33:突撃隣の騎士娘②
「美味しいようで良かったですよ。それで、お話というのは……?」
俺の言葉に先ほどまでのゆるっとした顔をきりっとさせるカリスト。
おぉ、なんか面白いな。この小動物みたいな生き物。
「そ、そうだった。話というのは、まず先日の件での感謝だ。毒蜘蛛の件では世話になった。我々、奇跡協会ディアナ王国支部だけでは、あれだけの迅速な行動は無理だっただろう。資料を読んでいて、アルテミス様が『種』が看破されていると気付かれてな……それ故に、これだけの事ができる『百花繚乱』、とりわけノーマ殿との縁に大層喜んでおられたのだ」
お、おぅ。感謝している割には、ローズとごたごた起こしてるって大丈夫なのか?
しかし、アルテミスが大層感謝していた、ねぇ……あの堅物女が大層喜んでいる姿なんてあまり想像できないんだけどな。
カリストが言うのだから信じるしかないが……
しかし、資料にはあえて書かなかったが『種』がバレているって気付けたのか。流石だな。
「それは良かったです。俺たち『百花繚乱』として裏路地の件は偶然の関与でしたが、奇跡協会にご協力できた事、光栄に思っております。今後とも、協力関係を築いて行けたら嬉しいものです」
「うむ……だが、その……申し訳なかった!」
今度は頭を下げだした。情緒不安定か? さっきまでの威勢の良さはどうしたんだよ……
頼むよ。奇跡協会の協会騎士なんだろう? 冒険者とは一緒にされたくないんだろう? もう少し、偉ぶっていてくれよ……この間からのギャップで調子狂っちゃうって。
「な、何がでしょうか?」
「……我々では至らぬ部分がありながら、それを気付かずに冒険者は野蛮で粗野で愚かだと、下に見ていた。今でも大半の冒険者には同じ感想ではあるが……ノーマ殿は違うと気付いた。申し訳ない……アルテミス様の変わり様を見て理解したのだ。私は奇跡協会の協会騎士だからと、うぬぼれて居たのだろう。それに折角の情報で捕まえた毒蜘蛛の幹部、カブトも死なせてしまった……申し訳ない……」
凄い、神妙につらつらと言うじゃん……
え、もしかしなくても、話があるってこれ?
「もしかしてですが、今日の件って感謝と謝罪ですか? え、さっきまでの態度は!? なんであんなことになってたんですか!?」
俺の言葉に先ほどまでの状態を思い出したのだろう。
カリストは顔を赤くしながら捲くし立てる様に言う。
「う、うるさい! い、一度された事は返さないと気が済まなかっただけだ! どうしてもやり返さなければ前に進めなかったのだ! 良いだろう!? ノーマ殿も同じ事をしたんだから!」
駄々っ子かい!
はぁ、まぁ? 別に被害を被った訳でもないし、今はこうして普通に話すようになってるし……良いんだけどさ。なんか、年下の妹でも見てる気分だよ。ノインよりも年上だろうけどさ……
「そうですか……いえ、もうこの話はやめましょうか。なんの益も生まない話です。水に流すのが一番いいでしょうし……」
「う、うむ……それで、感謝と謝罪の件以外でもう一つある。『百花繚乱』は訓練場にアダマンタイトを、という話があるだろう?」
どこから聞いたんだ……? 『種』が俺らを嗅ぎまわっているとも思えないけれど、このクランの訓練場とは言え、別に外部に喧伝している訳でもない。
「……どこでそれを?」
「じゃ、邪推しないでくれ! 我々、奇跡協会の所有する鉱山のアダマンタイト鉱石をランドルから譲って欲しいとの話が出たのだ! そこから話を聞いただけだ!」
ランドルから奇跡協会に? 伝手ってのは奇跡協会なのか!?
あの爺さん、奇跡協会に縁があるのか!
待て、もしかして結界紛いの魔具って、もしかしなくても……
いやいやいや、カリストに関係を聞いてみない事には分らんだろう!
「ランドルから……? なぜ、奇跡協会と……」
「こ、これはランドル殿が言うべき話だろうから、私から言う事はできない。だが、我々に訓練場の件で話が来た。そこで、だ。アルテミス様と私で判断をして、優先的にアダマンタイトを回す事に決めた」
これでお返しチャラはキツイな。できれば工数がかかっても良いから、別の件でお返しを期待したいんだが。
旗色は怪しいが、確認をとるしかないか……
「これは、協力のお返し、という事ですか?」
その言葉にカリストは慌てて手を前に出して首をぶんぶんと振る。
「ち、違うぞ! これはあくまで今までの詫びだ! それに今後とも良い縁を願う気持ちからの心づけだ! 勝手にこちらからやらせてもらうだけなので気にしないで欲しい!」
慌て方を見るに、本当に気にしなくても良さそうだな。
ほっとしちゃうぜ。なんせ、手間はそこまでかかっていなかったとは言え、インフィオが危険を冒した情報だ。アダマンタイト程度――高額ではあるが、暫くすれば手に入る物に安売りはできないからな。
「そうですか。ではありがたく、その心づけ受け取らせていただきます」
「それと……」
ん? まだ何かあるのか?
「できれば、奇跡協会に偶に顔を見せにきて欲しい。アルテミス様がおそらく、喜ばれるだろうからな……」
なんとも複雑そうなお顔をされますね、カリストさんや。
いや、まぁ、別に偶になら良いけどさ? 本当に喜ぶんだね?
「分かりました。こちらの手が空いている時に伺わせて頂きます。お話は以上ですか?」
「うむ、アルテミス様もこれで喜ばれるだろう。あの方は、認めた者には懐の深い方なのだ。奇跡協会以外では珍しいが、ノーマ殿の事は大変気に入られている。私としても、そう言ってもらえると嬉しい限りだ。後日、武闘祭の件でまた会うだろう。では、いきなり邪魔をして悪かった。失礼する」
話が終わり、カリストが優雅に立ち上がると綺麗なお辞儀をする。
武闘祭? あぁ、祭典で結界を張るのは奇跡協会だもんな。そこで俺も観戦する際にまた会うだろうって事か。
個人的には余り楽しくはないんだけどな……
そんな事より、こうして普通に話すと礼儀正しいんだよな……でも、やっぱりなんか不器用な奴だ。
良く言えば、真っすぐ。悪く言えば、猪突猛進。
どっちも変わんないか? でも、根は良い奴なんだろうな。
「いえ、そこまでかしこまらずに。なにせ、今後も長い付き合いなのでしょう? 気軽にノーマと呼び捨てて頂きたい。協会騎士であるカリスト様は世間的に身分が上なのは事実ですから」
「……いや、それなら私の事もカリストと呼んで頂こう。私は冒険者を見誤っていた。皆が皆、とな。だが貴方は違う。だからこそ、対等の呼び名をお願いしたい。それに私個人には丁寧な言葉も今後は不要だ。喋りやすいようにしてくれて構わない」
「分かりました。ではカリスト。今後ともよろしくお願いします」
「あぁ、ノーマ殿!」
殿ってついちゃってるじゃん! 俺だけ騙されて言ったみたいになっちゃったじゃん!
「同時に言おうね! せーの!」、で俺だけ本音言っちゃったみたいじゃん! ねぇ、カリスト!?
そのまま気付かずに出て行っちゃったよ……今から言うのも、微妙だし……良いや、もう。
「ガウルに知力がもう少し付いた感じが、カリストみたいな感じだな……」
俺は少しだけ、カリストと仲良くなった。




