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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
4章 無能者のディアナ王国武闘祭

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40:前日の心の揺れ動き

 ここのところ続いている実戦形式の訓練をおこない、約3週間が経過した。

 日に日に通りでの話題は、誰それが予選を突破とっぱしただの、本選は誰が出るだのといった内容が増えていった。


 そして、先日、発表されたエキシビションでの奇跡協会、騎士団長カリストとの対戦相手の名前。当然、俺の名前だ。


 公表されると共に、若干――いや、かなりの炎上騒ぎとなっていた。


 まぁ、言われている内容も、無能者が出るなんて、みたいな内容ばかりだ。

 事前に予想されていた内容なので心は平気だ。この非難は甘んじて受ける。


 だが、俺の実力を見た後も同じ評価だけはさせたくない。いや、させない。


 魔力を万全に整えるためにも今日は全力での訓練はせずに、軽くストレッチや魔力なしでの試合を行ったのみだ。


 泣いても笑っても、明日は武闘祭が開始される。

 そして、開催宣言かいさいせんげん後には……俺は、夢の舞台に立っている……


 評価をくつがえさせる、なんて大それた事を考えているくせに体は少しだけ固い。


「色々と準備はしてきたが、緊張きんちょうしないってのは、中々難しいか……」


 つい、口からこぼれ出てしまった弱音。


 ガウルに気付かれて笑われる。


「ノーマ、考えすぎだろ。オレには考えるなってよく言うくせにさ! 素直に楽しんでくれば良いじゃんか!」


「ガウルみたいにノーマ君は単純じゃないっての。お馬鹿だなぁ」


 アリアが俺とガウルの間に入ってくる。


「なんでだ? ノーマは武闘祭に出たかったんだろ? 緊張なんかより楽しみの方が多いだろ!」


 確かに、楽しみも大きいけどな……明日が怖くて緊張するってのはどうしても出ちまうんだよ。

 まぁ、こうやって話してると気はまぎれて固くなりそうな体もほぐされるけどな。


「どうしても明日の事を意識しちまうからな。こればかりは気持ちが落ち着くのを待つか、何かで気晴らしして体の固さをとるしかないな。初めての武闘祭に出る無能者が、国中からの評価を受けるっていうんだ。怖くない方がおかしいのさ」


「ふーん……? 俺だったら楽しみすぎて剣を振り回しちまうけどな!」


 良く分かってなさそうな「ふーん……?」だな。

 こいつはいつでも自然体だ。それが良くあり、悪くもある。


 だが、今はガウルを見習うしかねぇな!

 威勢いせいよくしようか! 吹っ切るために!


「考えすぎても仕方ねぇよな! よし、やってやらぁ!」


 無理にでも声を出してしまえ! 鼓舞こぶして、明日に万全の調子で挑むんだ!

 それに、決起集会でダメ押しだ!

 気晴らしと言えば、当然あそこだ!


「なぁ、琥珀こはくしずくに行こう! 飲みすぎはダメだが、軽く景気付けにってな!」


「お、良いじゃん! そうこなくっちゃな! なんせ明日は楽しい武闘祭だ! お祭り気分も味わおうぜ!」


 ガウルは即座そくざに乗ってきた。

 そう、これだよ、これ! ガウルの能天気な感覚に身をゆだねちまえ!


「じゃぁ、『開花ブルーム』で集まろっか! ノーマ君、集合時間はどうする? まだ夕方前だけど」


 武闘祭前日もあって外は人も多い。それに、琥珀の雫も夜間営業は混雑こんざつするだろうな。

 時間まで少しあるが……


 そうだな……場所取りで俺がささっとシャワー浴びて、馴染なじみの客待遇きゃくたいぐうで店員に話を通しておけば平気か?


「先に開店前に俺が場所取りに向かうから、2人は皆とゆっくり来てくれて良いぞ。店員に聞けば席も教えてくれるだろうしな」


「おっけー、イリア達にも伝えとく! じゃ、ノーマ君、一旦お別れだね! またあとでね~」


「ノーマ、店よろしくな! アリア、前回の飲み比べ、決着ついてないだろ! 今度こそ――」


 アリアとガウルと訓練場で別れ、男子用のシャワー室に向かった。


 シャワーを浴びながら魔力での継戦能力けいせんのうりょくの限界を考える。


 俺の魔力は全力で身体強化を行えば、回避と攻撃への万全な予備動作が行えるだろうが5分程度が限界か。

 負荷がかかれば更に減る。


 明日はタイミングをはかり、攻めに転ずる必要がある。だから魔力は余程よほどの事がない限りは多めに使ってしまうような無駄遣いはできない。


 全力の時は確実に勝敗の決する場面でのみ。後は魔力の最小でもって、最大の効果を得るのみだ!


 頭から温水を浴び終え、火照ほてった体を冷ます。

 さぁ、酒場に緊張――コリをほぐしに行きますか!


 体の汚れも流し終え、服も着替えて、クラン建物を出る。


 ふぅ、通りが人でごった返して歩きづらいったらないな。

 こんな時ばかりはインフィオやアリアのように屋根の上にでも飛び立って、屋根伝いに移動したくなるな。


 まぁ、今年はこんな風にお祭りを味わえるんだから、『奇跡協会』さまさま、だな。


 ただ、やはりというべきか……通りに出ると対戦相手として名前と顔が公開された事もあって視線をいくつも感じるな。


 ささっと、人の間をって目的地を目指してしまおうか。


 そそくさと人の合間を進む事、10数分。いつもよりも大分時間はかかったが無事に到着した。


 こりゃぁ、夕方になれば更に明日のために集まった人が増えだすな。

 六花は無事に到着――いや、到着できないなんて事はあり得ない心配だったな。


 さて、まだ開店前だが、店員に先んじて席を確保させてもらおうっと。


 扉を開くとカランカランとドアベルの音が鳴り、直ぐに声がかかる。


「お客様、すみません。まだ開店して……ノーマ様。まだ開店していないとご存じ……なるほど、お席ですね?」


 流石、マスターだ。俺が扉を開いて入ってくるだけで察してくれるなんて。流石、シゴデキオジだぜ……そこにしびれるあこがれるぜ……


「えぇ、『開花』で集まるんですけど、良いですか? 開店して混んじゃうと彼女達が入れなくなっちゃいそうなので」


 俺の言葉に少しだけ困った顔を見せて口を開くマスター。


「本当は駄目ですが……まぁ、『開花』の皆様にはいつも御贔屓ごひいきにしていただいておりますし……何より、明日はノーマ様の初舞台。ひそやかにではありますが、そのおいわいという事で」


 やっばい、なんかめちゃくちゃ嬉しいな……マスターは俺が王都に来て、冒険者として活動していても無能者などとさげすまないで、いつも静かに酒場で見守ってくれていた。他では色々とあったからな……

 だからこそ何年もの間、酒場といえば此処ここ――琥珀の雫にしていたのだが……


 そんなマスターから内緒ないしょで祝われる。心が、ぎゅっとされる。今までの感謝の気持ちで過呼吸かこきゅうになりそうだ……


「マス、ター……あり、がとう、ござい、ます……」


 途切れ途切れになりながら、何とか声をしぼり出す。

 声の震えだけではなく、目頭が熱くなってしまう。


「いえ、これはひとえに貴方の努力の賜物たまもの。私はただここで立ってながめていただけにすぎません。それでは、ノーマ様。どうぞ、琥珀の雫でいろどりあるお時間をお過ごしください」


 マスターはいつものようにおだやかに微笑ほほえみながら、俺達のいつもの席へ手を向けて言った。

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― 新着の感想 ―
行きつけの酒場があるのは良いですね〜。 伝家の宝刀「いつもの」で格好良く頼む浪漫があります! (╹▽╹)
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