できねぇえんだっ! カリストっ! もっとがむしゃらに攻め立ててみろ!! 前後不覚なまでの魔力と勢いで斬りに来い!!


 足に身体強化を、ステップで踏み抜いた瞬間にかけていく。

 瞬間的にリズムをくずす為に、強化にかける魔力量も異なるように、微調整して。予測を崩すために!


「殺しに来いよ! カリストっ!!」


 思い切り剣をカリストの右半身側に横振りすると、カリストに防がれてサーベルとぶつかる。


 追撃の為にすぐさまステップし、背中側へ――

 カリストの方が早い! あわよくばなんて思ったが、常時と瞬間の強化の差だ! 当たり前だろ。ちぃっ!


「ノーマ殿、瞬間の動きの速さは見事だ! だが、その後が詰め切れないようだな!」


 カリストから逆に反撃をされかけて後ろに後退あとずさる。


 だが、これで良い。俺からは攻めきれないと印象付けろ。

 真に攻めるのは今じゃない。今やっては度肝どぎもを抜く展開は構築こうちくできない。予測し続けろ、そして、タイミングが来たら踏み出せ。


 まだ、その段階じゃない……


「そういうカリストも、中々攻めて来ないじゃないか。どうした? 魔力量では大差があり、振り下ろした剣撃けんげきは必殺の威力すら生む事ができる才能持ちのカリストが。恐れているのか? この俺を」


 挑発ちょうはつしろ。もっと攻めに転じさせろ。カリストに気持ちよく無力な俺を攻めさせ続けるんだ……


「……そこまで言われると、こちらとしても動かざるを得ないです。そろそろ魔力量を出し惜しみせずに、向かわせてもらう。ノーマ殿に才能持ちとしての私の全力というものを教えてあげましょう!」


 そこからの展開は俺の望んだ通りだった。

 何度も勢いよく全力で攻めに来るカリスト。


 だが、一つ読み違えたのは、戦闘時のカリストの思考だろう。


 意外と冷静だな、くそっ!! 無防備になってくれないとは!


「ははははは! ノーマ殿、受け流しと避けるのが上手いな! どんどん行くぞっ!!」


 何度も速度を早めての攻撃を繰り返される。

 受け流すよりも、退いてけたくなる時間が増える。だが、魔力の温存を考えれば、逃げに瞬間しゅんかんでも強化は行いたくない。


 無理にでも受け流していき、生傷なまきずが増え始めていた。


 段々と試合展開に不満を持った野次の声が大きくなっているようだが、今はそれどころじゃないな!

 しっかりと、受け流――しまった!?


「ぐぁ!?」


 カリストの刺突しとつを受けた後に、体を回転されての至近距離でのひじ打ちを食らってしまい、無様に倒れてしまうとは……


 力を抜いて飛ばされたお陰で、痛みは減らせたし追撃もされないで済んだが……まずいか。体術での一撃もやはり重すぎる……

 流石、Bランク相当なだけはある……


「ノーマ殿、痛かったか? 済まない。もう少し軽くでで上げれば良かった。これではすぐに終わってしまうかな」


 にやりと笑いながらカリストが言う。


「馬鹿にすんじゃねぇよ。わざと力抜いて飛ばされてんだ。そんなもんで終わる訳ねぇだろうが! このいのしし娘が!」


 ……あ、やべぇか? 猪娘って言った後、顔が引くついたぞ……?


 だけど、この膠着状態こうちゃくじょうたい打開だかいする糸口にはなるかもしれないか?


「ほ、ほぉ? では、ノーマ殿は臆病おくびょう狡猾こうかつきつねだ! どうした! 先程から受ける、避けるばかりで!」


「もう大分長い事やり合ってるくせに、決め手に欠けてるんだよ、この猪娘が! お前、俺の魔力切れでも待ってんのか?」


「くぅっ……! こっちだって手は抜いていないのにっ!! 猪、猪と!! 次で決めてやるからな! ノーマ殿!!」


 若干の冷静さは崩せたのだろう。

 はぁ、やっとこさ、頭に血が上って突っ込んできてくれるか……


 カリストは言い終えてすぐに、一気に距離を離したと思えば、魔力をまとわせ始めた。


 この距離から攻めに行くのは危険すぎる、か……どこで魔力を練るのが終わるか判断つかない以上、ここで最後の斬り合いになりそうだなっ……!


 良いぞ、ここまでは展開として悪くない。後は、俺がタイミングを間違えずに踏み出せるかだ!


「死んでくれるなよ、ノーマ殿。せめて、サーベルの直撃は避けてみせろ……協会騎士団長である私の一撃を!」


 魔力を練り終わったのだろう。体とサーベルにわせているようで、濃密な魔力のせいでゆがんで見えているかのような錯覚がある。


「受け止めてみろ!! 天衝てんつき!!」


 急いで目を強化し、思考を回転させていく。


 ここで、終わらせる……!


 ゆっくりと進む世界で、歩くような速さでカリストが走ってくるのを視認できる。この瞬間を認知できているだけでも、自分をめたくなってしまう。


 握る剣の先に展開されてる魔力。放射状ほうしゃじょうに流れて行く様を見るに……これは確かに、直撃すればあの世に持っていかれそうだ。

 剣撃に乗せられた魔力の余波だけで、下手な強化ではバラバラになりかねん……


「うぁああああっ!!」


 カリストが吠えながら、俺を刺しに来る。


「あぁああっ!!!」


 俺はと言えば、この重苦しい世界で必死に吠えて体を動かそうとする。


 カリストもそれに気付いて軌道を合わせようとしてきた。


 今っ――!

 前に出ろ!

 恐れるな、らえ! その無防備な首元に!


 最低限の強化で、肉をくれてやれ! その隙に俺はっ!!


 姿勢を下げて前進する。カリストの攻撃はズレ、肩をえぐる。

 左肩が千切れるかのような感覚を受けながらも、前に出続ける。


 思考に痛みはまだ追いついていない。その内に痛みが来るだろう。


 だが、これで――駄目だ! この姿勢じゃ、首元は狙えねぇっ!!


 思考を維持したまま考え続けて出た答えは何とも言えない策だ。

 それでも、これしか決めては見えなかった。


 残った魔力を全力で強化に回し、姿勢を下げたまま、カリストの胸元に入る。

 あとは勢いを利用して、腹部へ肩からぶつかれ!!

 お互いの勢いを使ってらせろ!!


「ぐぶっ!?」


 カリストの口から声――息がれる。


 腹部への衝撃しょうげきから空気が漏れ、力が抜けたタイミング。


 決着を狙うのはこの瞬間しかねぇ!


 俺は力の抜けた瞬間のカリストを押し倒し、馬乗りになって、どうにか剣を首横に突き立てる。そのまま剣で体を支えて言う。


「ははは、はぁ、はぁ……どうだ? お前を押し倒して、首横にやいばを突き立てた、男だ……」


「うぐっ、腹部に思い切り……お見事。ノーマ殿」


「これが、肉を切らせて……骨をつ、ってな……」


 自分の左肩を見れば、大分酷ひどい抉れ方だった。


 千切れてねぇだけ、マシ、だな……まだ痛いっていう感覚がねぇ……後で痛みに後悔こうかいしそうだなぁ……

 でも、仕方ねぇよな……この方法を思いついちまったんだし……


 鐘の音が鳴る。


「勝者、ノーマ選手!」


「はは、なんとか、勝ったな。楽しめたか、カリスト……?」


「あぁ、ノーマ殿。満足させてもらった。ありがとう」


 死んでしまいそうな程にぼろぼろになりながら、聞こえてくる歓声かんせいにも耳をかたむける。

 闘技場の雰囲気ふんいきと声を聞くに……どうやら、楽しんでもらえたようだ。


 そのままカリストに倒れ込み、魔力切れと出血によって視界は暗くなっていく。


 はぁ……やり、切った、な……

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― 新着の感想 ―
おお、概ね事前に予想した内容が入ってた! (*ノ・ω・)ノ♫ 魔力切れを狙われると不利、煽ってカリストの本気を引き出す、の流れ。 この後は……自分を倒した男としてカリストが求婚というか婚活を始める…
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