26:悪だくみの下準備
インフィオとともにクラン室へ向かうと、応接用のソファに座って顔を突き合わせて話を切り出す。
「今回は、もしかすると辛い事を頼むかもしれないが……良いか?」
「良いかなんて聞かないでよ。有無を言わさず言えば良いじゃないか」
インフィオは笑いながら、ショートボブの銀髪を妖艶に耳にかけながら言う。
こいつ、当時の事を思い出しながら言いやがったな?
本当、感情豊かになったよ、お前は。
「んじゃ、頼むとするか。どうも裏路地で精神薬剤が流行ってる。それについて、どこが流しているのかを調べて欲しい。もしかすると奇跡協会が狙ってる何者――組織かもしれないからな。ただ、な……」
言い淀んでいるとインフィオが言葉の先を告げる。
「気にしないで良いよ。もしかすると、前の所――毒蜘蛛かもしれないって言いたいんだろうけどさ。あそこからは既に死人として扱われているから、平気さ。それに昔よりも強くなったからね」
何の事はなく、あっけらかんと言うな。
こっちとしては心配になっちまうんだよ。なんだかんだで無理、無茶してねぇかってな。
まぁ、その無理無茶を命令しているのは俺なんだけどさ!
「そうか……本当、お前は『百花繚乱』にとってかけがえのない存在になったな……」
そう呟くと、インフィオが悪戯な顔で顔を近づけてくる。
「『百花繚乱』じゃなくて、ノーマにとって、じゃないかな?」
……何も言わんぞ。
えぇい! にやにやしやがって! デコピンしてやる!
「あうっ!?」
インフィオが珍しく避けずにデコピンを食らうと、これまた珍しく可愛らしい声を上げ、額を抑えた。
「珍しいな……お前、だいたい避けるのに」
まじまじとインフィオを見ていると恨み節が尖らせた口から紡がれた。
「なんだよ酷いなぁ……意外と痛いじゃないか……」
避ければ、こんにゃろって思うが、避けないと居た堪れなくなっちまうとは……
こいつ、性別不詳でも美人だからなぁ……そんな目を潤ませて俺を見てくれるな……心が痛くなってきたわ……
「悪かったよ……まぁ、なんだ……大事だよ」
すげぇ、こっぱずかしいな……照れないように言うのなんて無理だろ、これ。
そんでもって、そんなににやにやしながら見るな! こいつ、わざと目を潤ませやがったな!
えぇい! これだからこいつは!
「はは、どうも? じゃぁ、本題に入ろうか」
インフィオが今回の悪だくみについての詳細を聞いてくる。
そこからはお互いに気持ちを切り替えて話し出す。
「できれば背後関係と奇跡協会の狙いまでセットで軽く情報を洗えると助かるな。ただ、絶対に薬剤供給者と奇跡協会に見つからない範囲で良いからな。大きく動く段階にはまだ来ていない」
「分かった。それでノーマはその後にどう動く予定なの? 今のところ、『奇跡協会』が貸しと考えるかどうかの曖昧なメリットくらいだよ。メリットらしいメリットが見えてこないよ」
インフィオが机に頬杖を付きながら聞いてくる。
まぁ、確かに現状だと奇跡協会が貸しと考えるかは不確定だろうな。
だが、そこにひと手間を加えてやるのさ。貸しと思われるためのスパイス――謀略ってやつさ。
「そこをどうにかするのが俺の仕事ってな。今回の件、奇跡協会が追っている代物が、魔力を帯びた精神薬剤――便宜上、魔薬と名づけるか。魔薬だった場合は、奇跡協会は何としてでも拡散を抑えようとする。だが、今時点で相当数流通している魔薬を短期間、かつ完全に経路を辿って食い止めるのは、如何に奇跡協会といえども難しいはずだ。そこで俺の出番だ。インフィオの情報を基に実際に使用されている経路と他予想されるだろう確度の高い経路を示してやる」
俺はインフィオを見て笑顔で告げる。
「そして、こう告げてやれば良い。これは善意の行動である、と。そして、新規ダンジョンでの詫びだ、とな」
俺の発言と笑顔でインフィオが楽しそうに言う。
「そんな事したら表立って怒れないね。善意を無下にもできないし、詫びなんて言われたら余計に貸しにしたいって意識しちゃいそうだ。わぁー、ノーマはあくどいなぁ?」
そんな事を言いながら、お前だって楽しそうじゃねぇか。
まぁ、実際……こんな風に下に見ている者からの善意と詫びだ。意識しない方が無理だろう。それに少し話しただけだが、アルテミスとカリストの性格を考えれば……冒険者からこんな事を提案されたら十中八九、いつか返す当てのある貸し、と設定してくるはずだろう。
そういう方向に持っていきやすい様にも誘導するつもりだが、何もしなくてもその方向で話が着地する可能性は高い。
なので、インフィオの行動は重要だ。
改めて真剣な顔に戻して声をかける。
「そういう訳だ。だからこそインフィオの仕事は重要だ。手始めに軽く全体像を掴んで、徐々にタイミングを見て行動を大胆にしていく。最終的にはがっつりと経路を把握し、情報を精査し予想。最後の締めは奇跡協会に売り込みに向かい、事態の終結と貸し1つだ」
「分かった。じゃぁ、早速だけど行動しちゃおうかな。軽くだったら1日~2日で洗えるだろうからさ。多分おまけで経路も見つけられると思うから……期待して待ってて」
ウインクをして言うインフィオを見る。
あぁ、頼りにしてるぞインフィオ。
なにせ、お前にしかできないだろう事で、それが何よりも重要だからな。
お前なら無理無茶でも俺の創造を飛び越えて、安全にやりこなしてしまうだろう。
なんせ、『百花繚乱』発足前に見つけた開花済みの花。それが今では生まれ変わり、更に美しく咲き誇る事となった花なのだから……
笑顔でインフィオに伝えてやろう。
「だから俺は……お前から目が離せないんだ」




