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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
3章 忍び寄る不穏な影

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27:インフィオによる調査

…………



 インフィオはノーマからの命令を受け、即日、即座に動き出していた。

 少しばかりの化粧と粘着質なスライム液で顔の輪郭りんかくを変えていく。


(まずは裏路地に紛れ込まないとだね。ノーマには軽くって命令を受けたけど、しっかりと調査して驚かせてやろっと)


 インフィオの頭には既に幾つもの道筋が浮かぶ。

 毒蜘蛛であればどのような搬入、撤収、侵入経路を持っているかを熟知している。

 元々の所属先ではあったが、インフィオに情のようなものはない。ただただ機械のように疑問を持たずにこなしていただけの毎日。それが日常であり、染み付いていた。


 きっかけ――ある少女の願いを聞くまでは。

 訓練により忘れる事のなくなった記憶の奥にある、大事ではなかったが大事になった気がする物。


(あの組織にいながら優しい心も残したまま、一緒に行動してくれた名前も知らない銀髪の彼女……良く勝手に喋っていたね。辛い気持ちは吐き出すと楽になるわ、なんて言いながら……最後は、もう嫌だ、と命令を拒んで用済み、無残にも”廃棄”とされてしまった。だけど、そんな彼女の死ぬまでの僅かな時間の、涙ながらの呪い――約束。「逃げのびて、良く生きて、見て、触れて、当たり前を楽しんで。私はもう、難しいから」か……楽しく生きてるよ。これは当たり前ではないだろうけど、今はとっても生きているって思えるよ)


 毒蜘蛛の件でなんとなく思い出してしまったその思考を、振り払うようにして任務に集中しなおす。

 裏路地の汚れた土やホコリをこびりつけていく。

 そして、汗を吸って酸っぱい匂いのする小汚いボロの服を通りの住人から失敬して羽織り、顔も隠したままうつむきで歩く。


 先ほどまでとは打って変わり、まさに裏路地の住人として相応しい姿、立ち振る舞いであった。

 だがそんな裏路地の住人と化したインフィオだったが、周りを見ながら違和感を覚える。


(おかしいな……ここの住人の3人は誤魔化しているけど、匂いが違う……表の住人と接触していると気付かずに香水の匂いが微量だけど漂ってしまう……それの匂いだ……どこかの組織? 奇跡協会かな? それとも……)


 匂いのする住人を気付かれないように尾行していく。


 暫くするとその3人組は立ち止まり、隅によって話を始めた。インフィオも立ち止まる。

 身体強化で感づかれる可能性も考え、インフィオは断片的ながら話を聞き取りつつ、口の動きからも話を読み取り補完していく。


「……供給組織からの接触はあったか……?」


「ないままです……このままでは奴らに後れを取るのでは……」


「……四方の種も範囲を狭めていっている。じきに居場所を掴むはずだ……今は目立たずに待機だ。焦って動けば感づかれる」


(なるほどね。奇跡協会の手の者か……毒蜘蛛の陰者が見張ってるとしたら、多分バレてると思うけど……泳がされてるのかも? それならここじゃないか。四方から狭まって、既に確認済みの地域かな? 複数の地下通路とかで裏路地は蜘蛛の巣が張られてるし)


 インフィオは3人組の話から位置を予想して動いていくと、奇跡協会の『種』の匂いのしない外れにきた。

 人の出入りの少ない通りであり問題もない。また、このあたり一帯は一見するとただのボロい建物が建っているだけ。


 いくつかの建物に入っていく人間は裏路地の住人で特に問題はない、とインフィオは判断しながら一帯の監視を続けていく。


 すると、ある建物から出てきた住人の歩き方、足音、服のふくらみが入る前と微妙に違う事にインフィオは気付く。


(この建物、出入りする人間は数が少ない。けど明らかに皆、慎重な歩き方になってる……もう少し監視してみよっか。多分、当たり、だろうけど)


 しばらく見続けていると、今度は裏路地の住人でも奇跡協会の者でもない匂いが漂い始める。

 それは、ある花の匂い。


 インフィオは訓練で学んだ記憶から、花の種類を匂いから同定する。


(この匂い、ピリピリする刺激臭だ……間違いない、アコニツム花をすり潰した際の香りだ。染み付いているのは一人だけ。毒蜘蛛の製剤部門のカブトだ。やっぱり毒蜘蛛――!?)


 身を乗り出して建物横から建物内部を調査しようとしたインフィオだったが、すぐさま姿勢を低くして身を隠す。


 すると建物から一人の女性が出てきた。ワインレッドのような紫のフードにパンツルックであり、裏路地では派手に映えるが、通りの少数の住人は気づかないまま。


 足音は聞こえず、そして柑橘かんきつ系の匂いもこれだけ近付いていても、微かにしかしない。しかし、インフィオには確かに女性がそこにいて、自分の付近が見られている、と感じる。

 鼓動が早くなりそうになるのを抑えて隠密おんみつてっしようとする。


「……懐かしい気配、と思ったけれど。気のせいだったか?」


 女性は静かにそう呟くと、再度周囲と天を仰ぎ見て建物に戻る。遠ざかるにつれてインフィオの鼓動も徐々に落ち着いていった。

 インフィオは、また出てくるかもしれない、と注意しながら監視に戻る。


(あの女……カブトだけじゃない。暗殺部門の陰者トップまで裏路地に出向いてきてる。これは相当に動きが早いはず……徹底して調べるにしても、あの女、陰者――インクローズがいるから厳しいかな。全体像の把握と現状の出入り口の予想だけになっちゃうか……そうすると、一網打尽は無理そうだね。ノーマにも早めに知らせておかないと。サンプルも欲しいかな……? バイヤーから一応奪っちゃおうっと)


 インフィオは思考を巡らせ終わると建物を離れ、裏路地の全体を確認して回った。



…………

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― 新着の感想 ―
「大事ではなかったが大事になった気がする物」 素敵なフレーズです。(*´ω`*) てっきり奇跡教会が主導するマッチポンプ劇かと思いきや、インクローズや毒蜘蛛組織で読みが外れました。 これはインフィオ…
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