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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
4章 無能者のディアナ王国武闘祭

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41:酒場での陰謀論(いんぼうろん)と前祝い

 酒場の奥の個室で酒とつまみ数点を好意で出してもらい、ちびちびと飲んでいると店内に人のざわめきが生まれだした。


 どうやら開店したようだな……

 しかし、マスターは優しい人だな。開店前の席取りだけでよかったのに、まさか酒とつまみまでお祝いだからと無料で出してくれるなんてな。


 まぁ、他言無用って目が訴えてたけどな。


 そんな訳で『開花』の皆には少し申し訳ないが、先にちびちびやらせてもらってる。


 つまみのローストされたナッツをカリッとんで酒をあおっていると、個室には俺一人という事を加味かみしなくとも聞こえてくる声の大きい男性客の会話。


「俺は今回の武闘祭、裏で何か良からぬ事が起きたと考えている。無能者をエキシビションで出すとは、通常では絶対にありえない事だ。奇跡協会の推薦すいせんだというが、流石さすがにおかしい」


「ジェイドさんの言う通りっす! いくら『開花』と言えど、リーダーのノーロマ?とか言う奴じゃ、協会騎士団長の相手にならないっす!」


「そうっしょ! やっぱ我等がリーダー、ジェイドさんっしょ! 奇跡協会は弱みでもにぎられたっしょ?」


「確かに、あのような盆暗ぼんくらではなく、われのような美しき者か、ジェイドが出るべきだな……ふ、ふふっ……奇跡協会も我が出ては、騎士団長がれてしまう事を恐れたか……」


「や、やっぱり、ジェイドさんが、出るべき、だったと思う、よ……! わ、若手わかて筆頭ひっとうの、冒険者、だしね!」


「皆もそう思うか……! ノーロマという奴は何か奇跡協会に圧力をかけたのだ……許せん! それがなければ若手筆頭冒険者、このジェイド・マニーツリーがエキシビションにも出ていた者を!!」


「ジェイドさんがエキシビションも本選も出場なんて事になったら、快挙かいきょっすからね! もしかしたら、それを阻止そししようと奇跡協会も適当な人選をしたのかもしれないっすよ!」


「ありえるっしょ! もしかしたら、ノーロマもそれを見越みこして策略さくりゃくを行ったかもしれないっしょ!」


 良く噂話でされるような陰謀論いんぼうろんに近い事を話しているんだが……

 それを臆面おくめんもなくこんなに大声で、しかも周りの奴が支持しているって大丈夫か……? 俺が同席してたら恥ずかしさで帰ってるレベルだぞ?

 あと、ノロマでもノーロマでもない、ノーマだ。名前を間違えないでくれ……


 その後は酒を飲んで気分が良くなったのか、「明日の武闘祭本選が楽しみだ!」、「俺が、俺たちが、冒険者ナンバーワンだ!」、なんて大声で笑って宣言せんげんしたりと、飲み続けているようだ。


 まぁ、ジェイドさんとやら? 明日のエキシビション、楽しみにしとけよ。

 驚かせてやっからさ。


 そんなにぎやかな声を聞きながら少し待っていると、ざわめきの種類が変わった気がした。


「六花ではありませんか! 我はスィーセ。貴女あなたたちの様に強く美しい方々と出会うなど、運命に感謝せねば」


 お? 彼女たちが到着とうちゃくしたようだな。しかし、さっきの奴らにナンパでもされたっぽいか?


「どけ! オレはお前なんか知らないし、知りたくもない。それに六花じゃねぇ、今は『開花』だ! ぶっ飛ばされたくなきゃ、さっさと離れろ!」


 これはガウルだな。喧嘩けんかなんておっぱじめないでくれよ?


「俺はジェイド。君たちと同じく、若手筆頭と言われている冒険者だ。こうして酒場で会う機会には今までめぐまれなかったが、どうだろう? 一緒に飲まないか?」


 しかし、このジェイドという男もめげないな。スィーセとか言う奴がガウルにキレられたのに普通に挨拶あいさつして同席のさそいまでしだしたぞ。


「アタシらはあんたなんて知らないし、眼中がんちゅうになんてないのよ。それ以上、酒臭さけくさいい息で近寄ったらアタシもガウルと一緒にぶっ飛ばすから」


 こりゃ、そろそろ俺が出ていく必要があるか? でもなぁ、さっきまで陰謀論めいてた内容を話してた声の主だ。


 正直に言って出たくない。


「ぐっ……で、ではどうだろうか。今度、ひまな時間にでも親睦会しんぼくかいを――」


「消えろ、って言ったのが聞こえなかった? もう一度声をかけてみなよ。その瞬間しゅんかん、あんたの顔を反対側にへこませてやるから」


「……」


 相手は何も言わない。

 というか、酒場まで無音になったな。


 何も音のしない酒場の個室の扉が開かれた。俺のいる個室だ。


「やっほー! ノーマ君! 来った、よー!」


 すごい楽しそうな声で個室に入ると言うアリア。さっきまでの状況とのギャップの落差がはげしいが、個室に入ったら気にする必要もないか。


 その内に酒場の空気だって、いつも通りに戻るさ。


「ひとりでおっぱじめてるじゃねーか! オレも酒とつまみで!」


 ガウルも中に入って早速さっそくとばかりに酒を頼む。


「ノー兄、一人で勝手に始めちゃったんですか? せめて乾杯かんぱい音頭おんどまでお酒は飲まないで欲しかったです」


 ノイン、居たんだから穏便おんびんに対応してあげてよ……この酒場では問題を起こしたくないんだって。


「ノーマさん、飲みすぎないようにしてください。明日の為にお酒はひかえ目ですよ」


 イリアもその場に居たんだしさ……一番あしらうの上手うまいだろ……?


「お兄さん、おひとり様ですかー? 今なら綺麗きれいな女性――あたしがいますよー? 一杯付き合いません?」


 ユリアが揶揄からかうような声音と視線を向けて入ってくる。


「お兄さん。わ、わたしもいますよ……?」


 少しだけユリアの揶揄からかいに乗ってクロエも入ってきた。恥ずかしさで耳が一度パタリと合図するように動いたのを、俺は見逃みのがさないぞ。


「それじゃ、全員集まった事だし、決起集会の開始と行きますか!」


 そこで個室の扉がコンコン、とノックされた。


 注文したのガウルだけのはずなんだけど、早いな。


 扉の先には、なぜか酒場のマスターが顔を見せる。


「『開花』の皆様、本日もご利用いただき、まことにありがとうございます。それと、先ほどは大変不快たいへんふかいな思いをさせてしまった事をおびいたします。こちら、皆様が初めにお飲みになるお酒に、皆様方の好みのおつまみになります。どうぞ、ごゆっくりとおくつろぎください」


 マスターは俺の顔を見て、にこりと微笑ほほえむ。


 マスターがここまでするのはめずらしい。

 あぁ、そうか。俺の前祝いだからこそ、か……

 それにしても、からんできた男――ジェイドだったか。あいつはどうなったんだ? 店内のざわめきは先ほどまでと違って大声に近いものは少なくなったし、多分普段のガウルの方がうるさい。


「あの、マスター。先ほど彼女たちに絡んできた人はどうしたんですか? あぁいった仲間内以外に絡んでくる客ってこの酒場だと珍しいですし」


 マスターはうやうやしく頭を下げ、告げた。


「ご退店頂きました。あのように他のお客様に迷惑めいわくがかかってしまっては、私の求めるさわがしくも楽しい酒場ではなくなってしまいますので。それでは、失礼致します」


 格好よく、背筋を伸ばして去るマスター。


 酒場のマスターはどの業界にいても成功しそうだな……それだけ人の機微きび気遣きづかいを大事にし、尊重そんちょうできる方だ……


 ガウルはいつも自然体だが、マスターの場合は相手を自然体にさせるすべを持っている。


 こういうものにこそ、あこがれというのを持ってしまうな。開花する才能ではなく、つちかわれた思考や予測。

 俺もいつかはこうなりたいものだ。


「ノーマ! ぼけっとしてんなって! 乾杯の音頭、頼むぜ! 待ちきれない!」


 ガウルの言葉に尊敬のまなざしが途切れた。


 はいはい、ガウルはいつも天然で自然体だからな。

 乾杯の音頭? 待ちなさいって。そんなに物欲しそうな目で見るんじゃない。


「仕方ないな。それじゃ、訓練のお疲れ様と前祝いという事で……乾杯!!」


「「「「「「乾杯」」」」」」


 『開花』で集まり酒場で楽しい時間を過ごしていく。

 皆で過ごしていれば、次第しだいと明日の事を意識はすれど、緊張きんちょうは消えていった。


 さぁ、『奇跡協会』騎士団長カリスト。明日は全力をもって、試合を楽しもうぜ!

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― 新着の感想 ―
この世からご退店頂いた訳ですね。 店内には永遠の無音……あ、お線香でもどうぞ。 (・–・;)ゞ ジェイドさん、転生した先では頑張って欲しいものです〜。 (´;ω;`) と、冗談はさておき、いよいよ…
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