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3:染み付いた批評

 クランでの活動は多岐(たき)に渡る。

 所属冒険者からの運営費の徴収(ちょうしゅう)、ダンジョン探索の情報の真贋(しんがん)判定、物資の確保、武具や防具の相談と手配、ギルドへの依頼斡旋(あっせん)、依頼獲得。


 クラン員の肉体的、精神的なケアは当然の事ながら、訓練方法の指導や私生活における問題までも。


 そんな中、俺はクラン長の机に座り実務に性を出していた。


「百花繚乱のクラン運営費、結構潤沢(じゅんたく)になったよなぁ…」


 パーティー『開花(ブルーム)』に始まり、『雨上がりの虹(レインボウレイン)』、『踏みしめる大地(ステップグラウンド)』、『陽光注ぐ草原(サニーグラス)』、『風運ぶ音色(ウィンドサウンド)』、『見晴らしの丘(ヒルビュウ)』、『月浮かぶ湖面(ムーンレイク)』の7つのパーティーがクラン発足時に参加した『百花繚乱』。


 今ではクランと分けて7つのパーティー合わせて呼ぶ場合、花扇(はなおうぎ)とも呼ばれている。


 これら全てが俺の誘いを受けた主要パーティーだ。


 当時、伸び盛りのCランクパーティー『開花』より下であり、かつ伸び悩む20歳以下までのパーティー。

それが他の主要パーティーの実情。


 それを打開しようにも他クランでは門前払い、運良く入っても下積みの様な扱いや搾取(さくしゅ)されかねない現状だった。


 その為の弱小パーティー互助組織(ごじょそしき)として、クランを自ら作ろうと彼等も考えていたが実行に踏み切れていないのを、ちょうど冒険が辛かった俺が目を付け誘った。


 クラン設営は15歳から3年間のパーティー活動で武具や防具を新調する必要すらなく、特に散財する趣味もなく溜め込んでいた俺が全て支払った。


 その際にクランには事務担当、情報分析担当、交渉担当、といった各担当を確保し、現在では各担当人数も大幅に増えて『百花繚乱』は運営される運びとなっている。


 副クラン長はいないが、部門統括秘書長としてのローズが近い役割を果たしている。


 コーヒーを(すす)りながら今日の仕事も一段落と扉を開くと、ローズがクラン長室前の会議スペースで各部門長とミーティングをしている最中であった。

 (わき)を通る際に(ねぎら)いの言葉でもかけておこう。

 彼女達がいなければ円滑(えんかつ)なクラン運営などできないのだから。


「お疲れ様、ローズ」


「ノーマさん、お疲れ様です。如何(いかが)しました?」


「少しアイシャ達『雨上がりの虹(レインボウレイン)』の様子でも見とこうかなって。最近はお昼頃に出歩かないし、丁度良いしね。報告だけ聞いてると実際はどうか判断付かないし」


 ローズが思い出すように言う。


「今は『雨上がりの虹』は新人を受け入れていないので問題ないと思いますが?」


「皆、俺よりは強いけど、正しく依頼を渡すには定期的に見とかないと微妙な違いが出るんだよ、ローズ。ハンターは常に変わり続ける生き物だからね。良くも悪くも」


「そうですか。私も認識がまだまだ甘いですね。では今でしたら、『錦の旗』に『雨上がりの虹』の方々が訓練場にて稽古されていると思います」


「分かった。『錦の旗』なんてところ、所属してたんだね」


 そう言って俺は訓練場のある地下1階に向かう。


 アイシャ達に教えてもらっているのなら大丈夫だろうけど、優しいからなぁ。(ゆる)んでないと良いんだけどね。

 まぁ、今回はアイシャ達を確認するだけで終わらせようかな。今後も(くさ)っていなければ拾い上げれば良いだけだ。


…………



 ノーマとローズの会話が終わるまで静かにしていた部門長達。

 会話が終わったのを見計(みはか)らい、声をかけ始める。


「ローズさん、ノーマクラン長って『錦の旗』を覚えてないんですか? 今まで疑問だったんですけど」


 食料管理部門長の女性――フーディーが言う。


「というより、大体の下部組織の所属って覚えてないですよね。クラン運営に(たずさ)わる私たちの名前は覚えているのに」


 武具防具部門長の女性――アーミンも不思議そうに言う。


 その言葉を聞いて、首を横に振りながらローズは答えた。


「覚えていない、というよりも冒険者だけはノーマさんは意図的に記憶から消して覚えないようにしているのよ。私も一度聞いた事があるのよ。なぜ、冒険者の名前を覚えないのかって。なんて言ったと思う? ノーマさん」


 ローズは一呼吸の間を置くと告げる。


「『見込みがあれば覚えるよ。見込みがなければ勝手に腐って無能者の俺の記憶からも残る事もなく消えれば良いのさ。それだけの価値しかない徒花(あだばな)に、興味など持つだけ無駄(むだ)だよ』って言ったの」


 ローズが女性にそう言うと、フーディーが身震(みぶる)いして言う。


 「こ、こわ……」


 ローズは部門担当者、ノーマが向かっていった方をもう一度見て、再び部門担当者とのミーティングを再開した。



…………



 地下一階に到着すると様々な音が聞こえてくる。

 轟音(ごうおん)剣戟(けんげき)怒号(どごう)、情けない声。


 それらを気にせずに訓練場の扉を開き、指導しているアイシャに声をかける。


「1週間ぶりだね、アイシャ。『雨上がりの虹』の皆も。訓練はどう? (はかど)ってる?」


 その瞬間に当たりの空気が重くなった気がした。


「ノーマはいきなり来るなぁ。もう少し訓練生にも優しくしてやりなさいな」


「優しいでしょ? 厳しくなんてしないよ。俺は、俺が見るべきものを見るから」


 訓練生を見て続ける。


「うん、まだいいかな」


「ほら、厳しいじゃない。だから怖がられるんだよ?」


 怖がられているなんて心外だな……

 俺のどこに怖がる要素があるんだよ、全く。


「あはは、だけど俺自身は『開花』で1番の低ランクのD。それに彼女達の呼び名、六花に入らないお邪魔(じゃま)虫だよ? 怖がる必要は全く無いのに」


「はぁ…ほら、訓練生! 緊張するんじゃない! 私が話しながら受け止められる内は名前も覚えられないよ!」


「アイシャは酷いなぁ。そうだ、リンの魔術でも見ようかな?」


「え!? ま、待って! 折角来たのに、私の剣は見ないの!?」


「だって酷い扱いするじゃん。俺だって傷付くんだけど?」


「うぅうう! 分かった! 悪かったわよ! せめてもう少し見ていってから、メンバーの所行ってくれないかな、お願い!」


「そう? そこまで言うなら見ててあげる」


「これがなければなぁ……」


「なにか言った?」


「言ってない! ふぅ……スゥ~ハァ……」


「へぇ、大分早く整えられてたね」


「ノーマに言われたから頑張ったんだよ」


「うん、綺麗(きれい)だった」


 何度か見てきたが、今までで1番綺麗だったな。


「ななななな、なな、にゃにを……」


 アイシャは何を想像したのかな?

 まだまだこういう事に免疫(めんえき)がないから、からかい甲斐(かい)がある。


 俺はニコリと笑って言う。


「綺麗に、呼吸を、整えてたよ」


ニッコリと伝えるノーマに、なぜかガックリとしながら再度呼吸を整えるアイシャ。


「では、錦の旗、前衛。来なさい」


「う、うぉおおお!」


 声を上げながらアイシャに斬りかかったけど……

 あれじゃ、駄目だな。


 視線はしっかりと相手の全体が見れていないし、剣筋も予想しやすい。


 俺達が相手にしているのは知能を持ったモノもいる。

 あの程度のレベルだとその内に行き詰まるだろうな。


「甘いな。(にぎ)りも甘ければ剣筋(けんすじ)も甘い。その上、視線と体幹(たいかん)も甘い。駄目だ、やり直した方が良いな」


 ボソッっと呟くと、彼は力を抜いて項垂(うなだ)れ、剣を振り抜かないまま止まってしまった。


「ちょ、ちょっと! 最後まで頑張ってよ!」


「アイシャ、もう少し厳しくしてあげなよ。彼らに甘くしちゃ駄目だよ?」


 彼らもなぁ……もう少し、やる気になれば良いのに。

 それこそ『雨上がりの虹』に訓練付けてもらえているんだからさ。


「そ、うかな……今のやり方ではいけなかったかぁ。ありがとう、ノーマ。私達の教えはどうも甘くなっちゃうみたい……」


「どういたしまして。アイシャ達の美徳ではあるけど、こと才能持ちにその対応は胡座(あぐら)をかいてしまう。だから皆、上に上がれなくなる。俺には無い才能を持っているのに」


 嫉妬(しっと)混じりで申し訳なくもなるが、彼等は俺が望んでも開花しなかった才能を得ている。

 どうしても厳しい目を向けてしまう。


「持たざる者は必死に勝手に、死なないよう努力し、才能持ちにはそれだけじゃ届かないから別の努力も試す」


 自分の事だ。

 情けない話だが、俺は昔、冒険者はやめとけ、死なないようにな、と笑われて言われ続けた。


 だが、幼馴染(おさななじみ)達と冒険を続けて行く内に、生き残る(すべ)は幾つも試してきた。


 前衛は数度試したが厳しい。

 中衛なら死なないぎりぎり。

 後方支援では冒険中に魔力が足りなくなる。


 だからこそ、パーティー指揮に移りながら、中衛で生き残る為に常に考え続け、仲間や魔物を観察し続けた。


 持たざる者には思考とアイデアでしか追い付く術がほぼ無いからだ。

 まぁ、そんな物では(くつがえ)せない領域がある。だから夢を(たく)して諦めた訳だが。


「持つ者は堕落(だらく)すれば一瞬で(くさ)っていく。元々、才能に甘んじているだけだから、その先には行けない。だから見抜けない。自分の強み、弱みを……」


 そこまで言って言い過ぎたと思い直す。


「もうやめておこう。俺は(つぶ)したいんじゃない。伸びたら良いなとは思っているんだから。名前を覚えるほどに、ね」


 彼等が一角のパーティーに成れる事を祈ろう。

 才能があり腐らなければ、ランクも上がるだろう。



…………



 アイシャは扉を出ていったノーマを見送るとつぶやく。


「ノーマらしいなぁ。ふふ。皆、厳しく行くからね?」


「俺はアイシャさんが厳しくする事よりも、ノーマクラン長が怖いですよ。あんな一瞬でアイシャさん達に言われてた事まで看破(かんぱ)されて……」


 恐れるように言う訓練生の剣士にアイシャは告げる。


「まぁ、昔からあんな感じだったよ? 昔よりもどんどん鋭くなってきてるけどね」


「創設時に俺たち、参加できてないですから……今だって、ギリギリ加入前の訓練生ですよ……それであんな事を言われちゃうと(きも)が冷えますよ」


 その言葉に笑いながらアイシャは言う。


「あはは、今からそんな事を言ってたら訓練生止まりで終わっちゃうよ? なんせ、創設時のパッとしなかった私達や他パーティーが育ったのだってノーマのお陰だからね」


 訓練生の盗賊がその言葉を聞いて反応する。


「噂レベルでしか聞いた事なかったっすよ。実際、大体の才能持ちがノーマさん馬鹿にしてますし。なんせ、本人の実力が万年D級どまりで、才能なしの無能者っしょ?」


 無能者、という言葉にアイシャがぴくっと反応し、言う。


「もう一度、私達のクラン長、ノーマの事をその呼び方で言ってみろ。その時はノーマが許しても、私達が許さない。花扇を全員、敵に回したければ、もう一度言えば良い。このクランに所属する者がその名で呼ぶ事は訓練生であろうと誰であろうと許さない。ノーマにはそんな呼び方ではなく『花園の批評家(レビュアー)』って異名がある」


 本気で怒っている事を知っている訓練生の剣士が(あわ)てて盗賊に詰め寄って言う。


「ばか!! 他の訓練生が同じ事やらかしただろ!! 忘れたのか!! 謝れ!!」


「あ、あぁ、す、すみません!! 申し訳ないっす!!」


 慌てて言う盗賊にじろりと目をやり、アイシャは言う。


「次は無いから……じゃぁ、訓練に戻ろうか? 才能持ちの訓練生」


 それから再び訓練に戻る訓練生の錦の旗。


 しかし、ノーマが来る前と後で、過酷さは天国と地獄の様な差があった。

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― 新着の感想 ―
冒険者の名前を覚えない理由が、割とハッキリしているんですね。 自分自身の経験含め、ある意味嫉妬も含んでいても、伸びてほしいとの願いや激励があって良いですね〜。 そうして、レビュアーと呼ばれているっての…
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